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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第二部 3章 『天下に向けての第一歩』
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第125話 雪道の進撃

 季節は変わり冬。京の都では信長の上洛後息をひそめていた三好三人衆が反乱を起こし、仮の将軍御所である本圀寺に押し寄せていた。


「将軍お覚悟!!」

「将軍様、お下がりを!!」

「公方様!!」

「公方様!!」

「くっ……!!」


 本圀寺には信長が京の支配役として明智光秀を配置していた。さらに足利義昭の寵臣である細川藤孝、さらに幕臣の池田勝正とその部下の荒木村重らも将軍を守るために本圀寺に集まり、将軍側の軍は寄せ集めで2000もの兵が集まったが、それに対する三好軍は1万を超えており、その中にはかつての美濃の国主である斎藤龍興の姿もあった。

 本圀寺は足利義昭の仮御所とする際に信長が土塁などを築かせたため、多少の防御力は備えていた。だが流石に5倍もの兵力差、時間が経てば陥落することは誰の目から見ても明らかだった。



 信長がその報告を受けたのは年明けの余韻も冷めやらぬ1月6日のことだった。京都以西の信長方の城が三好三人衆軍の先鋒である斎藤龍興に落とされ、洛東の各所にはすでに火が放たれた。将軍の逃げ場はすでにないという事だ。


「今岐阜に軍がいる坂井大助、前田利家、村井貞勝の3名に出陣を命じる!! 急がねば将軍が討たれる!! 悪いが今すぐに出陣し、京都の本圀寺に向かう!! 俺もすぐに出る!!」

「「ハハッ!!」」


 岐阜には雪が積もっていた。雪道の行軍はいつもとは違う装備が必要になる。というか多くの武将は雪が降っている時の行軍は避ける。足場も悪く、悪いと凍死者が出ることもある。第三次川中島の戦いでも武田信玄は上杉政虎が雪で出てこれないことを利用して信濃北部に攻め入った。それほど雪とは重い障害になるのだ。


 俺は屋敷に戻ると6人の隊長を全員呼び出し、京へ行くことを告げる。そして、くれぐれも雪対策を欠かさないようにと伝えておいた。


 その日の晩、岐阜城から織田信長を大将に坂井大助、前田利家、村井貞勝、そして信長に挨拶に来ていた松永久秀を含めた4000の軍が出陣した。だがこの軍は深い雪に行軍を阻まれ、到着するのは4日後の1月10日になってしまう。しかも信長軍には数十人の凍死者がでた。


 信長軍が本圀寺に到着したときにはすでに三好勢は撤退していた。将軍は無事だったがこの戦で両軍合わせて1000人以上の死者が出た。


「光秀殿!! ご無事で」


 俺は一部が壊れている本圀寺に入ると見覚えのある顔が見えて近づいた。


「大助殿。ええ、なんとかなりました」

「敵には斎藤龍興がいたと聞きましたが、なぜこんなところに・・・・・・?」

「俺にも聞かせろ。戦の流れも説明しろ」


 信長とその後ろの利家も話に入ってくる。


「わかりました。三好勢がここに攻めてきたのは5日前の1月5日のことでした」


 そう光秀は戦の状況を語り出した。






「報告です!! 和泉家原城陥落!! 家原城陥落です!!」 

「勝軍地蔵山城も陥落でございます!!」

「なんだと!? もうそんなところまで!! 将軍様、退避を!!」

「む、わかった」


 連続で届く敗報に本圀寺の面々に焦りが見え始める。将軍を今日から逃がそうと幕臣や光秀が動き始める。


「報告です!!」

「ええい、今度は何か!?」

「洛東から火の手が上がっております!!」

「なんだと? 誤報ではあるまいな」

「間違いございません」


 東は火事で西からは敵が迫ってきている。もはや逃げ場はない。

 

「仕方ありません。ここに籠城するといたしましょう」


 光秀がそう将軍に進言し、将軍も小さく頷いた。


 その翌日、本圀寺は1万の三好勢に包囲された。西側にある門を守るのは明智光秀、細川藤孝。北にある裏門を守るのは池田勝正、荒木村重。最も激戦になると予想されるこの2箇所に戦力を偏らせた。


 敵が一斉に矢を撃ち込んできた。それが開戦の合図だった。

 西側は午前は鉄砲隊のいる光秀隊の奮戦により敵は本圀寺内に侵入できず、将軍方が戦いを有利に進めていた。だが午後になると敵が寺内に侵入し、それからは血みどろの大乱戦になった。北側も荒木村重の奮戦によりなんとか敵を押し留めている状況で、突破されるのも時間の問題だった。


