第136話 姉川の戦い 伍
利家とサルの援護に入る。浅井軍はよく練兵されているようで状況はかなり悪い。数はこちらが多いはずなんだが。
「利家を探せ。連携して川岸に防御陣形を築くぞ」
「はいっす!!」
「氷雨は前線で指揮を取れ」
「ん、任せて」
いつも前線で誰よりも戦ってる俺が後方で指示なんて、初めてかもしれない。氷雨だって違和感を覚えていることは間違いないだろう。
「小島に彦三郎様が入ったようです」
「もう前に出ても大丈夫っすよ!!」
「そーだそーだ」
「……実力、見せつける」
武田から連れてきた4人組が俺を前線に駆り出そうとする。いつもの俺を見ているのだから当然の反応か。俺の隊は俺が前に出ると士気が上がる、というかいつも俺が前に出てるから、珍しく前線に出ていない今が士気が低くなってしまっているのかもしれない。
「10人ほどついて来い。危ない所を助けて回るぞ」
「了解です」
利家隊の苦戦しているところに俺の隊がカバーに入りそれでも苦戦しているところを俺の小隊が助けに入る形だ。
「行くぞ!! まずはあそこの小隊だ!!」
「おうッ!!」
まだ完全に収まりきっていない吐き気を堪えて大声を張り上げる。敵小隊を蹴散らし、利家隊の兵士に向けて声を上げる。
「今のうちに利家隊は後退!! 俺の隊が防衛線を作ってるから合流しろ!! 俺たちは次に行くぞ!!」
その後もいくつかの部隊を助けつつ、戦場内から状況を整えていく。
「大助様!! あそこで味方の大隊が押し込まれています!!」
「あれは……利家の馬印!! よし、行くぞ!!」
その武将がそこにいることを表す馬印が見えた。利家の物と、もう一つ。俺の予想が正しければあれは……
「織田家家臣・前田又左衛門利家!!」
「浅井家当主・浅井新九郎長政、参るッ!!」
俺がその場に到着するのとほぼ同時に始まってしまった。利家と敵総大将・浅井長政の一騎打ちが。
俺の到着に利家側近の老兵が話しかけてくる。
「大助殿、わざわざ助けに来ていただいたのですか?」
「ああ、苦戦してそうだったから。それにしても一騎打ちかよ……邪魔しにくいじゃねぇか」
「安心してくだされ。利家様はお強いですぞ」
「そんなことは俺もわかってる。誰よりもな。でもあいつも強いぞ」
利家が戦っている相手。浅井家の当主、俺や利家とも少なからず因縁がある男、浅井長政。彼とは以前、利家を救出するため小谷城に侵入したとき剣を交えたことがあった。かなりの腕前だったことを覚えている。しかもあれは10年近く前、腕も上がっているに違いない。
そんなことを考えている間に動きがあった。
「行けぇッ!! 阿修羅丸、お前の兄弟の恨みを晴らせ!!」
「ッ!?」
長政って鷹が標準装備だったのか……前に殺しちゃった奴の兄弟らしい。突然の鳥からの攻撃に利家の体勢が崩れる。
「利家様ッ!!」
「慌てんなよ。利家は鳥如きに遅れは取らん」
「ですがっ……」
「ま、心配なのはわかる。とりあえず周りの敵を討とう。利家が長政を討った時に仇討ちだって襲い掛かってくるからな。そのほうが利家も思う存分力を振るえる」
「……そうですな。私奴などより大助殿の方がよほど利家様のことをよくわかっていらっしゃる」
利家は体勢を崩しながらも例の曲がる攻撃で長政に一撃を入れる。
利家の側近たちも敵への攻撃を再開した。
長政の実力はかなり高い。利家といい勝負だ。絶対に利家を殺すという気迫が感じられる。
「あの時の恨みを忘れた日はない!! 姉上は服を剥ぎ取られ、僕は腹に穴が空いた!! あの時の屈辱を晴らす時だ!!」
「いや、それ全部・・・・・・・」
はい、俺ですね。利家からしたら理不尽極まりない話、というわけではないがいささか可哀想な状況ではある。
「全ての罪を認めてここで死ねェェ!!」
「だからあれをやったのは・・・・・・・あ」
利家と目が合った。一瞬嫌な予感がした。戦いに集中していた利家は今まで俺に気づいていなかったらしい。俺を見て僅かに驚いた表情をした後、この馬鹿野郎はあろうことか、
「こいつがその犯人だ!! あの時は変装してたけどその正体はここにいる坂井ー」
「っざけんな、馬鹿野郎!! 俺は何も知らねえ!!」
この場であの事件の種明かしを始めやがった!!
「お前のせいで今俺は殺されそうになってんだ!! お・ま・えの罪のせいでな!! いいから罪を認めろ! な?」
「知らねえっつってんだろ!! お前の一騎打ちだ、お前が決着つけろよ!!」
本当に醜い言い争いだっただろう。それに敵が怒るのは当然のことで。
「もういい。2人まとめてかかってこい!! 織田家最強の坂井大助と卑劣な変態男まとめて僕が切り刻んでやる!!」
「ほう」
「じゃあいっちょ、やりますか」
怒りに任せたとは言えあまりにも無茶無謀な発言だった。俺と利家は言い争いをやめて、今度は肩を並べて浅井長政を見る。
「こいつを討てばあの事件は無かったことになるようなもんだよな、大助?」
「それに戦も終わって一石二鳥だな、利家」
俺と利家は揃って悪い笑みを浮かべる。逆に突然息があった俺たちを見て長政は僅かに動揺を見せたがそれを押し殺し、剣を構えた。
「こいっ!! 僕は浅井家当主、近江の支配者・浅井長政!!」
「織田家家臣・前田利家」
「同じく織田家家臣にして伊賀の上忍・坂井大助!!」
「「参るッ!!」」
因縁の戦いが始まった。