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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第二部 3章 『天下に向けての第一歩』
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間話 崩れる三国同盟

「では、そのような方向で。我が主もこの盟約が結ばれたことをお喜びになるでしょう」

「僕もだよ。君の主とはできれば争いたくないしね」


 信長が上洛し、やっと一度岐阜に戻ったころ、家康の居城である岡崎城にて一つの盟約が結ばれた。これを結んだ二人がいったい何者なのかというと、1人は当然ながらこの城の城主であり三河国の領主である徳川家康。もう1人は甲斐・信濃を治める大大名である武田信玄の重臣、山県昌景。

 つまりこの盟約は徳川氏と武田氏の同盟であった。


 では一体何のための同盟なのだろうか。それを語るには少し時を遡らなくてはならない。


 1560年、尾張に侵攻した今川義元が桶狭間の戦いにて織田信長に敗れ、討ち取られた。今川義元が討ち取られると家康は即座に今川から独立し、三河国の統一に動き出した。そして信長と同盟を結び義元の後を継いだ今川氏真とは完全な対立関係に至った。今まで今川の支配下にいた遠江の豪族も勢いのある家康方に裏切るものが数多くいた。


 この一連の動きにより今川氏は大きく勢力を落とすことになったのだが、今川氏の強力な味方である武田・北条との甲相駿三国同盟は健在であり関東甲信への影響力も多少落ちてはいるもののまだあった。


 だが”甲斐の虎”武田信玄が弱体化した今川氏を見逃すはずがなかった。元来、内陸地で塩の取れない武田氏は海に面する駿河国をもう数十年前から狙っていたのである。今川義元が強敵だったことと信濃国奪取の際、上杉政虎と長年にわたる戦をすることになったため戦になることはなかったが。


 信玄は2年前に信長と甲尾同盟を結び、信玄の嫡男・義信と今川義元の娘・嶺松院を離婚させた。3つの婚姻で成り立っていた甲相駿三国同盟のうちの1つの婚姻が無くなったのだ。これは武田と今川の同盟関係が無くなったことを意味していた。


 これに対し今川氏真は武田氏への塩の輸出を止めるということで対応している。この件については上杉謙信が武田に塩を送るという感動エピソードがあるのだがそれは割愛しよう。


 とにかくすべての憂いが無くなった武田信玄はついに駿河遠江の今川氏への侵攻を開始する。徳川家康との同盟はその強い意志の表れであった。


「此度の戦で今川を打ち倒し、駿河国を手に入れる!! 準備は良いか、頼もしき我が仲間たちよ!!」

「「オオオォォォ!!!!」」


 信玄が率いる兵たちに声をかける。士気は十分どころか十二分にある。だがこれが武田軍の標準だ。織田軍だったら最高潮であろう、これが。

 次に信玄は長年連れ添う将たちに声をかける。


「頼りにしておるぞ、我が親友たちよ」

「「ハハッ!!」」

 

 先程のように声を張り上げる必要はない。将たちも静かに、鋭い返事を返す。信玄は満足そうにうなずきさらなる指示を出す。


「全軍、出陣じゃあ!!」


 武田信玄による、駿河侵攻が始まった。



 同刻、岡崎城。


「僕ら松平家は今まで長い間今川氏に服従してきた!! 僕自身も人質に取られ、今川の武将として戦ったこともあった!!」


 家康は人質、そして義元の配下として戦った期間を思い出す。


「そして今回、僕たちはついに因縁の相手、今川氏を滅ぼす!! みんな準備は良いか?」

「「オオオォォォ!!」」

「今川を倒してこそ僕たちは本当の独立を手に入れる!! 皆、いつも通り、僕に力を貸してくれ!!」

「「オオオォォォ!!」」

「全軍、出陣だァ!!」


 徳川家康による、遠江侵攻が始まった。


 

 武田・徳川連合軍の侵攻に今川軍は窮地に立たされたかのように見えた。事実、徳川軍は遠江に侵攻し数日で2城を落とした。しかし武田の方は初戦の大宮城攻めを失敗し、出だしで躓く形となった。続く内房口の戦いでは今川方の荻清誉を討ち取る大勝を上げ、そのことに危機感を覚えた今川氏真は駿府城を脱出し掛川城へ向かった。


 これは駿河から今川を追い出した、つまり武田の勝利なのだが、武田信玄の前にはさらなる敵が立ちふさがったのだ。


 駿河の用地、薩埵山にて武田軍と向かい合ったのは甲相駿三国同盟の最後の一角・北条氏政。関東の覇者である北条家、その当主本人が同盟国である今川を助けに来たのだ。


 ここに大大名である武田・北条の当主が揃ってしまった。いくら武田信玄であっても北条が相手となれば下手に動くことは出来ない。しかも北条は武田と敵対するとすぐに越後の上杉と同盟し、武田の背後を攻めるように要請した。これにより武田は甲斐国への撤退を余儀なくされたのである。


