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俺が一番大好きな家族を今日、殺します。

作者: 鼎ロア


俺には、お母さんと弟しかいなかった。

お父さんは弟が生まれる直前に死んだ。俺が6歳の時だったよダサい死に方で、正直そこまで覚えてない。


弟は、とてもかわいかった。いっつも僕のそばで笑ってくれていた。自慢の弟だったよ。でも、いっつも俺を頼ってきて、お願いお願いって言ってくるんだ。少しめんどくさくなったときもあったよ。でもまあ、かわいいんだけどね。


でも、それに反して弟はとっても勇敢だったんだ。

俺、結構な虫嫌いだったんだけど、10歳の頃かな。庭で遊んでいたら急に蜂がやってきてワーワーと騒いで逃げてたら、弟がその蜂を追い返してくれたんだ。

その弟の後ろ姿はめちゃくちゃかっこよかったのを覚えてる。


とにかく弟は、できないことやできることが色々おかしかったんだ。でも、俺にとってはかわいい弟だったよ。


ある時は俺と一緒に寝て、ある時は一緒に遊んで。毎日が弟といるだけで癒やされた。

おかしいよね。お兄さんである俺がこんなに弟に助けられてるみたいな感じで。でも、弟はそれを嫌がってるわけでもないし、むしろ俺に懐っこかったから、昔の俺は全然おかしいとは思わなかったよ。




そして、俺が中学二年生の時。

弟の様子が、ガラッと変わったんだ。人懐っこかった弟が激変して、あまり俺とも遊ばなくなった。

家に帰ると、ぐでーんとしている弟を見ることも多かった。少し体調が悪いのかと、お母さんと病院に行ったこともあったよ。それでも、病気とかではなかった。


それがずっと続いて、俺は三年生に進級した。

いよいよ受験が待っている三年生。弟も体調が悪いながらもとっても応援してくれたよ。


最初は二年生と同じように、勉強も頑張って普通に過ごした。

だけど、二学期の中間から、普通の勉強をやめた。

必死に勉強をしたんだ。そのお陰か、期末テストではすべて80点超えの良き点となっていたんだ。


一月。東京の私立高校の受験を受けたんだ。

もうそれは必死だったね。受からなければどこに行くんだよ!って人生をかけてた。もちろんその期間は全然弟とも話せなかった。


そして、受験終了。眩しい炎と喜ぶお母さんの声で、俺はやりきった気持ちを感じていた。

そう、無事に合格したのだ。弟も、その時はすごい喜んで、昔みたいに抱きついては一緒に喜んでくれた。

俺は、完全に安泰だった。最後の中学校生活を満喫しながら優雅に楽しんでいた。


そんなある日。学校でいつも通り友達と話をしていると。


プルルルル


ってスマホが鳴ったんだ。

なんだなんだと思いつつ画面を見てみると、お母さんからの着信だった。


「どうせ『晩ごはんなにがいい?』とかだろうな」


友達に苦笑いを見せつつ、僕はその着信に出た。

すると、


「友希!?やっとでた……やっと……。あ、あのね、驚かないで、冷静に聞いてほしいの。太郎が、太郎がさっき急に倒れて、病院に搬送されたの。今すぐここに来れる?というか来て!」


