第13話 手紙
藤林保正と一悶着あった後、家に帰ると
「お帰りなさいませ、ご主人様」
いつも通り祈が出迎えてくれる。ここ1年でだいぶ祈とも仲良くなった。もちろんえっちなことは一切ない。
「ただいま、祈」
「ご主人様、手紙が届いています」
「手紙?誰から?」
「前田利家様からのお手紙です」
「利家からか!久しぶりだな」
俺は祈から手紙を受け取り、机の上に置く。
「読まれないのですか?」
「先にご飯にしよう。今日は色々あってさ」
「了解です」
その後食事をしながら祈と今日の話をした。今日のメインは白身魚の天ぷらだ。戦国時代には天ぷらというより揚げ物はあまり一般的ではなかったので俺が教えた。祈は呑み込みが早く今ではもう唐揚げやメンチカツなど何でも作れてしまう。
夕飯を食べて一息ついたころ、利家の手紙を読んだ。その内容は
千代松、久しぶり。今回はちょっと急用があって手紙を書いている。信長様には言うなと言われているが俺の独断で送ることにした。
ほう、信長様に逆らってまで俺に送りたい内容ってなんだ?
それでその急用というのは、もう直ぐ尾張では戦が始まる。昨年信長様の父の信秀様が亡くなられ、織田家は信長様が継いだことは知っていると思う。信長様は本気で尾張統一に乗り出すつもりのようだ。だがまだ尾張には多くの強敵がいる。末森城にいる信長様の弟・信行様、清洲城の織田信友、岩倉城の織田信安などだ。そして今信長様が倒そうとしてるのは清洲の織田信友だ。
織田信友、清洲・・・まさか・・・
信長様が倒そうとしているのは織田信友とそれを操っている千代松の御父上である坂井大膳氏だ。
は?
坂井大膳氏と織田信友氏は信長様の弟の信行様を織田弾正忠家の家督につけたいらしい。坂井大膳氏はだいぶ前から考えていたようだ。千代松を伊賀へ送ったのも戦に巻き込みたくなかったっていうのもあるみたいだね。それは信長様も同意したらしい。
ああ、そういえば橋本一巴の試練に合格したことを報告したとき、父は何か言いたげで、複雑な顔をしていた。あの頃、信長も同じような感じだった。ああ、クソ。何かがつながる。
信長様はやる気になったらとことんやるお方だ。おそらく坂井大膳氏と信長様が戦になったら長期戦になるだろうが結局は信長様が勝つだろう。それで戦になったとき、お前はどうする?
どうする?って言われても・・・
どっちに味方するかと聞かれたら・・・
信長様は大事な友達だし、坂井大膳は実の父親だ。
選べない。
おそらく戦はすぐに始まる。今年中には大きく情勢は動くだろう。返事は信長様にバレないように橋本一巴殿に宛てて返していただけるとありがたい。
前田又左衞門利家
その日はなんか急に体が重くなり床についた。だがいろいろ考えてしまいなかなか眠れなかった。
翌朝、朝食時俺は祈に昨日考えたことを話すことにした。
「祈、俺は1度尾張に帰ろうと思う」
「昨日の手紙ですか?」
「ああ、俺の父上と俺の友達の織田信長が戦をするらしくてな。それを止めに行こうと思う」
「なるほど・・・あの、私も連れて行ってくださいませんか?」
「え?」
「私も久しぶりに父や兄に会いたいですし」
「ああ、そっか。祈も尾張の出身だったね。わかったよ。一緒に行こう」
「ありがとうございます!出発はいつになさいますか?」
「そうだね、できるだけ早い方がいいだろうし・・・」
「じゃあ明日にでも立ちましょう。戦となればいつ何が起きてもおかしくありません」
「そうだね、そうしよう。じゃあ今日中に用意しておこう」
ということで一時的に終わりに帰るため、里の人にあいさつしておくことにした。
