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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第二部 3章 『天下に向けての第一歩』
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第133話 姉川の戦い 弐

 俺が隊の陣に戻ると俺の隊の最前線は戦闘になっていた。これはつまり勝家か信盛のどっちかが抜かれたということだ。


「おいどういうことだ!? どっちが抜かれた?」

「信盛殿の方です!!」


 苦戦してるって話だったからな。可成は……っと噂をすればだな。

 森可成隊が信盛隊と浅井軍の戦場に乱入していく。右方ではサルの隊が勝家隊の援護のため配備を始めた。


「可成が入ったなら大丈夫だろう。少し下がって敵と距離を取れ。そしてどちらにも援軍にも入れるように体制を整えろ」

「ハ!!」


 信盛の方に大吾と悠賀、勝家の方に彦三郎と長利を配備する。苦戦している信盛の方に機転の利く悠賀に状況を打破する力のある大吾をつけた。これが最適の布陣だ。

 そしていつでも出れるように厳命しておく。俺は中央に待機してどちらに呼び出されても大丈夫なようにしておく。


「殿!! 木下隊から使者が来ております!!」

「通せ」


 陣に入ってきたのは見覚えのある女。


「ユナ?」

「入ってきて突然で悪いんだけっど、人払いをお願いっできるかしら」


 ユナはそう言って天弥と氷雨を横目に見る。俺だけにしか聞かせられない話なのか。


「天弥、氷雨、少し出てくれるか?」

「え、でも……」

「もし襲ってきたとしても俺が1対1で負けることはあり得ない。何も問題はないはずだ」

「ん、天弥、行くよ」

「あ、はいっす」


 氷雨が天弥を連れて出ていく。ユナはその様子を黙って見、小さくため息をついた。


「あんたも偉くなったわね」

「ああ、そうだな。わざわざこんな時に何の用だ? そもそもお前が戦に出てるなんて珍しいじゃねえか」


 俺が把握してる範囲ではユナは桶狭間以降ほとんど戦には出ていない。岐阜に移ってからはユナが帰るための研究の手伝いの頻度も減ったからあまり会っていなかったけど、話を聞く限りでは金ケ崎も上洛戦も出ていなかった。


「姉川は大事なターニングポイントなのよ。私だって部屋にこもりっきりってわけじゃない」

「金ケ崎の時、サルが死にかけてても出てこなかったのにな」

「ッ!! ……あの人はこんな所では死なないわ。それはあなたも知ってるでしょ?」

「それは歴史がそうだったからか? 前にも言ったが歴史は今生きてるやつが作り上げるものだ。仮に俺がサルを殺しに行けばあいつの実力じゃまず間違いなく死ぬ」

「……そんな次元の話をしてるんじゃない」


 何か変な間があったが。……こいつの話は相変わらずよくわからん。昔からだがこいつはどうも核心的な部分を話していないような気がする。


「まあいい。それで何の用だ?」

「おそらく、これから柴田勝家の部隊は崩れるわ」

「それを防ぐのがお前ら木下隊の役目だろ」

「私たちが入っても戦況は変わらな……いや、むしろ悪くなるわ。だからあなたの隊にこっちの援軍に入ってほしいの」

「ちょっと待て!! なんでそんなことがわかる?」


 なんか未来予知みたいなこと言い始めた。未来人でも未来予知なんてできるわけがない。


「単純な話、あの柴田勝家と藤吉郎さまはそりが合わないの。あの二人は連携なんてできないわ」

「馬鹿野郎。そんな個人的な理由で俺の兵を死なせられるか。だいたいサルはともかく勝家殿は戦に私情を持ち込むような半端な真似はしないだろ」

「……」

「おい、まさかそんなことのためだけに来たんじゃないだろうな?」


 ユナは黙ったままだ。マジでどういうことなんだよ……

 少しの間の沈黙ののち、ユナは静かに話始めた。


「さっきの言葉、訂正するわ」

「どれのこと?」

「藤吉郎さまは死なない。歴史がそうだったから。ってとこ」


 おいおいおいおい……どういうことなんだよマジで。


「あんたの言う通り、歴史は今生きてる人が作り上げるもの。そうみたい」

「はぁ?」


 なんで急に認めた? ユナの態度が何かいつもと違う。


「あんたの言うことは正しい。あんたが藤吉郎さまを殺そうとすれば、きっと藤吉郎さまは死んで、歴史が大きく変わる」

「そうだろうな」

「あなたがいるから、歴史の通りに進まない。それを金ケ崎の時に実感したわ」

「金ケ崎?」


 ユナが言うには本来の歴史では信長は当然、藤吉郎ももっと余裕を持って逃げられていたはずだった。本来の歴史では信長が全軍を率いて撤退戦を繰り広げるはずだった。その場合は藤吉郎の配下がほぼいなくなるまで藤吉郎が追いつめられることはなかった、らしい。


 だが俺が浅井朝倉の挟み撃ちに早く気づき、信長だけを早く逃がしたことで歴史とズレが生じた。信長は本来の歴史より余裕を持って逃げることができたがそれ以外の軍、とくに最後尾にいた秀吉たちが大きな被害を受けることになった。それを率いていたのは、俺だ。


 これと対照的な事象が上洛戦だ。あの時、俺は何もしなかった。結果、上洛戦は本来の歴史の通りに行われた。

 

 この話をユナが藤吉郎から聞いた時、一つの結論に至ったという。俺が絡むと歴史がゆがむ、と。考えてみれば当然のことだった。俺は転生者で、その俺が、未来の知識を持っている俺が、歴史上類を見ないほど”存在が大きな男”である織田信長に全面的に協力している。歴史に影響を及ぼさないわけがなかった。


 ここでユナは俺が変に歴史に絡むと、藤吉郎が本来死ぬはずのない場面で死ぬ可能性が出てきてしまうということを理解することになる。たとえそれが万が一の確率であったっとしてもそれはユナとして見過ごすわけにはいかないものだった。


 だから、万が一にでも藤吉郎、いや豊臣秀吉が死なないようにユナは俺を利用しようとした。織田家最強の武力を持つ俺を。


「本当ならあんたが何もしないのが一番手っ取り早いんだけどね。そうすれば歴史通りに進む。でも今回、あんたはもう動いてしまった。だから責任をもって、藤吉郎さまを守って」


 なんて理不尽な話だ。そもそもなんで歴史通りにしないといけない? 


「俺は別に藤吉郎が死んでも構わないんだが」

「はぁ!?」

「だから別に俺としてはサルがどうなろうとも関係ないってこと。だってこの世界では信長が天下を統一するから」


 ユナは忌々しいものを見るような目で俺を睨む。だが一度深呼吸してから俺にこういった。


「いや、あんたは藤吉郎さまを守った方がいいわ」

「は?」


 それはお前の事情だろ、そう言う前にユナの次の言葉が紡がれる。


「だってそもそも織田信長は藤吉郎さまの力抜きで天下統一なんて絶対に不可能なのよ」

「ッ! なんでそう言い切れる?」


 そう問いかけた俺にユナは少し微笑んでこう告げる。


「だってあたしは、未来人だもの」


 と。

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