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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第二部 3章 『天下に向けての第一歩』
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第141話 覚悟の見せ方

 岐阜城大広間、ここで来たる浅井朝倉との再戦に向けて軍議が行われていた。


「知っての通り、宇佐山城が敵の手に落ち、守っていた森可成が討ち死にした。今も坂本にて敵はこちらに攻めてくる機を窺っている」


 信長はそう平然と話し始める。可成も昔から信長に従う側近の1人だった。信長だって辛いはずだ。


「よってこれに攻撃を仕掛け、宇佐山・坂本を取り戻す。出陣は夜明けだ。では、解散!!」


 そう信長が告げて広間から出ていく。続いて家臣団の面々も広間を出ていった。広間に残ったのは俺と、利家。


「おい、お前は出なくていいって俺は言わなかったか?」

「俺は戦うよ。お前の言う通り、俺には覚悟が足りていなかった」

「今は違うと?」


 利家が怪しむような目で俺を見る。確かに2か月そこらでそう簡単に人は変われない、疑われるのも仕方ないか。なら、


「見せてやるよ。俺の覚悟」


 そう俺は刀に手をかけて不敵な笑みを利家に見せつけた。



 岐阜郊外、そこで俺と利家は互いに武器をもって向かい合っていた。利家は木槍、俺は木刀一本。周りには俺の隊の皆や騒ぎを聞きつけた町人など多くの観戦客がいる。その中には祈と葵丸までいた。二人にカッコいい所を見せなくては。


「祈、これ預かっていてくれ」


 俺は普段装備しているリボルバーをケースごと祈に手渡そうとする。だが小さな手が横から出てきてそれを持って行ってしまった。


「あ、葵丸……」

「パパの、僕が持ってる」


 俺と祈は目を合わせ自然に笑みがこぼれる。俺は葵丸の頭に手をのせると、


「じゃあ、預かっててもらおうかな。危ないものだから気を付けるんだよ」

「う、うん。パパ、頑張って」

「もちろんだ。任せとけ」


 癒される。自分の子供ってなんでこんなに可愛いんだろう。


「旦那様、頑張ってください」

「ああ、祈にカッコ悪い所は見せられないからな」

「はい。そうだ、葵丸、少し目をつむっていてください」

「? わかった、ママ」


 葵丸が目を閉じたのを確認すると祈がそっと目を閉じて顔をこちらに向ける。言われなくてもわかる。俺はその唇にそっと唇を重ねる。目を開けた祈は満足そうに微笑んで、


「応援しています。旦那様」

「ああ、祈がそう言ってくれてるんだ。負ける気がしない」


 俺は最後に葵丸と祈の頭を撫でて利家と向かい合った。


「銃、いらないのか?」

「ああ、銃を使うと圧勝劇過ぎて観客が楽しめないだろ?」

「いや、観客は今の一幕で十分楽しめたと思うぞ」


 利家の言っていることがよくわからず俺は観客の方を見回す。


「き、キスしたっすよ!! 見たっすか!?」

「こ、こんな、人前、破廉恥っ!!」

「坂井大助様が愛妻家っていうのは聞いてたけど……こんな所で……!!」

「きゃーっ」


 天弥と氷雨をはじめとした観客たちがきゃっきゃと騒いでいる。しまった、葵丸だけじゃなくて観客全員の目を閉じさせるべきだったか。祈は顔を真っ赤にさせてうつむいてしまっている。それと対照的に葵丸が何もわかっていない様子なのがかわいらしい。


「い、いいから、ほらさっさとやるぞ!!」

「はいはい、じゃあやるか」


 俺と利家が互いの武器を構える。審判はいないが俺と利家ならそんなものなくても開始も決着もわかる。その雰囲気を感じ取った観客たちが静まる。


 そして、一瞬の完全なる静寂ののち、俺と利家は同時に動いた。


「”電光之槍”!!」

「”突進之太刀”!!」


 ”電光之槍”。天真正伝香取神道流の槍術で最速の技。それに対し俺の”突進之太刀”は鹿島新當流の面之太刀の奥義のひとつ、名前の通り突進し相手を斬るこちらも面之太刀で最速の技。


