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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第二部 3章 『天下に向けての第一歩』
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第137話 姉川の戦い 陸

 利家と連携して浅井長政に攻撃を仕掛ける。攻撃を受け流したところを利家が槍で突く。言葉を交わす必要はない。上杉政虎と戦った後、連携の練習はたくさんした。 

 俺と利家、長い付き合いだからできる高度な連携。唯一、それを乱しているものといえば、


「考えるな。目の前の敵を倒すことに集中」


 そう自分に言い聞かせる。だが人を殺すのは怖い。そのせいか剣のキレがいつもよりない。引き金を引くのに一瞬躊躇う。

 なんでなんだ。今までたくさん殺してきたじゃないか。それがなんで今更……


「大助、上げてくぞ!!」

「お、おう!!」


 利家はイマイチ調子が乗っていない俺の様子を窺いながら戦ってくれているようだ。だがそんな手を抜いて勝てるような真似をして勝てる相手ではない。利家の今の言葉は調子が悪い俺への喝のように思える。


 長政は利家の連続の突き技を躱しながら俺の剣戟を刀で弾く。鳥がその鋭利な爪で目を潰しにかかってくる。よく訓練されてるな。その爪の攻撃を躱し、刀を振るが羽が少し落ちるだけで倒すまでには至らなかった。


「大助ッ!!」


 利家の切羽詰まった声、それとほぼ同時に殺気と刀の風切り音が聞こえる。おそらく横に凪ぐ一撃が来る。とっさに体勢を低くして躱す。今のは本当に危なかった。


「鳥に意識を向けすぎるな!!」

「わかってる!!」


 集中が途切れる……!! 鳥のせいってのもあるけどそれだけじゃない。やっぱり俺の精神的な問題だ。

 だが利家は調子の悪い俺に合わせながらも鋭い攻撃を仕掛けていく。敵将・浅井長政はいくら俺が調子が悪いとはいえ、俺と利家を同時に相手取るのは厳しいようでだんだんと傷が増え、それに比例してミスも増える。


「大助ッ、切り込め!!」

「お、おう!!」


 利家が連続突きで作り出した隙をつくように言われる。いつもだったら言われなくてもやっていることなのにな。


 利家の動きは完璧で俺が完璧な一撃を長政の首に入れられるような状況になっている。躊躇っている場合ではない。今剣を振れば敵総大将を討って戦が終わる。


「”一之た―」


 刀を浅井長政の首に振り下ろそうとした瞬間、俺の脳裏に浮かんだのは結婚式の時の幸せそうな市ちゃんの顔。その他にも同盟の時に会った浅井久政や潜入したときに服を剥ぎ取ったお嬢。浅井長政とは決して深い仲ではない。多少話したことがある、程度の関係性。だというのに……


「大助ッ!!」


 しまった。

 戦場では一瞬の考え事も命取り。そんなことも頭から抜けるほど俺は……


 俺は刀を弾き飛ばされ、続く斬撃が俺の首を跳ね飛ばさんとする。躱そうとするが、間に合わない。


「あるじ様ッ!!」

「ッ!?」


 突如俺の視界に割り込んできた白い光景。その白い何かと共に俺ははるか後方へと吹き飛んだ。


「……っ、氷雨?」

「ん、あるじ様、大丈夫?」

「悪い、お前のおかげで助かった」

「ん、よかった」


 氷雨が咄嗟に短剣で受けて俺をかばったらしい。氷雨の短剣が氷雨の手の中で砕け、よく見れば腕からも出血している。


「本当に悪かったな。……情けない」

「ん、そんなことない。こういう日もある」


 痛みを我慢しながらそう小さく笑う氷雨。慰められて、そんな俺がさらに情けない。

 そんな情けない俺だが、今からでも。


「下がって休んでろ」

「でも……」

「大丈夫、心配いらない。安心してみてろ。ってさっきまでの俺を見てたらできないのもわかるけどもな」

「ん、……そんなことない。あるじ様は最強」


 この期待に応えないわけにはいかないよな。


 人を殺すのは怖い。でもそれ以上にさっきみたいに人を殺すことに躊躇しなくなるのが怖い。でも、今だけはもう一度。


 利家と長政の戦っているところに走って戻る。邪魔する奴は全員斬り殺した。そして二人に宣言する。


「利家、悪かった。もう大丈夫だ」

「大助?」

「ここでお前を討って戦を終わらせる。覚悟しろ、浅井長政」

「本当のあなたの力が見れるのですね」

「やっと戻ってきたか」


 俺は大きく深呼吸した後、刀を構えた。


「行くぞッ!!」

「こいっ!!」


 一歩踏みこみ、居合いに構えた刀から最速最強の一撃を振った。


「”一之太刀”!!」

「は?」


 俺の最速最強の一撃が長政の刀が《《切れた》》。折れたのではない。切れたのだ。


「次の一撃でお前の首を刎ねる」

「……ッ!」


 さっきまでの長政だったら強気で言い返していただろう。だが今の一撃を見た直後、長政にもこれがハッタリどころか僅か数秒後には現実になると理解できた。


 だがその瞬間は訪れなかった。なぜなら、この一騎打ちの結果にかかわらずこの戦の勝敗は決してしまったのだから。


「な、なんで側面から敵が!!」

「ひ、退け!! 退けェェ!!」


 浅井・朝倉軍が撤退していく。

 俺も利家も、そして長政も状況が理解できていない。側面から味方が浅井・朝倉に横撃を仕掛けたらしいが。


「このまま突っ込みなさい!! 浅井軍を崩せばもう勝利は目の前です!!」


 あれは、榊原康政か!!


「大助殿、利家殿!!」

「康政殿!! どうして……」

「半兵衛殿の指示です。かなり下流の方に迂回させられて大変でしたが、まさかここまで上手く刺さるとは」


 半兵衛の作戦の本命はこれだったらしい。確かにこれは必殺の一撃だった。


「呆けるな!! 追撃をかけるぞ!!」


 利家がそう叫び、康政も一緒に走っていった。

 俺はというと、その場にうずくまりまた吐いた。


 戦場には無数の死体が転がっている。川は赤い水が流れている。血で赤く染まった姉川とその周辺に転がる無数の遺体は再び俺の精神状態を乱すのには十分すぎた。

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