夢の中の少年
夢を見ていた。
幼い頃の自分が、母のくれた帽子を被り、人間の子供に化けて笑いながら野原を駆け回っている。
それが現実にあったことなのか、それともただのイメージなのか、クレには判別がつかない。ただ、細部を思い出せないだけで本当にあったことのような気がする。じんわりと胸に広がる懐かしさが、クレにそう感じさせる。
夢には、自分と母の他に、もうひとり登場人物がいる。
彼は、クレより少し背の高いお兄さんだ。
二人は初めて出会ったはずなのに、きょうだいみたいに心が通じ合っている。クレは何度も彼にじゃれつこうとする。彼は困ったように、でも笑ってそれに応えてくれる。何をしても楽しくて、クレはこの時間がずっと続けば良いのにと思う。
一緒に遊びながら、クレは彼の孤独を感じてもいる。子供のうちは決して近付いてはならないと母からきつく言われていた、森の外のこわい人の世界。そこからやってきたはずなのに、彼にはどこかクレを安心させる雰囲気があって、でも、多分そのせいで少年は人間の輪の中から爪弾きにされている。クレには何となくそれがわかる。
彼の居場所は森の中にもない。
やがて別れの時間が来て、クレが母に手を引かれて住処へと帰るときも、彼はクレに向かって小さく手を振りながら、いつまでも野原に立っている。
森と人の世界の狭間で、どこにも行けないまま、彼は一人きりで、そこに留まり続けている。
そして夜になり、彼を取り残したまま、世界は闇に包まれる。
空にまるい月がかかる。遠くで獣の鳴く声がする。