ヤンデレ男子VSヤンキー少女
ヤンデレにちゃんと対抗する強い少女が書きたかったのにどうしてこうなった……
「おはよう、時雨」
「……おはよ、逸義」
いつものように高校に向かう途中、隣に住む同い年の幼馴染である逸義がいつものように話しかけてきた。
「ねえ、学校平気?なんかやなこととかない?大丈夫?」
「大丈夫だって毎日言ってるでしょ」
「でも中学校の時いじめられてたって実績あるじゃん。本当に大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。その為にわざわざ遠い高校に通ってるんだから」
まぁそもそもいじめられたなんてこと、ねぇんだけど、と心の中で呟く。
そしてそれを知ってるか知らないかわからない、不気味な幼馴染の方を向くとニコッと微笑まれてしまった。
私は小さくため息をついた。
やれやれ、本当にこいつが何考えてるかわからん。
私の名前は矢城時雨。高校1年生。今は普通の高校生だけど、中学校の時は結構荒れていた。
私は小さい時から細かいことを気にするのが苦手だった。だから、私の頭にはいつも、全ての行動をすっ飛ばした行動の最短ルートに行けるコマンドがあった。
『逃げる』『サボる』『無視する』など。
その中でも代表的なのが、『殴る』。
7歳の時に見たドラマで、女の人が別の女の人に旦那さんを奪われて、復讐する為に何年もかけて計画を実行していく内容だった気がする。それを見て私は感想を一言。
『なんでなぐらないの?そしたらすぐかいけつするのに』
『……しぐちゃん、それ誰に聞いたの?』
『おとーさん』
それを聞いたお母さん(元ヤンキーの女リーダー)はその場で何も言わずに私の頭をなで、その夜夫婦でのHANASHIAIが起こった。
次の日お母さんが「うふふ、しぐちゃん、殴るとか暴力とか、そういうことを外では言っちゃいけないし、しちゃいけないのよ?」と言ってきた。お父さんはどこ、と聞いてみたら、「今日は疲れてるのよ〜」と言ってきた。いまだにあの時のお母さんの表情が忘れられない。
おっと話がそれた。まぁとりあいず、私はとてつもなく暴力的思考な上に話を聞いたらまず手が出るタイプの、短気な性格だと言うことだ。ついでに口も悪い。
そしてその性格が大爆発したのが中学生の頃。入学式の日に、頭弱そうな陽キャに馬鹿にされたのが始まりだった。
自慢じゃないが私は美人だ。高めの身長に優等生そうな見た目。黒髪ショートの清楚美人。
ん?見た目詐欺?なんのことかな。
それで私の見た目に嫉妬したやつらやがなんだか私のことを馬鹿にしてきた。
確か……『真面目ぶった見た目してキモいんですけどw』とか『私可愛い〜って思ってるんでしょw』とかだった気がする。
まぁとりあいずその言葉を聞いて私は、『理屈を並べて反論する』『被害者ぶって相手の印象を悪くする』などの意見が頭に浮かんでいた。因みに泣き寝入りなんて言葉は私の辞書には存在しない。
そして今回も登場してくれたコマンド『殴る』様。
私はそれを選……びたかったけど、さすがに中学校の入学式で暴力沙汰はまずいと考える余裕くらいはあったので、近くに寄って『うるせぇよブスが。ブスは大人しくその顔面晒してバカやってろ』と拳の準備をした状態で脅s……平和的に解決した。
そしてそこからは早かった。私には一気にヤンキーという噂が立って、無事孤立した。ならいっそのこと、と学校にいる悪いのがカッコいいと思ってるバカどもを殴って脅したり、治安の悪いところに行って喧嘩を買ったり売ったり。聞けば母も同じようなことをしていたと言う。血は争えないな☆
まぁそんなふうにヤンキーな感じの中学時代を送った私だが、私の生活を一変させる出来事が起こる。
そう、それこそが現在進行形で隣にいる幼馴染、七瀬逸義の存在だ。
こいつとは私が小学生の頃からの付き合いで、まぁそれなりに仲良しだったんだが、いつからそんなこいつになんだか違和感を覚え始めた。
違和感を感じたのは、私が中1年生の時だ。その日私は風邪をひいて学校を休んでいた。しっかり寝て目を覚ました時、少し楽になっていたので、ずっと寝てばかりでそわそわしていたため部屋を片付けようとした。
そしてゴソゴソと棚を綺麗に並べていると、なにかがポロッと落ちた。拾ってみるとそれは、
監視カメラだった。
ピシャアアァン!
