第152話 丹波のリベンジと対俺専用必殺技
「えっ!? 丹波君とちーくんが試合するの!?」
「ああ、久しぶりにな」
「大忍術体育祭以来の真剣勝負だ」
急展開についていけてないもみじ。逆に冷静な祈。
「すっごい楽しみ!! 丹波君、もし負けたらあたしやっぱりちーくんの方行っちゃうかも。いいよね、ちーくん?」
そう言って俺の腕を掴むもみじ。祈と話して緊張が解けたのかすっかり昔と同じような感じになっている。
「だってよ、丹波。大丈夫か?」
「良いわけねえだろ! もみじふざけてんじゃねえ!!」
「へへっ、冗談。でも酷い負け方したら本当にちーくんと一緒に行っちゃうかもね?」
「うっ・・・・・・じゃ、じゃあ俺が勝ったら祈ちゃんを貰おうかな」
始まる前から精神攻撃を喰らった丹波が仕返しとばかりに俺にそんなことを言ってくる。だが祈りの反応はというと、
「別に良いですよ。旦那様は最強ですから。誰にも負けません」
唯一慌てているのは母親が勝負の賭け金になったと本気で思ってる葵丸。もちろんこんなのは冗談の範疇なのだが。もみじはともかく祈を渡す気は毛頭ない。
「じゃ、やるか」
「ちょっと待て。審判が来るから。あ、来た」
審判としてやってきたのは前里長の百地政永。生きてたのか。その意図が伝わってしまったのか、前里長は俺に説明してくれる。
「丹波に勝てなくなったから里長を譲っただけじゃ」
「丹波に勝てない?」
「ああ。今の丹波より強い忍びは今、この里にはおらん。その丹波とかつて大忍術体育祭で丹波を破ったお主がやるというのだ。面白い試合を期待しているぞ」
「はい!!」
あんなに強かった里長が丹波に勝てないのか。丹波、相当強くなったんだな。だが成長度合いでは俺だって負けていないはず。楽しみだな。
「只今より、上忍・坂井大助と里長にして上忍・百地丹波の試合を始める。双方、準備はいいな?」
「おう!」「はい!」
「では、始めッ!」
合図と同時に丹波の姿が消える。と思ったら後ろから攻撃が。そうそう、対忍者戦ってこんな感じだった。久しぶりだな。
俺は後ろからの攻撃を刀で受け、左手でリボルバーを抜き後ろを見ずに後方の丹波への早撃ちをする。だが流石に当たらない。だが丹波が一瞬離れたので振り返り丹波に向き直る。
「さすがだな。千代松」
「だからもう千代松じゃねえって。お前もな、丹波」
「当たり前だッ!!」
言葉と同時に丹波が刀で攻撃を仕掛けてくる。だが正面からの斬り合いなら俺の方が上だ。
俺は”柳葉之太刀”で丹波の攻撃を防ぎ、お返しに”突留”で丹波の頭を狙う。丹波は避けきれずに頬に赤い線が入った。
「やるな。だが忍術の稽古は怠ってるみたいだな! 火遁!」
突如、2人の間に炎が巻き起こる。火遁の術は攻撃兼目眩し兼牽制という強力な術だ。多くの武士は忍者と戦う際これに苦しめられる。多くの忍びはここで相手の死角に入り必殺の一撃を仕掛けてくる。そして丹波が来るのは、
「上だッ!!」
俺は刀を真上に振る。キンッという金属音が響き、わずかに遅れて丹波が少し離れたところに着地する。
「なんで分かった?」
「お前の得意技だろ。目眩しとか視界を奪ってからの上空から攻撃。昔どれだけそれでやられたと思ってる」
「ハハッ、そうだったな」
俺も丹波もお互いあの頃出来たことは全て知っている。新しい技が出来るようになったらすぐにそれを使って戦ったからな。手の内はお互い全て曝け出しているような物だ。
俺が丹波に勝つには丹波知らない技、つまり丹波と別れてから新たに習得した技を使って倒すしかない。そしてその勝利条件は丹波も同じ。俺の場合は剣聖に習った鹿島新當流や天真正伝香取神道流の技になる。丹波は俺が卒業した後に専攻した術を披露してくれるのだろうか。楽しみだな。
「火車剣」
丹波は刀の刃を指でなぞったかと思ったら刀から火が出た。なにそれかっこいい。ってそんなこと言ってる場合じゃない。