そう言ってお母さんは電話を切った。

太郎と言うのは、俺の弟の名だ。かわいいかわいい、自慢の弟の。


「おい、やばくねえか?」


友達の一人が俺にそう言った。

ああ、やばい。とってもまずい。


「すまんけど、先生来たら家の事情で帰ったって言っといてくれ。頼んだ」


俺は了承の声を聞かず、支度をしたらすぐに学校を出た。

校門をを通り、歩道に寄ると、お母さんからのメールを受け取り、病院の位置を確認する。

だいたい頭に叩き込んだら、急いで走り俺は病院に向かった。


三十分くらい走り続けていると、やがて病院が見えた。

元々バスケットボール部に入っていたので、体力はなんとか持った。


「友希!友希!」


病院の前で泣きながら俺の名前を呼んでいるお母さんを見つけた。


「母さん、太郎は!?太郎はどうなったの!?」


俺は、つい感情で母親の肩を掴んで問いただした。


「そのことは、私がお伝えしましょう」


病院の扉から、医者と思わしき人物が出てくる。


「太郎君は、未だ意識が戻っておらず、病気によるものだとも言い難い状態です」


それから俺は、太郎のいるところまで連れて行ってもらって、ビクともしない弟の顔を見る。

いつもの楽しげな表情は消えていて、ほんとうに気絶しているように見える。


「恐らくは、激的な体調変化で、昏睡状態に陥っているかと思われます」


その後、そこで色々と細かいことを聞いて、俺とお母さんは弟をその病院に一度預け、家に帰った。

家に帰ると、賑やかな雰囲気は消え、俺はすぐ風呂に入って寝た。ただ弟の無事を祈ることしか、俺にはできなかったから。




それから二ヶ月経った中学校の卒業式前日。

俺は、お母さんに呼び出しを受けた。あの病院で待っている、とただそれだけをメールに乗っけて。


なにか進捗があったのかと思い、俺は期待に胸を膨らませながら病院に向かった。

ようやく元気な弟が見れる。そう、信じて。


「待ってた」


お母さんは、少しだけ涙を堪えたような顔をして、俺を病院の中に案内した。

案内された場所は、案の定弟が眠っていた所。そこにあのときの医者も居て、俺はなんだなんだと思いながら椅子に腰掛けた。


「友希くん。君は……太郎君のことが好きかい?」


優しく、穏やかな声で俺に聞く医者。

なにを言っているんだ、こいつは。


「そりゃあ、大好きですよ。俺にとっての、大事な家族です」


真剣な顔で、俺は答えた。

俺が、あいつに何度救われて、何回一緒に遊んで、笑って、寝て。どれだけの思い出を築いてきたことか。あいつがいてくれてあから、俺は勉強も学校も頑張れたもの。あいつがいなければ、きっと俺は受験に落ちていたかもしれない。


「そうか」


医者はなんだか言いづらそうに視線を逸らす。


「少し、大事な話があるんだ」


医者は改めて視線をこちらに向けると、言葉を発した。


「この二ヶ月間で、太郎君には、もう寿命が少ないということがわかったんだ。それから、どうにか寿命を伸ばせないか治療を数回に渡り行った。だけど、そこで寝ている太郎君を見ればわかると思うが、昏睡状態のままだ」


チラッと弟の方向を向くと、相も変わらず眠っていた。

早く起きてくれないと、お兄ちゃん、悲しくなってくるよ。


「とても悲しいことではある。昔からの思い出も、ずっと育んできた信頼も、全てがここにつまているのだから」


そう言って医者は俺の胸に人差し指でツンとした。

なんだか嫌な予感がするのだ。母親のうめき声が聞こえる。必死に抑えていた涙が溢れるように、手で拭いきれていない涙が地面にこぼれている。


「だけど、私達は前に進まないと行けない」


なにかを確信したように、脳に冷たいものが昇る。


「君のお母さんから、聞いていた。君は太郎君を大切にしていると。だから、君に選んでほしいんだ。このまま、眠っている太郎君の最期を見守るか、太郎君を楽にしてあげるか」


そこで、この医者がなにを言いたいのかようやく理解ができた。


「眠っている太郎君の寿命が尽きるまで、見守っていたいというのであれば、私はなにも言わない。だけど、この昏睡状態になっている、全身の感覚のない太郎君を楽にしてあげたいと、私は思っているよ。きっと、今も苦しんでいるはずだ」


涙が溢れる。思い出が、一気にフラッシュバックして、全身の血の気が引く。


「君に全てを任せる。楽にさせてあげるか、最後の最後まで見届けるか」


医者は、穏やかな表情で俺の顔を見やる。

きっと、後伸ばしにはしては行けない話だ。頭でわかっているけれど、記憶がその考えを邪魔する。

弟は、もう死んでしまったほうがいい。苦しめるより、このまま楽にしてあげたほうが、きっと弟も喜ぶのだろう。


「太郎を……太郎をっ」


なかなか声に出せない俺のことを見ると、医者は俺の手を掴んだ。


「別に、悪いことをしているわけではない。これが、最大の優しさと思うんだ。君の決断で、太郎君が君を恨むとは思わないよ」


そう、後押ししてくれた。

俺は気持ちを落ち着け、冷静にする。心を落ち着かせたら、霧で見えなかった答えははっきりと頭の中で出てくる。


「太郎を、楽にさせたいです」


そう決断し、俺は強く宣言した。

医者は頑張ったねと声をかけてくれた。

その間、お母さんは泣き崩れていた。お母さんの方が、俺よりも弟の面倒を見ていたから、それも無理はないと思う。


そうして、俺は中学卒業前日に、弟、太郎の命を取った。あの人懐っこい声が、頭の中でフラッシュバックするのを感じたよ。

「ワン」とだけ鳴いて、俺に飛びつく姿は、いつ思い出してもかっこよかった。

誰よりも俺の助けになってくれる、俺の自慢の弟だ。ただ少しだけ、弟の前では笑っていたかったけどね。


なんか全然やる気でなくて半鬱でしたけど、久しぶりの短編です。


よければ評価などをしていただけると嬉しいです。

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