と雷に打たれたような衝撃を受けて呆然としながら私は「気っ色悪りぃ」と思った。てか声に出した。
そして嫌な予感がした私は、他の所も隅から隅まで探した。すると私の部屋から合計5個の監視カメラが発見された。その時私は怖さよりも戸惑いの方が大きかった。何、私が美少女なのはわかってたけど、こんなこと誰がするの……?と。ん?ナルシスト?誰か何か言ったかい?
私は考えた。最近家にあげたのは誰だったっけ、と。そして考えるまでもなく、1人しかあげていないことを思い出した。私は自分の部屋に滅多に友達をあげない。あげるのは心を許した本当に信用できる人だけだ。
そしてその心を許した人に入るのが、そう、七瀬逸義だったのだ。
気付いた瞬間、気色悪さが込み上げてきて、あいつの信用はゼロ振り切ってマイナス100くらいまで落ちた。
でもまだ確定じゃないから、と、翌日にまだ体調が悪いふりをして学校を休み、逸義の部屋にお邪魔してきた。(決して不法侵入ではない。ちょっと窓から入っただけだ。)
そして逸義の部屋を漁ってみると、出るわ出るわ、私のストーカー記録。
これは粛清(拳)するしかない、と思ったが、ふと、なんでこいつがこんなことをするのか気になった。私と遊ぶときはいつも普通の態度だったのに。
そう考えた私は、こいつを探りながら放置することにした。
こいつに私を警戒させない為にヤンキーである事を隠し、代わりにいじめられていた、と教えたし、(逸義は私立中学に通っていたため噂は知らない)隠しカメラは元の場所に戻した。代わりに私は部屋でのリラックスタイムを失った。
そして今に至るわけなんだが……
高校生になってもこいつは変わらなかった。相変わらず毎日私のことを盗撮するし、監視カメラどころか盗聴器まで仕掛けられるし。毎日精神がすり減っていく。
はぁ。そろそろもう最短ルート通っちゃおっかなぁ。
ちなみにこの出来事における最短ルートは『ストーカーしていることを脅しながら殴る』だ。
◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎
そんな毎日を過ごしていたある日、私は定期的に行く逸義の部屋に居た。あいつがどこかにいった日や、私が休みの日を狙って何かバレていないかをチェックしているのだ。ちなみに全部窓から。(決して不法侵入じゃ以下略)
「うわー、相変わらず気色悪りぃー」
逸義がつけている私についての日記には、部屋での盗撮や盗聴で見聞きした私のことについて語っていた。そうそう、途中で気付いたんだけどこいつ私のこと好きみたい。なんか私の全てを知りたいーとか、愛してるーとか、ポエマーみたいなことを書いてた。
そして頭のいい私気付いてしまった。こいつの最大の弱みを。
「ふふ……これでやっとあの野郎から、真相が聞けるなぁ」
おっとつい淑女にあるまじき言葉つかいをしてしまった。よし、明日こいつにとっておきの秘密をぶちまけてやろう。
そんな思いを胸に、るんるん気分で自分の家に戻ろうとしたその時。
ガチャ
部屋のドアが空いた。
私はビクッ!と飛び跳ねて恐る恐る後ろを振り返る。そうしたら案の定感情の読み取れない目をした逸義がこちらを見ていた。
「時雨……?こんなところで何をしているの?」
いつものニコニコした顔や明るい声が嘘のように平坦な声で私に話しかけてくる。
「い、いや、これは、その……」
私が言い淀んでいるとあいつはずんずんと歩いてきて私を壁まで追い詰めた。
「っ!や、やめてよ……」
「やだ。やめない。ねえ、見たの?この部屋にあるもの」
有無を言わせぬ表情で逸義が語りかけてくる。
「……うん。見たよ。ずっと前から知ってた」
「……やっぱりね。おかしいと思ったんだ。監視カメラで君の部屋を見ている時も君はなんだか警戒しているし、最初に僕が取り付けたところから微妙に位置がずれているし。でも君がなにをしようとしているかが分からなかった。どこで僕がこんなことをしているって知っているのに何も言わないのか。確信が持てなかったんだ」
終始無表情で喋る逸義に冷や汗が止まらない。
「だから、僕は君を泳がせてみることにしたんだ。君は僕のことを泳がせている気になっていたようだけど」
そう言って小さく笑う逸義。
