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第156話 酒と思い出と渡月橋

 お風呂から出ると葵丸は疲れて寝てしまった。ここからは大人の時間だ。葵丸を別室に寝かせ、4人でお酒を酌み交わす。


「さっきの食事の時も思ったけどみんなで酒飲むと成長したって感じするよな」

「それわかる! あの頃は森の木のみを潰したのしか飲めなかったのに」

「あー、あったよな。たまに酸っぱいのが混じってるやつ」

「千代松は祈ちゃんに美味しいの作って貰ってたよな。あれ羨ましかったの覚えてるぜ」

「レモンの果汁と塩とか砂糖とかいろいろ混ぜたやつですね。あの頃の旦那様は稽古で毎日大変そうでしたから塩分と水分と糖分を同時に取れるものを思って」


 ほぼスポーツドリンクという天才的な代物だ。丹波やもみじはものすごい羨ましがっていた。


「あれからあっという間に16年か」

「本当だよ。お前は何千人の大将で俺は南の里の里長だ。こうなるとは思えなかったよな」

「おまけにもみじは大道芸人(もどき)ときた」

「お、見るかい? ハシビロコウ見るかい?」

「やめとけバカ。怒られるだけじゃ済まないぞ」

「痛ったぁ!? ちょっとちーくん、丹波が殴った!」

「お前の精神年齢が成長してなくて安心したよ」

「祈は少し心配ですが」


 丹波の殴り方も昔とは違い優しめにはたくといった感じだ。もみじの精神年齢はこのくらいがちょうどいい。俺はそう思うが丹波は大変そうだし祈ももみじに少し心配そうな目を向けている。もみじはそんな視線に気づくことなく酒瓶を呷る。

 

「ちーくんは祈ちゃんを殴ったりしないんだろうなー」


 そう言いながら丹波をチラチラ見るもみじ。やっぱり心配になってきたかも、こいついつまでもガキだ。


「確かに暴力を振るわれた事ありませんね」

「ほら! ほら!」


 うん、クソガキだ。むしろ退化までしてる思うのは俺だけだろうか。


「やっぱりちーくんのところ行こっかな」


 そう言って近寄ってくるもみじ。丹波は俺に申し訳なさそうに、


「すまん、千代松。こいつ酒飲むと精神年齢が下がるんだよ。ちなみに下がる精神年齢は酒の飲んだ量に比例する」


 精神年齢の低下と飲酒量がまさかy=xの式で表せるとは思わなかった。


「いいの!? ちーくんのとこ行っちゃうよ!」

「そこまでいうなら仕方ない。千代松、もみじのこと、任せたぞ」

「えっ」

「えええええええぇぇぇ!?」


 丹波の冗談に対するもみじのリアクションがオーバーすぎる。おかみさんに怒られるぞ。


「もういいもん。ね、ちーくん?」

「ダメですっ!! もみじさん離れてください!!」


 俺にくっつこうとしたもみじを祈が引きはがす。


「あー、祈ちゃん~~」

「えっ、ちょっともみじさん!?」


 次はもみじは祈にターゲットを変えもたれかかっていく。まさかの反応に思わず固まる祈。その祈に体重をかけ幸せそうに眼を閉じているもみじ。すこしずつ溶けているように見えるのは気のせいだろうか。


「もみじに酒飲ませちゃダメだな」

「ああ、普段は気を付けてるんだが……食事の時に飲んでて大丈夫だったから気を抜いてた」

「反省は後にして助けてください!! なんかもみじさんが絡みついてきて……!!」


 なんとかもみじと祈を引きはがし、いつの間にか眠りに落ちていたもみじを寝かせた後、やっと落ち着いた部屋で3人で飲みなおした。翌朝にはもみじの酒を飲んでいるときの記憶は抹消されていた。マジで酒飲ませたらだめなタイプだ、厄介すぎる。


 翌日、俺たちは金閣や清水寺なんかの京都の有名な観光地をいくつか回った後、最後に渡月橋にやってきた。


「春とか秋もいいけど冬の渡月橋も綺麗だな」

「ああ、山が白いのも伊賀ではあまり見られない光景だ」

「お団子も美味しいし!!」

「もみじさんは少し空気を読むことを覚えたほうがいいですね」


 風景なんかより手元の食べ物にばかり意識が向いているもみじ。左手の指に挟まれていた2本の団子はすでに無くなり、残す右手にあるみたらし団子の最後の団子を名残惜しそうに見つめた後、口に入れ串を引き抜いた。

 

 上手そうに食べるな、俺も買ってこようかな……これがバンドワゴン効果ってやつか。


 結局、5人で団子を買って食べてしまった。ま、こういうのも旅の醍醐味だよね。もみじは食べすぎだと思うけど。


「こういう観光地って上を歩いたり中に入ったりするより外から眺めてる方がいいよな。富士山とかも上るより見るほうが綺麗だって思うし」

「あるあるだよな。さっきの金閣も中より外から見たほうがすごかった」


 橋を渡りながら丹波とそんな観光地あるあるについて語り合う。だが前を歩く葵丸は楽しそうでそれに続くもみじと祈も目を輝かせている。ああいう風に楽しむのが観光地を満喫する秘訣なんだろう。比較なんてするものじゃない。こういうのは楽しんだもの勝ちだ。


 その後は京都に戻り、東海道を通って帰路についた。四日市で一泊し、丹波たちと別れる。


「じゃあ、またな。千代松」

「次は負けねえ。あと千代松じゃなくて大助な。あとあの件、無理かもしれないけど一応南の里の保朝とかとも相談しておいてくれ」

「ああ、わかった。大助……まだ違和感あるな」

「それも次に行く時までに矯正しておけよ」

「ああ、そうだな。いつでも来いよ、歓迎するからな」


 そう言った丹波と固い握手を交わす。もみじはすっかり仲良くなった葵丸を撫でまわしている。荷物をまとめていた祈も荷台に荷物を積み終えたようでもみじと別れの挨拶を交わす。

 

「もみじさん、前に別れるときに言ったこと、覚えていますか?」

「あ、あー……、アレでしょ? 側室を許すとか、あの時はあたしも初恋でちょっといろいろおかしかったと言いますか……」

「ここ10年で気が変わりました。側室なんて絶対に認めません。旦那様には祈のことだけ見て欲しいですから」

「あたしもいろいろ冗談は言ったけど、今更ちーくんをどうこうするつもりはないよ。丹波もいるしね」

「当然です。そんなことは祈が絶対に許しませんから」

「それにちーくんもあたしに気はなさそうだし。くー!! ちーくん本当にいい男過ぎる!! 十年ちょっとでカッコよくなってるし、しかも嫁一筋だし!!」


 前別れるときにそんな話をしていたのか。思い返してみれば伊賀を出てちょっとの間祈の様子が変だったような気もする。っていうかもみじ声がでかいわ。丸聞こえだぞ。


「じゃあまたな。伊賀にもまた顔出すよ。お前らも任務とか旅行とかでこっち来た時は寄ってくれ」

「ああ、そうさせてもらうよ。祈ちゃんも葵丸もまたな」

「うん!」

「丹波さまももみじさんもお元気で」

「うん! ちーくんも祈ちゃんも葵丸くんも元気でね!!」


 俺たちは岐阜へ、丹波ともみじは伊賀へそれぞれの帰路へつく。葵丸が二人が見えなくなるまで手を振り続け、もみじも無邪気にそれに応え続けた。


 こうして俺たちの家族旅行は幕を閉じた。


 久々の長い日常回、これで終わりです。再び戦続きの毎日が始まる。

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