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【短編】天才科学者のじっちゃんと異世界に行く話

作者: 日柄詩歩

俺のじっちゃんは天才科学者だ。

親戚や周囲の人達は“自称”天才科学者だと言っているが、俺は本物だと思っている。


俺が高校三年のある日、じっちゃんから呼び出された俺はじっちゃんの研究所、もといじっちゃんの家にやってきた。

じっちゃんの家は平屋の一戸建てで、地下がじっちゃんの研究室になっている。


俺は土産にじっちゃんが好きな漫画が完結したので最終巻を買ってきた。

じっちゃんの話が終わった後に見せてあげよう。

俺はインターホンを鳴らす。


じっちゃん、孫が会いに来たぜ。


     ◇


今まで数々のとんでもメカをじっちゃんから見せられてきたが今度のは極めつけだった。

よく分からない発明品が大量に転がる研究室内で、じっちゃんが発明した品を片手に自慢げに語る。


「坊よ、見るがよい。これが異世界に転生出来る大発明。その名も“異世界転生光線銃”じゃ」


そう言ってじっちゃんはおもちゃみたいにチープな見た目の光線銃を無造作に構え、机の上に置かれた林檎に向かって光線銃の引き金を引いた。


するとやたらと派手な光線が林檎に命中したかと思うと、林檎は瞬く間に消滅した。


じっちゃんによると異世界に飛ばされたらしい。


まじかよじっちゃん、今度の発明はガチですげーよ。


今までの“配送伝票の接着剤を包装紙から綺麗に剥がす装置”とか“失敗して埃が入っちゃったスマホの保護シートを綺麗に貼り直す装置”とか“角だけがやたらと固い豆腐を作る装置”とかが霞んで見えるレベルじゃん。


「数多の失敗を経て遂に完成したんじゃ」


そういってじっちゃんは部屋の隅に転がる数々の装置に目を向け苦労話を始める。

話は一時間に及んだが、開発秘話とかが好きな俺にはあっという間の出来事だ。


「――そしてこの異世界転生カプセルでほぼ完成したんだが思ったようにいかなくてな、設計を見直して小型化に成功したのがこの光線銃じゃ」


じっちゃんが物置くらいのでかさのカプセルから手元の光線銃へと目を向ける。


物置から光線銃って小型化ってレベルじゃねーぞ。

いやもう俺のじっちゃん凄すぎんだろ。天才か。天才だったわ。


親戚はじっちゃんの事を趣味や道楽でゴミを作ってる変人扱いしていた。

俺も普通とは違うと思っていたが、なんだかんだ世話になったじっちゃんには懐いていた。

そしていろんな発明をしていたじっちゃんはすげぇ人なんだと信じていた。


「坊よ、わしは異世界に行って来るぞ」


俺もついて行きたいところだけど、高校も卒業しておきたいんだよなぁ。

授業料がもったいないし……。


「そうか、だったら使った光線銃は置いて行くから安心せい」


そしてじっちゃんは自身に向かって異世界転生光線銃を構え引き金を引くと林檎と同じように姿を消してしまった。


後に残ったのは光線銃のみ。

俺は何気なく光線銃を拾い上る。


その時俺はじっちゃんに漫画を渡してないのを思い出した。


俺は漫画を取り出すと、漫画に向かって光線銃を使う。

しかし光線銃は無反応で漫画もその場に残ったままだ。


おいおいじちゃん、光線銃使えないんだが。壊れちゃったのかな。


何気なく視線を横に動かすと目に入ったのは物置サイズの巨大なカプセルだ。

じっちゃんはほぼ完成したと言っていたからこれで送ることが出来るんじゃないか。


そう思った俺は漫画と光線銃を持ったままカプセルの扉を開けて中に入り込む。

そして、漫画をカプセル内に置こうとすると、突然カプセルの扉が閉じてしまう。


はぁ!?閉じ込められた!?


