第12話 上忍とハンドガン
更新遅れてすみません!
今日から再開します。
PV11000ありがとうございます!!
《追記》
百地と藤林の忍者の里が南北逆だったことが判明しました。
正しくは
百地→南
藤林→北
だったようです。修正させていただきます。修正できていない箇所があれば指摘していただけると幸いです。
伊賀の里での生活も1年弱経過し、俺は基本的には学校に行って修行と家での銃の研究、制作、射撃練習をひたすら繰り返した。家にはメイドの祈がいて美味しい食事を用意してくれたり、修行の後タオルを渡してくれたり、その他洗濯、掃除、裁縫からトランプの相手何でもできる超優秀メイドだ。
また、極まれに戦国武将の依頼で忍者としての仕事をこなすこともある。忍者学校の4,5,6年生は個人では依頼はこなせないので2,3人ペアで依頼に行くことになる。俺が組むのは丹波が多い。次点として忍者学校のほかの同級生。そうして任務をこなしていくうちに俺は中忍になった。中忍とは忍者の階級の一つで上忍・中忍・下忍の真ん中に当たる。上忍は服部・百地。藤林の3家からしか排出されないため実質的に中忍は俺みたいな忍者の到達できる最高点である。百地丹波は将来、伊賀国を治める上忍になると里中で一目置かれている天才だ。服部といえば服部半蔵を思い浮かべるがそんな奴はこの里にいないらしい。
そんな活動の中で気づいたのは忍者の仕事というのは戦の中で一人で周りの敵を全員倒す圧倒的戦闘力、みたいな感じではなくスパイといった感じの方が近い。商人に変装して敵国に潜入し相手の情報を探ったり、戦争時に兵士に変装して情報操作したりする。しかも伊賀忍者というのは金で契約して忍者を派遣するため戦争時、敵国同士に忍者を派遣するようなこともざらにあるのだ。丹波に聞いてみたところ伊賀忍者は金で動く組織で、甲賀忍者は忠義で動く組織だと有名らしい。
そんなある日、里に10人ほどの来訪者が現れた。先頭の細身で長身の男は里の入り口のところで
「政永ぁ!出て来いよ!」
と大きな声と里長を呼び捨てにすることで周りを威圧。
「なんだよ、また来やがったのか」
里長がそうつぶやく。
俺は状況がわからず、丹波に聞いてみた。
「なあ、あいつら誰?」
「あれは藤林長門。実はここの北にもう一つ忍者の里があるんだけどそっちの里長。つまりうちの父さんが伊賀国の南半分を治めてるけど残りの北半分を治めてるのがあいつってわけ」
なるほどね。それに藤林って上忍の一家じゃん。あいつも絶対バカ強い。立ち姿に隙が無いし。
「それで何しに来たんだ?」
「なんかあいつ度々この里に勝負挑んでくんだよ。この里をもらい受ける!とか言いながら。それで正々堂々あっちの忍者とこっちの忍者が1対1で戦って勝負決めんの。まあ戦争起こされるよりはマシだしね」
「なるほどね」
「ほら、今回はお前だ。保正」
長門が一人の少年を前に出す。
「あーーー、あいつかーーーー」
丹波がめんどくさそうな顔をする。
「知り合い?」
「ああ、あの長門の息子であの年で上忍。前やったことあるけど割とギリで勝った。忍術の種類がやばい」
「こっちは誰が出るんだ?」
「さぁ?決めるのは父上だから。でも俺か上級生のエリート中忍じゃないと相手にならないと思うよ」
里長がこっちにやってくる。やっぱ丹波か。
「こっちの代表はお前だ」
そう《《俺》》に向けて言った。
へ?俺?
「負けたら里取られるから頼むぞ?」
はぁぁぁぁぁ!?!?
こうして俺は里を賭けた大事な勝負に参戦することになりました。え?なんで?
もちろん俺1人で出るわけじゃなかった。そりゃそうだよね。出場選手は5人。団体戦みたいな感じね。丹波と俺と上級生3人。この中の最低3人勝たないと里を乗っ取られるらしい。本当になんで俺??
