第130話 二刀流剣士と井伊の咆哮
「ヒャッハー!! 忠勝殿に後れをとるなァ!! 俺が織田家最強と名高い坂井大助をぶっ倒してやるぜェェ!!」
赤い甲冑をかぶった武将が突っ込んでくる。あれが井伊直政か。俺と戦いたいみたいだな。っていうか俺、織田家最強だった? そんなつもりはないけど。
「あるじ様、あれ、どうする?」
「面倒だけど……せっかくの模擬戦だし、相手してやるか。氷雨、その間俺の隊の指揮頼む」
「ん、任された」
手綱を引き、前に出る。
「あ? なんだお前? やる気かァ?」
「ああ、お相手願うよ」
相手は俺のことが誰かわかっていない様子。正体をわざわざ告げる必要はないだろうと思い、そのまま剣を抜く。
「誰だか知らねえが邪魔する奴はぶっ飛ばすぜェ!!」
「俺に勝てるとでも?」
「バカにしやがってェ!! 行くぞォ!!」
「来いッ!!」
馬上で剣戟が繰り広げられる。井伊直政は短めの日本刀を二本持ったまさかの二刀流スタイル。二本の刀の剣戟を俺は避けつつ、刀で攻撃を入れていく。
「まだまだまだァ!!」
「ッ!!」
さらに速度が上がる。頬に切り傷ができる。二本の刀をここまで正確に操れるのか。正直侮っていた。俺は井伊直政の評価を少し上方修正する。単純に攻撃の数が普通の剣士の二倍。このままじゃ手数の差で押し切られる。馬上ってのも不利な要因ではあるな。
俺は一度離れて、馬を降りる。天弥に馬を任せ、地上で刀を構える。
「おいおいおいおいィィ!! 馬上の敵にそれで勝てんのかァ!!」
「そうだな。このままじゃ不利だ」
「ヘッ!! 馬鹿な奴だぜ!! これで終わりだ!!」
馬で突進し、刀を振ってくる直政。俺はそれを避けながら懐からあるものを取り出し、地面にたたきつける。
「火遁ッ!!」
「は? おわッ!?」
井伊直政の馬が火遁に驚き井伊直政を振り落とす。落馬した直政は忌々しいものを見る目で俺を見ている。
第二ラウンド・地上戦、スタート。
《井伊直正》
こいつッ……マジで強ェ!! この刀捌き……マジでタダモンじゃねェ!!
地上戦になってから一気に状況が悪くなりやがったァ。だいッたいなんでこんな所にこんなバケモンが居やがんだぁ!?
直政は迫りくる神速の斬撃を二刀でギリギリで受け止めるが、大きく後ろに弾き飛ばされる。
さっきまで自分と同格、あるいは格下だと見積もっていた相手が今度は非常に大きく見える。明らかに格上。
だが、格上だからって諦めるわけにはいかねェよなァ!!
直政は姿勢を低くして敵の懐に潜り込む。そこから大きく飛び上がり刀を振りかぶる。二本の刀を交差させ敵の首をハサミのように斬り飛ばそうと試みる。
避けることは出来ない必殺の一撃、そのはずだった。敵は体を逸らせることで回避不可能だと思われた一撃を回避してみせた。重い甲冑をつけた、その体でだ。
マジかよッ!? だがそんな体勢じゃ次の攻撃は避けられねェよなァ!!
次なる攻撃を仕掛る。相変わらず剣で防がれるがいくつか手ごたえがあるものがあった。敵の腕や足から血が出ている。
「仕方ないか」
敵がそう一言呟き、懐に手を入れる。そして何か、雰囲気が変わった。
懐から出た手には銀色に輝く”銃”が握られていた。
「テメェ、まさかァ……」
直政の呟きが言い終わるのを待たず、引き金が連続で2回、引かれた。
パァァーーン!! パァァーーン!!
直政の鎧、胸のあたり、もっと言うと心臓のあたりに二つ、赤い染料がついていた。
「模擬戦でよかったな。実戦だったらお前は今、死んだだろう」
「その腕前、その銃……やっぱりテメェは……!!」
「気づくのが遅いぞ、井伊直政。俺が坂井大助だ」
「マジかよッ……」
後ずさりし、思わず地面に尻もちをつく。そんな様子をものともせず、坂井大助は兵たちに指示を下す。
「全軍前進!! このまま敵右翼を突破するぞ!!」
「「オオオオォォォ!!」」
「お、おいッ!! 待ちやがれッ!!」
敵はそんな直政のことなど目もくれず前進していく。
「おいッ!! ふざけ、ふざけんなよォォ!!」
井伊直政は家康本陣へと向かう坂井大助隊の背を眺めることしかできなかった。
《坂井大助》
井伊直政を下した俺たちは敵右翼を崩壊させ、もう間もなくで家康本陣に到達する。
だが、それを阻む部隊があった。
「あれは……榊原康政の部隊っすね」
「みたいだな。中央にいたはずだが……彦三郎たちがあんまり押せてないんだろうな」
「ん、中央は拮抗してる」
敵中央にはまだ余裕があるらしい。元来中央後方は本陣を一番守りやすい場所であるわけだしこれも想定していなかったわけじゃないのだが。
「このまま突っ込むぞ!! 二番隊を前に出せ!! 大吾、お前の力、存分に振るえ!!」
「おおおぉぉぉ!! お任せを!!」
大吾が先頭で矛を振るい、敵を薙ぐ。だが、一切崩れなかった。
「は?」
先頭が敵にぶつかり、敵と交戦が始まるものの、俺たちの勢いが一瞬にして消された。
「おい!? マジかよッ!! 一回戻れ!! これはマズい!!」
大吾のパワーで敵の最前列を崩して、そのまま一気に戦況を勝ち確の状況まで持っていくつもりだったのにその最初から失敗した。敵は移動しながら防陣を組んできたのか。それでも大吾をあそこまで完璧に止められるのは想定していなかった。
一度引いて形勢を立て直すべきだ。だが敵はそうはさせてくれなかった。
「ッ!? あるじ様、左方敵襲!!」
珍しく氷雨が声を荒げる。左側を見ると俺たちの左翼の左側を構成していた4番隊が攻撃を受けている。
「これじゃあ、撤退できないっすよ!!」
天弥の言う通り横から攻撃されたんじゃ撤退が困難だ。まずは左方の敵を倒さないと。
「ここは氷雨に任せる!! 俺は左に行く。大吾にも撤退するように伝えておけ」
「ん、任せて」
左で大暴れしてい部隊の真ん中には槍を持った騎馬に乗った将がいる。
「あれが……」
「かかってくるがいい!! 我こそは徳川四天王が1人・榊原康政であるぞ!!」
次に俺たちの前に立ちふさがるのは、榊原康政。家康を支える四人の武将、四天王の一角。さらなる強敵が俺達の勝利に待ったをかける。