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第151話 再訪の伊賀国

 長い山道を1週間かけて抜けた先に伊賀国がある。伊賀国は最強忍者集団『伊賀忍者』の本拠地。俺が数年間過ごし、忍者としての技術を得た場所だ。

 

 伊賀の忍者の里に入れる人物は限られる。お金次第で何でもする伊賀忍者と言えどまずコネがなければ依頼することもできない。そもそも忍びの里には秘密がたくさんある。そんな場所に立ち入れる人は限られているのだ。


 そして招かれざる人が立ち入ろうとするとどうなるのか。


「そこまでだお客人!! ここから先は立ち入ることは許されぬ。引き返されよ!! さもなくばお命、無いものと心得よ!!」


 どこかから声が聞こえる。あの木の上だな。その木の方を向いて俺は頭上に短刀を掲げる。


「俺は伊賀の上忍・坂井大助!! そしてその嫁と息子だ。通せ!!」


 そう叫ぶと木から忍びがおりてくる。そして俺の持つ短剣を確認すると、跪いた。


「失礼いたしました。まさか上忍だとは」

「気にするな。俺がここを出たのはもう10年以上前だ」


 この短剣のおかげで楽々突破だぜ。やっぱ上忍ってのは格が違う扱いなんだよな。

 ということで俺たちは伊賀の北の里に十数年ぶりに入ることが出来た。


「どこに行くの?」


 葵丸がそう尋ねる。だが俺が最初に行きたいところは決まっている。


「俺の親友の所だよ」


 向かったのは里長の家。おそらくそこへ行けばあいつに会えるはずだ。


 里長の家の使用人らしき人に俺の名前と里長に取り次げとお願いした所、すぐに許可が出た。通されたのは俺とあいつが最初に出会った応接間。あの時は俺の横に一巴師匠がいてそれと向かい合う形で里長がいた。そしてその里長に呼び出される形であいつと出会った。


「久しぶりだな、千代松」


 以前里長が座っていた位置に座っていたのは俺が会いに来たその張本人。そしてその隣には見覚えのある、あれから十数年たっているのにもかかわらずまだ顔にわずかに幼さが残る美女。


「ああ、本当に久しぶり、丹波、もみじ」


 丹波ともみじ。伊賀での俺の大親友。二人は肩を寄せ合って、見るからに仲良し夫婦という感じだ。言われなくてもわかる、甘い雰囲気で。


「結婚、したんだな。おめでとう。丹波のことだからなかなかアプローチできなくてまだ恋人にもなれてない、なんてこともあると思って心配してたんだ」

「おい、最初に言うことがそれかよ。千代松、お前も結婚したんだな。お前らはそうなるだろうな、って思ってたが。しかも子供まで……とにかくおめでとう。祈ちゃんも」

「ありがとうございます。丹波さま。もみじも、おめでとう」

「うん、ありがとう、祈ちゃん」


 久しぶりだからかちょっと余所余所しいか。まあここはちょっと複雑だしな。葵丸も我慢しているが外に出たそうにしている。


「ちょっと、外行こうぜ。久しぶりにいろいろ見たいしな」

「いいぜ。じゃあ行くか」


 5人は伊賀の里にある商店街に繰り出した。この辺は食料品だけでなく忍者の使う道具なんかも売っていて、俺もここに住んでいた頃はよく利用していた。まあこの里で買い物できるところはここしかないんだけど。とにかく珍しい物も多いため葵丸もテンションが高い。

 先頭に葵丸がいてその次に俺と丹波、そのちょっと後ろにもみじと祈が続く。


「で、どうやってもみじを落としたんだよ?」

「ああ、それな。めっちゃ大変だったよ。主にお前のせいで」

「やっぱり?」

「ああ。俺はお前と別れた時にお前に発破かけられたろ? だからすぐに行動を起こそうとしたんだが、もみじはお前がいなくなってから随分と長いこと気分が落ちててな」


 自分で言うのも恥ずかしいが好きな人としばらく会えないと言うのは辛いことだったろう。いつもは明るいもみじだが随分と元気がなかったらしい。


「それでやっといつも通りになったかと思ったら『ちーくん、いつ戻ってくるのかな?』だぜ? 本当に参ったよ」

「でも結果的には夫婦になれた」

「2年前にやっとな。お前、別れる時に『次来る時に俺がもみじを貰い受ける』みたいなこと言ってたろ? 俺としてはずっとお前がいつ戻ってくるか気が気じゃなかったよ」


 信長が伊勢を取ったタイミングで来なくて本当に良かった。もし来てたら丹波の激しい恨みを買うことになっていた。


「って俺の方ばっか聞きやがって。お前の方はどうなんだよ?」

「俺はお前たちと別れて2年くらい経った頃かな。元服したのと同じタイミングでプロポーズして」

「元服、ああそうか。名前が変わったのか」

「今は坂井大助って名乗ってる」

「ああ、そう言えば保正がそんなこと言ってたっけな。っていうか保正と戦でやり合ったんだって?」


 ああ、伊勢侵攻の時な。あの時が俺の人生で一番死に近かったからよく覚えてる。戦場で気を失ったのは後にも先にもあの時だけだ。

 

「あいつ、結構な大きい任務って意気込んで出ていったと思ったら指2本無くして帰って来て、めっちゃ悔しそうだったんだぜ? 北の方にも顔出してやれよ。保正もさくらもきっと喜ぶぞ」

「それ俺結構恨まれてるんじゃ」

「ま、ちょっと勝負挑まれるくらいはするかもな。ここの奴らはみんな負けず嫌いだから」


 指吹き飛ばしたんだからめっちゃ怒ってるかもしれない。北の方にも顔を出そうと思ってたが怖くなってきた。


「もちろん、俺も含めてな」

「は!?」

「覚えてるか? 俺とお前の戦い、大忍術体育祭の前日と決勝戦。俺はお前に2連敗してる。またやりたいと思ってたんだ」


 そう言った丹波はニヤリと笑う。そして歩きながら話していた俺たちはいつの間にか大忍術体育祭の会場であった場所に辿り着いていた。


「やろうぜ、千代松。十数年越しの真剣勝負」

「もう大助だって言ってんだろ。仕方ないな」


 そう口では言っているが俺だって本当はやりたかった。強くなった俺を丹波に見せてやる。


 こうして俺と丹波の真剣勝負、丹波にとっては10年越しのリベンジマッチが始まった。

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