まずは学校を休むことになるため里長の所へ。この里の里長は里長であり、校長であり、社長である。里で何か問題が起きたらだいたいの場合、里長の所へ行くのだ。
「なるほど、それは行かねばなるまいな」
「はい、ですので休学の許可をもらいに来ました」
「了解した。儂に任せろ」
こうして無事休学の許可をもらうことができた。
「して、尾張にはどのルートで行くのだ?」
「来た時と同じように伊勢まで馬で行って、そこから船で行こうかと」
「おいちょっと待て、お主は那古野の信長殿の所へ行かれるのだろう?」
「そうですが?」
「船で行くと信長の敵地の尾張下四郡、つまり織田信友の領地に出てしまうではないか?」
「私の父は信友殿の重臣の坂井大膳ですよ?入れるくらいしてもらえるでしょう」
「そうか、やはりそうであったか。だが入ることは出来ても信長殿の領地の尾張上四郡には入れぬだろう」
む、確かにそうかもしれない。ならどうしよう。
「陸を行くしかあるまい。伊勢まで行ったら海沿いを進み、四日市から東海道に入り那古野を目指せ」
「なるほど、ありがとうございます」
「なんなら道を知っているものを紹介しよう。伊賀忍者は高いがな」
「そ、それは遠慮しておきます」
伊賀忍者は割とぼったくりなのだ。もちろん忍者の質は良いのだがそれにしても値段が高すぎる。とても俺に出せる金額ではない。
丁重にお断りして里長の部屋を出た。
他にあいさつするのは学校の皆。そんなに長い間離れるつもりはないんだけどね。まあマナーというものだ。
翌日、俺と祈は馬に乗って伊賀を出発した。馬は一匹、荷物は最小限で行くことにした。子供2人だから馬に二人乗りも余裕だ。
伊勢に行くために2つ目の山を超えている最中。何やら周りに気配を感じる。
「祈、気をつけて。誰かいる」
「え?誰かって?」
「わからない。けど隠れているってか様子を伺ってるっていうことはあまり都合のいい存在ではないと思う」
祈の顔がこわばる。その手をぎゅっと握りしめ、何も気付いていないという体でさっきまでと変わらず前進する。
そいつらはそれから3分後くらいに襲ってきた。
「おいそこのガキども!痛い目に遭いたくなければ金目のものを置いてきな!」
いかにもな山賊だ。それが4人、いや後ろに弓を持った奴がいる。5人だ。俺は祈を左手で庇いながら右手で腰の銃に手をかける。
「女を庇って、色男だなぁ!」
「それはどうも」
「ほら、さっさと出せよ。てめえ見た目からしてだいぶ持ってんだろ?」
「あなた達に渡すものはありませんよ」
「痛い目に遭いてぇみてぇだなぁ!!」
最初に怒鳴ったリーダー格の男が槍で突っ込んでくる。
その脳天に弾丸を撃ち込む。リーダーと思われる男はその場に血を流して倒れた。
「え?」「は?」
お仲間さん達はまだ状況がわかってないみたい。その間にリロード。
「テメェぇ!!」
また1人突っ込んでくる。その粗末な一撃を避け、すれ違いざまに腕に棒手裏剣を突き立てる。さらに飛んできた矢をギリギリかわし、矢を放ってきた女に右手の銃の引き金を引く。木の上にいた女が落ちた。
即座にリロードし、刀で襲いかかってくる敵に発砲。脳天に直撃し、倒れた。
「まだやる?」
まだ襲ってきていない人と腕に棒手裏剣の刺さった男に銃をリロードしながら問いかける。
2人は慌てて首を振った。
「ならとっとと失せろよ。クソ野郎どもが」
できるだけ低い声でそう言うと、2人は慌てて逃げていった。
「祈、怪我ない?」
「はい、ありません。ご主人様は?」
「ああ、無傷だ。じゃあ行こっか」
「はい!」
こうして俺と祈の2人旅は続く。
織田信行は本当は織田信勝で信行は誤りであるとされていますが、世間的に多く知られている名が信行であるため今作では信行とさせていただきます。ご了承ください。