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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第二部 4章 『行く先を阻む包囲網』
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第160話 徳川家臣団と祈の交渉術

 その日の晩、徳川家康とのその家臣団に織田の4将を加えた合計20人ほどで軍議が始まった。


「まずは自己紹介から始めようか。今回の戦は織田軍と徳川軍の連携が大事になるからね」

「では俺から、織田軍の援軍2万の総大将・坂井大助。お見知りおきを」


 続いて佐久間信盛、平手汎秀、水野信元と織田軍の将が名乗る。


「じゃあ次は徳川家臣団だね。数正」

「ハ、徳川四天王筆頭・石川数正。お見知りおきを」

「徳川四天王・酒井忠次」

「同じく本多忠勝」

「同じく、榊原康政です」


 徳川四天王が順番に名乗る。続くのは


「儂は鳥居元忠と申すもの、よろしゅう」

「大久保忠世だ」

「二俣城主・中根正照」

「青木貞治」

「俺は井伊直政だァ。久しぶりだなァ、織田家最強ォ」


 以前模擬戦の時に戦った井伊直政君。相変わらず元気そうだ。


「次やる時はボコボコにしてやるから覚悟しておけよォ、何なら今からやるかァ?」

「今回は味方だ。この戦が終わったらまた相手してやるよ」


 そう軽く返事する。それに対しまだ何か言おうとした直政の頭がその隣のいかにも真面目そうな奴が引っ叩いた。


「アホが。今は重要な軍議の最中ぞ。しかも織田軍の総大将に何という口を利くのだ。大助殿、このアホが失礼した。我は先ほどの鳥居元忠の弟、鳥居忠広。お見知りおきを」


 直政を黙らせた。やるな。ちゃんと調教してるのか。

 その後も残り数人の自己紹介を聞き、本格的な軍議が始まった。


「信長様からもう1万の援軍が届くまで浜松城で籠城、援軍が到着して戦力差が埋まったところで反転攻勢に出る。これが俺と信長、その他の織田家臣団で練った基本戦略だ」

「僕たちとしても異論はないよ。もともと籠城で戦おうと思っていたしね」

「ですがあと1万なんて本当に今の織田軍に捻出できるのでしょうか?」


 家康は同意したが数正は織田の兵力に疑問に疑問があるようだ。その件に関しては上杉との同盟が成せれば大丈夫という結論に至った。それを説明する。


「つまり織田と上杉の同盟が成らなければ我らに援軍は来ないと?」

「まあそうなるな。こればかりは利家を信じるしかない」

「信じるしかない、だとォ!? そんな確実性のないものなんかに頼って大丈夫なのかよォ!! 俺たちはこれに負けたら滅びんだぞォ、わかってんのか、テメェ」

「口を慎め!! だが直政の言うことにも一理ある。ここで負ければ滅びる我らと援軍の大助殿ではこの戦いへの心持ちが違うのではないだろうか」


 直政に続いて鳥居忠広も俺に疑いの目を向ける。確かに滅びそうになってる徳川の家臣と比べたら危機感は少し足りていなかったかもしれない。でも籠城して負けたら俺たちも一緒に死ぬことになる。もうちょっと信用してくれてもいい気がするんだが。


「確かに、明確な根拠は提示できないのは俺が悪い。だが徳川が滅びるのは織田として許容できない。だからこその2万の援軍を織田家最強の俺につけてここに寄こしたんだ。それが何よりもの証明だ。」

「だからァ……!!」

「それに上杉との同盟は十中八九成る。武田は今大軍を率いてこの遠江に攻め込んできてる。つまり本領の甲斐信濃は今手薄そのものだ。上杉だって宿敵武田のこんな隙だらけの状況は見逃せない。だが今上杉は越中の一揆衆や有力豪族と激しい戦いを繰り広げてる。これを織田と一緒に抑えれば武田領に攻め込むことも可能になる。そしてその織田から上杉有利な条件の同盟を持ち掛ければ上杉輝虎は間違いなく乗ってくる」


 ここまでは確信があった。問題は兵を集めるのにどれだけの時間がかかるのか。最速でも2週間はかかると読んでいる。


「同盟の後、2週間。それだけの時間があれば必ず援軍は来る。これは確信だ」

「だから確証がねェッてんだよ!!」

「信じるよ」

「はァ!? 殿!?」

「大助と信長殿がそう言うんだ。信じよう。どっちにしろそれ以外で勝とうとしたら武田に急襲を仕掛けて信玄を討ち取るしかないんだ。それこそ全くの確証はない。それなら僕は信長殿と大助を信じる」


 家康の言葉で直政も他の家臣たちも黙る。家康の言ってることは全部的を得ている。自分たちの主に正論パンチされたら何も言えねえわな。


「これで基本方針は決まったね。じゃあ次は諸将の配置だけど……」


 軍議はそれからはスムーズに進行し各々の配置なんかを決めてから解散となった。こうして浜松城は対武田の籠城の準備が完了したのだった。



《祈》


 だいたい10年ぶりの越後国に祈は利家に連れられて足を踏み入れた。。前回は旦那様が川中島の戦いが見たいと言って遊びに来たけれど今回は違う。祈の行動次第で旦那様とまた生きて会えるかが決まる。


 利家と祈は上杉輝虎の居城である春日山城に向かう。信長の使者だということを伝えるとあっさりと入城を許可される。そしてあまりにもあっさりと城主である輝虎の前へ通された。