 最初に侵入してきたのは敵の先鋒隊である斎藤龍興隊とそれに続く小笠原信定隊だった。龍興は入ってくるなり、


「光秀、河野島の続きだ!! 出て来い!!」


 そう怒鳴りつける。いきなり一騎打ちなんてするわけがない。負けたらその隊は総崩れになるリスクをわざわざとる理由はない。そう判断し光秀は冷酷に判断を下す。


「殺せ」

「オオオオォォォ!! 手柄になるぞ!!」

「光秀っ、貴様ッ!!」


 悪態をつく龍興を横目に見ながら、光秀は他のところに指示を飛ばす。そんな様子の光秀にさらに機嫌を悪くする龍興。光秀はすぐに討てるだろうということでもう一人の小笠原信定の方を注視する。あっちは細川藤孝が対応するようだ。そんなことを考えていると、突如、光秀の前にいた武士の首が飛んだ。


「はっ?」

「光秀、よそ見をしている場合ではないぞ!!」


 斬りかかってくる斎藤龍興。その一撃を受け止めながら光秀はさっきまで龍興が包囲されていた近辺を確認する。そこには死体が転がっているだけだった。すべて倒してきたのか……


「感服いたしました。龍興殿。まさかあの状況から……」

「少々我を甘く見すぎていたな、光秀!!」


 そう叫びながら刀に力を入れ、光秀を大きく下がらせる龍興。光秀は頬についた汗をぬぐいながら尋ねる。


「それはそうかもしれませんね。そもそも、なぜあなたがここに? あなたは伊勢の長島に逃げたと聞いていましたが」

「三好三人衆とは以前から縁があってのう。時折、助けたり、助けられたりしていたのだよ」


 以前から縁があったのか。だが確かにそう言われれば納得する部分もある。もしかして河野島の戦いのときも三好三人衆にお願いされて裏切ったのだと考えれば納得がいく。あの時に信長が上洛していたら三好三人衆の権力は地に落ちることになっていただろうからな。実際、今回信長が上洛したら京を一時的に追い出されたわけだし。


「そういうことで思わぬ好機が巡ってきた。ここで貴様と将軍を討って都を手中に治める」

「させませんよ。ここであなたは討った方がいいようです。これからの危険因子にもなりそうですしね」

「やってみろ!! 祖父様のお気に入りだっただけの能無しが!!」


 その言葉と同時に襲い掛かってくる龍興。それを光秀は捌きつつ、返しの一撃を食らわせる。因縁の一騎打ちが始まった。


 光秀と龍興の実力は互角、一騎打ちは拮抗していた。明智軍も斎藤勢と三好勢を相手に奮戦している。小笠原信定の方は細川藤孝が対応し、優位に進めている。

 

 だが、その戦況は一気にこちらに傾いた。


「将軍様!! ご無事であられますか!!」


 寺の外から別の軍が現れる。それは室町幕府管領家の細川藤賢の一団。彼らは本圀寺の南から現れ、本圀寺を囲む三好勢に横撃を仕掛けた。それを即座に察知した光秀は兵たちに指示を下す。


「今だ!! 一気に攻勢に出ろ!! 外の軍と連携し三好勢を追い返せ!!」


 一気に明知勢が攻勢にでる。それに対し斎藤龍興をはじめとする三好勢は突然後方に敵が現れて境内にいる明智勢らと挟撃される形になり、兵たちは混乱し始めた。


「くそっ!! だがここで将軍さえ討てば……」

「させるわけがないでしょう」

「光秀ッ!! もう時がない!! あと一撃で終わらせる!!」


 そう刀を振りかぶった龍興に対し、光秀は刀を持つ右手に力を入れる。そして互いの全力の一撃がぶつかり合う。それでも2人の力は互角、互いに大きく下がる。そこで龍興はすでに境内の兵力が光秀勢の方が多いことを認識すると、


「退け!! 全軍撤退だ!! 他の部隊にもそう伝えろ!!」


 その言葉にまだ境内に居た三好勢が一気に減り始める。細川藤孝と激戦を繰り広げていた小笠原信定だけは、


「貴様の首、土産として貰っていくぞ」


 そう細川藤孝に襲いかかった。だが、


「舐めるな、雑魚が」


 一撃で細川藤孝に首を刎ねられ、絶命した。その様子を見ていた小笠原隊は一目散に逃げ出した。主戦場となっていた西側の影響はすぐに全戦場に伝わり、三好三人衆は尻尾を巻いて京都から脱出していった。


 後に本圀寺の変と呼ばれるこの半日間の戦いは明智光秀ら将軍勢の粘り勝ちという結果に終わったのである。




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