焦った俺が勝手にしまった扉に近づこうとすると急に意識が遠のいていき――




気がつくとこれはまた見事なお花畑で、じっちゃんと特上の美少女が口論しているところに出くわした。


二人が俺に気づく。


「坊、なんでお前さんもここにおるんじゃ?」


じっちゃんが不思議そうな顔でこっちを見た。


その横では美少女が顔をしかめながら嘆いている。


「ええぇ、また一人増えたんだけどぉ……」


しかめっ面でせっかくの美少女が台無しだ。


とりあえず俺は美少女のことは無視してじっちゃんに持っていた漫画を見せる。


俺はじっちゃんに漫画を届けに来たんだ。


「おお!すまんのぉ、助かるわい!」


じっちゃんに漫画を渡すと隣の美少女をチラリと見る。


ところでこちらの美少女はどちら様で?


じっちゃんが事情を説明してくれた。


この緑髪ロングつり目紫眼ナイスバディの美少女は女神で転生を司る存在らしい。

異世界転生でお約束をしてくれる定番的存在だ。実在していたのか。


女神は突然現れたじっちゃんにどうやってここに来たか問いただしていたようだ。


そこに俺がやって来たところらしい。


じっちゃんは自身の発明した光線銃でここにやってきたと説明した。

しかし女神は人間にそんな事が出来るわけがないと、はなから信じるつもりがないようだ。

だがこの場所にはじっちゃんは居るし、そばには先ほど試しに撃った林檎が転がっている。


俺が林檎を拾い上げる。


これさっき実験で異世界転生させた林檎じゃん。


女神が俺の台詞を聞いて急に怒り出した。


「たまに変な物が現れると思ったらお前らが原因か!!」


女神が怒り心頭おこると地団駄踏む。


「そもそもこの転生の間は死者の魂が導かれてくる場所です。なんで生者のあなたたちがここに居るんですか。そもそも有り得ないはずなのに!」


「不可能を可能にするのが天才の(さが)……」


「やかましいわ!」


女神はひとしきり喚いて発散すると面倒になったのかおざなりな態度で言った。


「はぁ、とりあえず面倒なので転生特典与えちゃいますね。おじいちゃんの方は……若返りでいいか」


どうやら特典に選択肢はないようだ。


そもそも若返りって転生するんだよな。意味があるのか?