 帰国した信玄は東に北条、北に上杉、南に今川という絶望的な包囲網が敷かれることになった。帰国してすぐに信玄がしたことは、


「至急、信長公へ文を送れ!! 上杉との休戦交渉を公方様に取り次いでもらうよう!!」


 甲斐信濃の西、つまり美濃を治める信長へ手紙を出すことだった。足利義昭を上洛させ、幕府に大恩のある信長を利用してこの危機的状況を脱しようとした。


「今、もし信長公に裏切られれば武田は滅びるぞ……!!」


 これはまごうことなき事実だった。信長まで信玄に牙をむけば武田は四方から包囲され滅亡する。


 結果的にこれが功を奏し、足利義昭からの命令で上杉輝虎が動くことはなかった。


 

 武田信玄がこうして危機的状況に陥っていたころ、徳川家康は掛川城を包囲していた。もう包囲してから半年ほどたっていた。


「殿!! また朝比奈泰が攻めてきました!!」

「またか……忠次に対応させろ」


 今川軍の最後の砦であるこの掛川城には今川の総力に加え、北条の援軍も入っており激しい戦闘が続いていた。特に朝比奈泰朝という名将がおり徳川軍は攻めあぐねていた。


「このままじゃ埒が明かないな……」


 井伊直政、本多忠勝、石川数正という徳川軍の名将が果敢に攻めているにもかかわらず未だ掛川城は落ちない。今川にはこれ以上援軍が来ることはないだろうしこのままいけば時間はかかるだろうが城は落とせる、だがそれによって出る犠牲は多いだろう。すでに想定の倍以上の犠牲が出ているのだ。これ以上犠牲が出るのは避けたいところであった。


「榊原康政、お前に今川との交渉を頼みたい。掛川城を明け渡すなら命は助けると伝えろ。いいな?」

「ハハッ! お任せください」


 交渉は榊原康政に任せた。家康はあまり期待していなかったが結果的にこれが功を奏した。


 その2日後、今川氏真ら今川軍は掛川城を退去し、伊豆へ去って行った。この時をもって戦国大名今川氏は滅亡したのである。


 今川の旧領である駿河遠江のうち、家康が遠江、信玄が駿河を治めるということことを約束したのが冒頭の盟約である。


 ということで家康は新たに領地になった遠江の端、つまり駿河との国境である大井川を視察に来ていた。


「ここは素晴らしい土地ですな」

「そうだね。今川は土地の管理も素晴らしかったからね」

「配下も仮名目録でよくまとめておりましたな」

「その辺は見習った方がいいかもね」


 大井川とその周辺の土地を見て家康と榊原康政、本多忠勝がそれぞれ感想を述べる。出てくるのは今川の治世への賞賛ばかりだ。家康も氏真はともかく義元のことはすごい人物だと認めている。尊敬する人物の1人でもある。


「おっ、あちらも視察ですかな?」


 忠勝が指さした大井川の対岸には赤い甲冑を着こんだ100人ほどの一団。


「あれは山県政景の隊ですね」

「挨拶しといたほうがいいかな?」

「そうですな……ん? 何か様子が変ですぞ?」


 忠勝が気にかかることを言ったので家康も目を凝らして山県政景の動向を見る。山県政景の一団は水しぶきを上げながらこちらに近づいてくる。


「挨拶、じゃあなさそう」

「殿、お下がりを!! 康政殿、早く殿をお連れしろ!!」

「はい!!」


 忠勝が家康をかばうように前に出る。康政も即座にそれに対応して家康を下がらせる。


「殿、もしかしたら政景殿はここで殿を討つつもりかもしれませぬ!! 念のためお下がりを!! 今襲われたらひとたまりもありませぬ!!」

「う、うん」


 敵が矢を撃ちかけてくる。こちらはわずか10騎、これじゃあ歯が立たない。即座に家康たちは逃げる。山県政景も深追いはしてこなかった。


 浜松城まで逃げ帰った家康たちはあっさりと同盟を破った武田に怒りを覚えるとともに、駿河側の備えを強めた。


(武田信玄、危険な男だ……)


 家康の脳にはこのことが深く刻まれた。そしてこれはのちの三方ヶ原の戦いの時に大きな影響を与えることになるのだがそれはまだ先の話である。

 

 

 


 

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