「行くぞ、千代松!!」
「来いっ!!」
名前のことにツッコむ間もなく丹波が突進してくる。燃えてる剣の対処なんて知らないがそれが剣である限り剣聖の剣術で対処できるはずだ。
「目眩しだよ」
「は?」
丹波が俺の間合に入ると同時に、” 鴫羽返”で応戦しようとした俺の耳にそんな声が入る。目眩し? 燃えてる剣が? いや、相手の言葉に惑わされるな。目眩しであろうとあれが俺に当たれば俺は負ける。” 鴫羽返”で・・・・・・。その時、丹波が懐から棒手裏剣を抜いた。右手で刀を振り上げながら左手で3本、棒手裏剣を投擲する。まずい、それは” 鴫羽返”で防げない。
「”乱之太刀”!!」
俺は咄嗟に”乱之太刀”で棒手裏剣を弾く。続く丹波の攻撃は”一之太刀”で・・・・・・、
「素直になったな」
「はぁ!?」
丹波は俺に攻撃することなく高く跳躍する。そして俺の真上で何かを落とした。焙烙だったらヤバい。そう咄嗟に判断した俺は後ろに飛ぶ。だが破裂したのは煙玉。周辺が煙に包まれる。
煙とは互いの姿を見えなくし、その隙に逃げたりする忍者の定番アイテムだ。だが立ち合いでこれを使う時は煙に紛れて敵を倒す、つまり使った側に圧倒的に有利な状況になる。煙があっても丹波には俺の位置が分かってて、俺だけ丹波を見失った。
だが俺だって煙玉を投げられた場所から動かないわけじゃない。つまり丹波は視覚以外で俺の位置を捕捉している。その手段は限られている。そしてそれはおそらく音だ。
俺は足音を消す。刀やリボルバーも音が鳴らないように。それで少し待つ。丹波が何か動きを見せるまで。
だんだんと煙は薄くなっていく。なにもしないつもりか? そう思ったところにまたいくつか煙玉が投げ込まれた。まだこの状況を続ける気か? 俺は意地でも音を立てないぞ。さらに10個以上の煙玉が投げ込まれる。視認できるだけで13個、本当はもっとあるのだろう。いや多すぎだろ。なんで?
煙が多すぎて俺の頭や肩には白い粉が少し積もっている。白い粉? 煙で? 煙玉は煙以外出さないのに? 何かがおかしい。
だが考える間もなく丹波が動いた。煙の奥に人影が見える。俺は即座にリボルバーを構え、人影に向けて引き金を引く。そしてリボルバーからでたわずかな火花、それが空気中の白い粉に引火する。
「は?」
ヤバい。やっぱりただの煙玉じゃなかった。これはまさか・・・・・・と思ったのと同時に後ろ襟を強く引っ張られる。そして煙からでた、と思った途端、試合会場の半分以上が吹き飛んだ。
「し、死ぬかと思った」
「ハハッ、俺の勝ちだな、千代松」
座り込む俺の後ろ襟を掴んでいたのは丹波。敵に助けられた。完敗だ。
「別れた時から考えてたんだ。お前に勝つ方法。その結論がコレ」
粉塵爆発。空気中の可燃性物質に次々と引火することで爆発する、超危険な現象だ。俺が煙の中で人影を見たらリボルバーで銃撃すると読まれた。引き金を引く行為がリボルバーだけでなく粉塵爆発のトリガーとしても作用した。
「お前はさっさと煙から出るべきだった。煙からでた瞬間を狙われるって思ったんだろうがその方がまだマシだったろ?」
「煙の中で音を立てると丹波の奇襲が来ると思ったんだよ。にしてもこの技、銃火器使う忍者にしか使えないだろ。よく思いついたな」
今の丹波の作戦は相手が銃火器を持っていること、忍者としての知識があることが絶対条件の戦法だ。煙の中で火遁を使う奴なんていないし本当に俺に対しての専用技みたいなもんだ。
「俺が十数年、お前を倒すために考えた技だからな」
本当に俺への専用技だった。丹波に勝ち逃げしたらこういう事になるのか。
「勝者、百地丹波!!」
丹波の勝利が宣言される。あーあ、勝ちたかったな。まだこの里には滞在するし明日にでもリベンジしよう。
粉塵爆発ってマジで危ないらしいですよ。