遭遇
「ラッ、ララッ、ラルフさんッ!?」
クレはその場に尻餅をついた。
ラルフの手には猟銃がある。格好も完全に狩人のそれだ。
――待ち伏せされていた!!
――こっ、殺される!! ストールにされる!!
「はっ、剥がないでくださいっ!」
「えっ? あっ、いや、流石に逃がすよ! こんな小さいの……」
ラルフは慌てた様子で言った。
――……逃がしてくれるのか? いや……微妙に会話が噛み合っていない?
クレが恐る恐るラルフを見上げると、彼は銃を持っていない方の手で一羽の兎を捕まえていた。さっきの兎だ。両耳をまとめて持ち上げられ、諦め切った表情でぶら下がっている……。
「ちょうど仕掛けた罠に突っ込んできたからとりあえず捕まえちゃったんだけど……だ、大丈夫! 小さい兎だしちゃんと逃すつもりでいたから! そ、そんなにドン引きしないで……」
「……ああっ、いえっ、ハハっ、なら良いです!」
咄嗟に口走ってしまった我が身可愛さの命乞いが、兎への情けを乞う優しさ故の訴えに聞こえたらしい――クレは、生まれて初めて全力で兎に感謝した。兎が先に茂みに入って罠を作動させてなかったなら、林に入ってすぐ狐に戻るつもりでいた自分がその罠に引っ掛かっているところだった。しかも、猟銃を携えたラルフがすぐそばにいる状況で……。
――一応まだ、狐の正体がバレたわけではない。
ラルフがこんな時間にこんな場所にいるのは何故か謎だが、逃げてしまえば関係はないはずだ。
クレは自分にわかる範囲で状況を整理し、ちょいと腹ごなしに散歩に出かけたら兎を見かけたんですとかなんとか言ってこの場を誤魔化そうと思い、立ち上がった。
そしてまた転んだ。
腰が抜けていた。