1回戦は上級生が出る。あの上級生は学校で最も早い忍者として有名な橘先輩だ。100メートル走のタイムは脅威の10秒27。ウサインボルトにはギリギリ届かないくらいだね。
そんな1回戦目、結果はこっちの敗北。相手が超近距離型で足の速さをあまり活かせていない印象だった。これ2回戦負けたらだいぶまずいよね。残り全勝しないといけなくなる訳だし。
そして2回戦、俺。今回の装備はハンドガンより一回り大きいくらいのサイズの火縄銃。背中に装備した忍者刀。足に装備した火縄銃。ハンドガンより一回り大きい火縄銃というのはここ1年弱の研究の成果だ。銃身を小さくすると精度が悪くなったりして難しかったのだ。精度を保ちながら小さくしようとするとハンドガンより一回り大きいあたりが限界だった。
相手の忍者はいかにも忍者といった感じの普通の忍者だ。特徴は忍者刀が少し長いところくらいかな。リーチを長くしたのだろう。その程度の変化では銃の有利は揺るがない。
「それでは2回戦!始めっ!!」
始まってすぐ、近くの木に駆け上る。手頃な枝に座り、足の銃身の長い銃を取り出す。即座に弾を詰め、狙いを定める。相手は10メートルほど離れた木の裏。そこから様子を伺っている。相手が顔を出す。その口には吹き矢。俺は脳天に向かい銃を発砲。そして吹き矢を避ける。俺の弾丸は頬に掠ったように見えた。
弾薬を装填、再び狙いを定め、発砲する。相手の隠れていた木の枝が落ち、相手が慌てて移動した。その移動中をもう一つの銃で狙い撃つ。外した。
2つの銃に弾薬を装填し直してから、木から飛び降りる。そこに斬撃。でもそれは身代わりだ。相手が剣を振った所に銃身が長い方の銃で狙撃。腕に当たった。命中した事を確認してすぐに今度こそ本当に木から飛び降り、右手で忍者刀を抜き、襲いかかるように《《見せかける》》。相手が俺に向けて大きく剣を振るう。だが俺はそれと同時に後ろに下がる。相手の剣は見事に空を切り、俺はその相手に左手の銃で顔面に赤いペンキをつけた。
「勝負あり!!勝者、坂井千代松!」
勝った。急に気が抜ける。
「お疲れ、千代松。ナイファイ」
「お疲れ様」
丹波と橘先輩が声をかけてくれる。それに続き他の先輩も。
「いい勝負だったよ。あの身代わりの術上手かった」
「これで1勝1敗だな。とりまお疲れ」
「ありがとうございます」
その後の勝負は3、4回戦でまた一勝一敗して決着は決勝にもつれ込んだ。
決勝のカードは百地丹波VS藤林保正。今日1番の見どころだろう。なんてたって上忍対決だからね。
「それでは決勝戦!始めっ!」
2人とも真っ先にお互いに向かっていく。実力が同じくらい高い2人なら忍術でめんどくさいことになる前に近距離で決着をつけたいのだろう。近距離の剣戟であれば忍術を使う暇などないからな。
保正が懐から何か取り出し、2人の中間地点の地面に叩きつける。すると小規模の爆発が起こり、2人の間に煙ができる。火遁の術。丹波はその煙を避けるように、保正は煙の中に入るように立ち回る。丹波が煙の中にさらに火遁の術を行い、自身は煙から一歩引いたところで忍者刀を構える。保正の姿は見えない。
1分、2分と時間が過ぎて煙がどんどん薄くなる。煙がほぼなくなり、辺りが見渡せるようになった時、煙のあった場所に保正はいなかった。
外から見ていた両チームのチームメンバー、それどころか熟練の大人の忍者ですら保正がどこに、いつ行ったのかはわかっていない。わかっているのは里長の百地政永とあっちの里長である藤林長門、それと戦っている百地丹波だけだろう。丹波はまるでいないことがわかっていたかのように煙がなくなっても構えたままだ。
丹波が何もせず、煙があった方面に歩き出す。なんで?と思ったがその理由はすぐにわかる。歩いているといきなり、地面から剣が出てきた。丹波はまるでお見通しだよとばかりに全てを避ける。そして地面に向けて剣を突き立て…直前に地面から保正が飛び出して突き立てられる剣を受け止める。つまり土遁の術で地面に隠れていた訳だ。そこからはただの剣戟だった。その結果、丹波が勝った。保正もかなり強かったが、忍術を使おうとして丹波に邪魔されることが多々あり、終始丹波が押していたように見えた。
こうして里をかけた団体戦は俺たちが無事里を守りきったのだった。
試合後、保正が俺に話しかけてきた。
「お前、気に入らねえな。剣でやるのかと思ったら騙して銃で撃つ。その人を手玉に取る感じが気にくわねぇ」
唐突にこれだ。嫌われてしまったらしい。
「火遁や土遁だって騙してるじゃないですか。それと何が違うんです?」
「ごちゃごちゃうるせえやつだな。消すぞ?」
正論言った途端にこれだよ。本当に力だけ強くてバカなやつって本当にどの時代にもいるもんだね。
「すみませんでした。では失礼します」
適当に謝って家に帰ることにする。そうして踵を返した俺の首筋には短刀が突きつけられている。
「お前如き、俺に取っちゃ殺すのくらい分けないんだからな?よく覚えとけよ?」
そう脅してくる。それに対して俺は
「お前もな」
脇腹に突きつけた銃を見せつけてそう返した。
保正の顔が驚愕に代わる。そこからすぐに恐怖の顔になり、最後に憤怒に染まる。
「てめっ!?」
「なんだよ?お前から喧嘩売ってきたんだろ?俺はこのまま撃ってもいいんだぜ?上忍」
「……くそっ!!」
首の短剣を引く。俺も銃をおろす。
「お前……覚えてろよ」
「善処する」
そういって保正は去って行った。
後日談だが俺が今日試合で倒した忍者はあいつの弟だったらしい。弟が新入りで銃なんかを使う奴に負けたのが気に入らなかったらしい。全く、迷惑な話である。