「あなたたちはそもそも生者なので、肉体を与える手間が無いんですよ。なので厳密には転生ではないですね」


「なん……じゃと……。それでは異世界転生ではなく異世界転移ではないか……。わしの研究は間違っておったんか……」


女神の言葉にじっちゃんが狼狽えている。


女神はじっちゃんの言葉を適当に流し手をかざした。


「はいはい、えいっと」


女神のかけ声でじっちゃんが煙に包まれる。


そして煙が晴れると背中の曲がった老人ではなく一人の少年が立っていた。


俺と同じ位の年齢、つまり高校三年位の容姿になった。

頭皮が露出してさみしかった頭部もふっさふさだ。


おお、じっちゃんイケメンじゃん。


「ほわぁ――!」


俺の横では若返ったじっちゃんに見とれた女神がときめいていた。


じっちゃんは若返った体の具合を確認している。


「おお、力がみなぎってくるわい」


喋り方は変わらないんだな。


「そりゃ長年の習慣はすぐには抜けんじゃろうて」


一通り確認したじっちゃんは俺が持っていた光線銃に目をやると言った。


「さっきから気になっていたんじゃが、どうして光線銃を持ってるんじゃ。光線銃の光線は、光線銃本体には効果が無いから使ったら置いてくるはずなんじゃが」


俺はじっちゃんの異世界転生カプセルを使ったと言った。

光線銃は壊れて使えなかったからだが。


「光線銃は一度使うとチャージが必要なんだ。それと転生カプセルは使えるが問題もあってな……」


え!?完成したって言ってたから普通に使っちゃったよ……。


しかし俺は無事(?)にここに居る、なぜなのか……。


「カプセルを使うと爆発してそのエネルギーで異世界に行けるんだ」


それはつまり、俺は実質爆死したも同然なのではないか。生きているけど。


「まあ、研究所の後始末の手間が省けたな」


じっちゃんは特に気にしてない様子だった。

まあ俺も元の世界にそこまで未練ないしな。読んでた漫画も完結まで見届けたし。


ときめいていた女神が我に返ると俺の持っている光線銃を見て鼻で笑う。


「ふん。それが例の光線銃とやらですか。まるで安っぽいおもちゃみたいですね」


実際に安っぽい見た目は事実なので否定できない。


俺が何気なく光線銃を女神に向かって構える。


お前も異世界転生させてやろうか。


「ご冗談を。そんな装置で出来るわけがないでしょう」


女神が呆れたように肩をすくめる。どうやらまだ信じてはいないようだ。


「おい坊よ、冗談でも銃の形をした物を人に向けてはいかんぞ」


じっちゃんも俺をたしなめる。もちろん本気じゃない。


冗談だよそれにチャージしないと撃てないんだろう。


俺が構えを解こうと気を緩めた時、引き金に掛けていた指が引き金を引いてしまった。


光線銃の先端からやたらと派手な光線が発射される。

俺は光線が女神に向かって放たれるの見た。


「あ――」


それは誰の言葉だったろう。


俺かもしれないしじっちゃんだったかもしれない。

もしかしたら女神だったかも。


気がつくと女神は一瞬の輝き共に忽然と姿を消してしまった。


俺はじっちゃんと顔を見合わせる。


チャージしないと使えないんじゃ?


「オートチャージなんじゃよ、一二〇秒でまた使えるようになる」


クールタイムか何か?完全にゲームじゃん。




その後、俺とじっちゃんは新たに現れた別の女神によって異世界転生、もとい異世界転移させて貰った。


そして転移先で同じように異世界転移した女神と再会し一悶着あったが、今では三人でつるんで馬鹿やって楽しく異世界ライフを満喫している。


やっぱりじっちゃんは天才だ。


     ◇


異世界に転移させられた女神の代わりにやってきた代理女神は困惑と共に二人の生者を見送った。


転生の間に生者がいるのもおかしいし、それが二人も居るのもおかしい。

そもそも、この時間を担当している女神はどこに行ったのだろうか。


あとこの林檎はなんなの。

差し入れかなにかなら食べてもいいのかしら。


代理女神の頭の中は困惑でいっぱいだったが、業務時間は残っている。

そうこうしているうちに次の魂が導かれてやってきた。


「導かれし魂よ、よくぞ参られまし……た……?」


代理女神の言葉は最後まで続かなかった。


なぜなら転生の間に現れたのは人ではなかったからだ。

いや、そもそも生物どころか死者ですらない。


代理女神の困惑した瞳が見つめる先に居たのは一つの丸い球体だった。


それは一言で言えば青く煌めく球体だった。

よく見ればまばらに白い部分が不規則な模様のごとく、流れるように表面を動いている。

また所々に茶色や緑色の大きな柄も見て取れる。


「な……、どうして……」


代理女神の前に現れた存在。

それは“地球”だった。


異世界転生カプセルが爆発したとき、じっちゃんの研究室にあった数々の発明品も爆発に巻き込まれて消失してしまう。


このときカプセルの爆発エネルギーと数々の転生実験装置や発明品が混ざり合い不可思議な現象を起こし新たな転生効果が地球全体規模で生じてしまう。


これにより地球そのものが異世界転生することとなってしまった!


しかも、地球の意思の様な物が主体となって転生の間に送られたので、人類どころか地球環境含めて全てがリセットされてしまう。


転生の間にやってきた地球は代理女神に向かって語った。


曰く、


「地球は疲れる。もっと静かな惑星になりたかった。次の惑星ライフではスローライフで送りたい」


「ええぇ、惑星が転生するなんて前代未聞なんですけどぉ……」


この後、代理女神が神々の間を奔走し惑星が転生可能な宇宙を何とか用意したため、地球は望み通り異世界宇宙に惑星として転生を果たした。


地球が異世界で惑星のスローライフを無事に送れたかはまた別のお話。


なお地球が転生するにあたって、地球の神々は泡吹いて倒れたらしい。

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