「久しいな、利家、祈。ん? 祈の夫、大助は一緒ではないのか?」

「はい。今回は大助はおりません」

「そうか、残念だ」


 輝虎さまは10歳も年を重ねても、相変わらず美しい方です。年をとって、カッコよくて、美しい、祈もこんな年の取り方をしたいです。

 それにしてもあの時あっただけなのに旦那様のことをはっきり覚えているのですね。さすが旦那様です。


「して、此度は何用か?」

「我が主、信長様は上杉輝虎さまとの同盟を結ぶことを考えておられます」


 ここは祈の出る幕ではありません。あくまでも大使は利家さま。利家さまの交渉がだめでしたらそこからが祈の出番です。旦那様によると今回の同盟は上杉にかなり利があるように結ぶため断られる確率は低いだろうと旦那様も言っていました。


「断る」


 あれ~? 断られてしまいました。


「理由をお尋ねしても?」

「確かに、この同盟は我らに大きな利を生むだろう。もしかしたら武田に領土を奪われた信濃国の諸将の土地を奪還できるやもしれぬ。だが、織田は比叡山を焼き、罪なき民を皆殺しにした。許しがたき悪事だ」


 少し前の比叡山焼き討ちのことで反感を買っていたようです。利家さまもこの返しは想定していなかったようで、明日以降に出直すつもりのようです。


「それで、祈。そなたは何故ここに居る。私に何か用があるのだろう?」


 利家さまも先に宿に戻り、部屋には祈と輝虎さまだけです。

 交渉するのなら今ですが、そんなことしたことがありません。言葉がうまく出てきません。


「まあ緊張もするものよな。そうだ、私も聞きたいことがいくつかあったのだ。先に聞いてもよいか?」

「は、はいっ」


 気を使わせてしまったでしょうか。


「織田の話はここ越後にもよく届いている。もちろん、その配下の武将たちもな。明智光秀、柴田勝家、そして坂井大助。この3人はよく名前を聞く。だから気になっていたんだ。確かに大助は戦闘力も高く、しかも忍者でもあるという大変便利な奴だが……そなたの夫の大助の武勇伝でも聞かせてくれないか」

「は、はいっ。旦那様は姉川の戦いの時―」


 旦那様の武勇伝を話しているうちにだんだんと話しやすくなっていました。輝虎さまはとても聞き上手な方です。


 そして、話は本題の同盟の件に戻ってきます。


「織田が今武田に攻め込まれているのは知っている。それで敵の敵は味方の要領で上杉に同盟を持ち掛けてきたのだろう?」

「それもあると思います。今、輝虎さまが苦戦なされている越中大乱は武田の手引きによるものですから、対武田で共闘できるだろうと旦那様も仰っていました」

「理解している。先ほども言ったがこの同盟は本来なら受けるべきものだとそうわかっている。だが私の私情が邪魔をする。信長のしたことは邪悪そのものだ」


 やはり比叡山焼き討ちのことが引っかかているようです。


「確かに信長様は少し乱雑な所があります。ですが旦那様は違います。比叡山の時も旦那様は信長様の目を掻い潜って女子供だけは逃がしたと言っていました。織田家の中でもそういう考えの人がいるというのはわかっておいて欲しいです」

「待て、あるじの命令に逆らって見知らぬ女子供を助けたのか? 大助が? そんな馬鹿な、下手をすれば命令違反で斬首ものだぞ」


 輝虎さまが驚きを隠せずそう言います。確かに普通では考えられないことかもしれません。


「そうか、大助も私と同じ、己の信条を貫くものだったか」

「そうですね。旦那様はまさにそうだと思います」


 輝虎さまはどこか嬉しそうです。


「また会いたいな。この目で確かめたいものだ」

「旦那様は祈を迎えに来ると言っていました。武田との戦に勝ってから」

「そうか。楽しみだな」

「ですから、武田に勝つためにどうか同盟してくださらないでしょうか? 旦那様も武田に勝つには輝虎さまと同盟しなければ厳しいと仰っていました」

「む……」


 ここが押し時です。


「確かに、比叡山のことがあったのは事実です。ですが旦那様や光秀殿のように己の信条を貫く、誠実な武将がいるのもまた事実です。どうか、旦那様に免じて同盟していただけないでしょうか!!」


 やれることはすべてやりました。輝虎さまは黙ってしまいました。自分でも必死で変なことや道理の通らぬこともいっぱい言ってしまったような気もします。もしかして失敗してしまったでしょうか……。

 

「わかった。同盟しよう。そなたに乗せられた気もするが……今回の武田との戦で大助が死ぬのは私も悲しい。私も一層坂井大助という男に興味が出てきたところだ」

「ありがとうございます!!」


 よかった。どうにかうまくいったようです。


「ただし」

「え?」

「大助が越後に来るのであろう? その時に1週間だけ、大助を貸してもらう。それが条件だ」

「えっ!?」


 どういうことなのでしょうか。全く意味が分かりません。貸す?


「その他の条件はまた明日、利家殿と話すとしよう」

「え、えっと……」


 祈が変なことを言ったせいで旦那様がまた大変な目に巻き込まれてしまいそうです。旦那様、ごめんなさい……!! 

 

 祈は心の底から浜松城にいる大助へ謝罪したのだった。



 祈の謎論法・旦那自慢が炸裂。

※ただしほとんどの相手に聞かないので注意。上杉輝虎がレアケースです。



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