 この二つの技が二人の中点でぶつかる。だが刀と槍には圧倒的なリーチの差がある。できることならばもっと距離を詰めたかったが仕方ない。


「”鴫羽返”」


 鹿島新當流の返し技のひとつ。多くの勝負に挑まれ、時には突然襲われることもあった剣聖の編み出した、攻撃後の隙を狙う必殺の返し技。

 今、利家が持っていた武器がもし刀だったらこれで勝負はついていただろう。だが利家が持っていたのは槍。俺の技は首に掠るだけにとどまった。だが、俺の連撃は終わらない。


「”乱之太刀”!!」

「くっ!! マジかよッ!!」


 ”乱之太刀”。中極意の中で俺が最も得意な連続技だ。利家が悪態をつきながら槍で俺の攻撃をしのぐ。防戦一方という表現が相応しいだろう。

 だが俺の攻撃はまだ続く。俺が剣聖の修業の中で見つけた最強のコンボ。乱之太刀で乱れた相手に一撃必殺のあれを叩き込む。


「”一之太刀”!!」

「あ、しまった……!!」


 俺の”一之太刀”は左下から入り、利家の木槍をへし折り、利家を吹き飛ばした。


「「オオオオォォォ!!」」


 観客から大きな歓声が上がった。まずは一本。俺は葵丸と祈の方へピースサインを見せつけた。


「……この2月で何があったんだ」

「修行してたんだ。日本最強の男とな」

「日本最強……ああ、そうか」


 利家は何やら納得したような表情を浮かべた。


「だが、このまま負けてやるわけにはいかない!!」

「当然だ。俺はもう一本取ってストレート勝ちしてやる」


 再び互いに武器を構える。そして先ほどと同じように互いに距離を詰めた。


《前田利家》


 本当に二か月そこらで大助に何があったんだ。もとから強かったのは間違いないが今は桁違い。今まではいろんな剣術がごちゃ混ぜになっていたが、今の大助は鹿島新當流の技を多用する一流の剣士と言えるだろう。


「”巴三ノ太刀”!!」

「”突留之槍”!!」


 技が鋭い! なんとか槍の距離に離したいがそれができない。本当に強い。槍と剣での戦いで槍使いにとって最も避けたい状況での戦いが強制される。


 この状況を打破するには、攻めるしかない!!

 

「天真正伝香取神道流・秘伝!! ”下段之鎗合”!!」


 天真正伝香取神道流の槍術の2つの秘伝のうちのひとつ、下からの突き上げから始まる連続技。まずは太ももを、


「知ってる」

「は!?」

「天真正伝香取神道流・極意七条”遠山之太刀”!!」


 なぜ大助が天真正伝香取神道流の技を……

 俺の技は初撃から弾かれ、大助の斬撃が左腕に入る。慌てて大きく距離を取るが左腕に痣ができた。


「忘れたか? 剣聖は天真正伝香取神道流と鹿島神流をマスターしたんだぜ? 天真正伝香取神道流の奥義は当然使える。剣聖に習ってる俺もな。まあまだ粗削りだけど」


 知ってはいたがまさか2つの流派の奥義が使えるようになるなんて思わないだろうが。だが天真正伝香取神道流も知っているとは俺の手の内がバレているということに他ならない。


 なら距離を取っている今の状況から近距離戦に持ち込ませずに大助のミスを誘う。こんな消極的な策しか取れないのは悔しいがおそらくそこにしか勝ち目はない。


「このまま押し切る!! ”柳葉之太刀”!!」

「ッ!! ”去龍之槍”!!」


 相変わらず早い!! なんとか防いでいるが距離はどんどん詰められている。ここまで詰められたら槍の優位性は失われたも同然。そしてこれ以上詰められるなら槍はどんどん不利になる。今が最も強い。今放つ技が最も大助にとって嫌なはずだ。ならここで、俺の最強の技を。


「”上段之鎗合”!!」


 もう一つの奥義。これで仕留める。俺の槍は走って近づいてくる大助の喉元へ吸い込まれるようにーーー、


「ふっ」


 大助は高く飛んで俺の必殺の槍を避ける。この跳躍。忍者の技術。当然だ。大助が鹿島新當流を習得したとはいえ忍者の技術は健在。そしてこの流れは昔から大助が得意としていた、高い跳躍、上空からのーーー、


「”一之太刀”!!」


 その動きはもう何度も見た。何年一緒に修行したと思ってる。


「”飛龍之槍”!!」


 今度こそ、仕留めた。


「と、見せかけての”天ノ巻切”!!」


 大助が空中でニヤッと笑うと、俺の知らない技を叫ぶ。

 そして槍が巻き込まれるように刀と大助が動き、そのまま俺の首に木刀が添えられる。


「俺だってお前のことはよくわかってるんだぜ?」

「悔しいが、完敗だ」


 決着。




 




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