ヤバイ……こちらの考えが完璧にバレてる。
でもこちらには、最強のカードがある。私はバレないようにそのカードを切る準備をした。
「まぁとにかく、そんなのも今日で終わりさ。聞きたいことなんてこれからじっくり聞けばいいし」
そんなことを言いながら逸義は近くの棚から手錠を取り出した。
「それ…何に使うつもり?」
「そんなの決まっているじゃないか。君が逃げ出さないようにする為だよ」
そんなことを言いながら私の手をとって手錠をつけようとする。私をここに拘束するつもりだ。
「な、…なんで私にこんなことをするの?」
怯えたような表情で逸義に問う。
逸義はあっさりとそれに応えた。
「時雨のことが好きだからだよ。ずっと前からね」
とても上機嫌に微笑みながら手錠を閉じようとする。
「す、好きって、なんで……」
さぁ、ここが一番重要だ。
逸義はとろけるような笑顔で応えてくれた。
「いつも誰かのために動いて、誰にでも平等に優しい。自分がいじめられてまで人のことを優先するその心!そして何より昔から人と違うことが多かった僕のことを唯一差別しなかった!それがどれだからさ嬉しいことか、君に分かるかい?」
「……分からないよ」
「それでもいいよ。ずっと僕と一緒にいてくれれば」
確かにこいつは昔から少し人と考え方が違かった。でもそんなこいつの気持ちなんて分かるものか。
だが今のではっきりした。
こいつは、私がいじめられていたと思っている。つまり、私がヤンキーだと言うことを知らない!
そして私は、最強のカードを切った。
「私はそんな人のために何かできるようなお利口ちゃんじゃねぇよ」
「っ?」
「その様子じゃやっぱり知らなかったみてぇだな。いいよ特別に教えてやる」
言いながら私は、壁に追い詰められた私と逸義の位置をくるっと入れ替えた。
「ーぐっ!」
「お前女子に力で負けるとか情けねぇな。まぁ私が普通の女子じゃないことは私が一番わかってるけどな。」
おっと話がそれた。
「で、なんだっけ。私がどうしてこんな話し方でこんな性格が違うのかって言いたい顔だな。それはな……中学生の時、私はいわゆるヤンキーだったんだよ」
私に追い詰められた逸義が目を見開く。
「本当に知らなかったのか。お前なら調べてると思ったがな。まぁこのことに関しては私が全力でバレねぇようにしたからな。バレてたら嫌だったけど、大丈夫だったか」
私はにっと笑って逸義に向かって言った。
「どうだ?全てを調べた大好きな女の子の正体がこんなヤンキーで、おまけに全て調べたと思っていたら一番大事な事を調べられていないと分かった気持ちは?」
ここはもう賭けだった。さっきは逸義が油断してたから力で勝つことができたけど、いくら私が強いと言っても、所詮女の子の力だ。素手でやり合ったら負けてしまう。(なお素手でなかったら勝てる)
今私は逸義がどんな反応をするか、全く分からなかった。
ふいに、下を向いていた逸義が顔を上げた。
そして、私と目を合わせずに、
「……恥ずかしい」
と一言だけ言った。今私は同じくらいの身長の逸義を壁に追い詰める、いわゆる壁ドンをしている。その顔は赤くなっており、照れていて本気で恥ずかしいのが分かる。目は潤んでいて、目線は全力で私の方を見ないようにしているのがよく分かった。
ズキュウウゥン!
と音を立てて私の心は射抜かれた。
気付けば私は逸義の事をギューっと抱きしめていた。
そうしたら逸義は「はっ!?!?し、しぐれ!?急にどうしたの!?こんなことしたから僕のことなんてもう嫌いでしょ?」と予想通りの反応を見せてくれた。
「そんなことねぇよ」
これは心からの本音だった。
確かに気色悪い事をしているとは思ったけど、それでも大事なものは大事だ。
「逸義……どうしよう、私の方がこの手錠使っちゃいそうだ」
「えっ!?そ、それってどう言う……」
ギュー。
テンパってる逸義。ウルトラレアだ。今のうちに堪能しておかないと。
しばらく逸義をからかって楽しんだ後、家に帰ろうと、窓の方へ行く。そして一言逸義に、「また明日な!」と言った。
◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎
「おはよっ!逸義」
「……お、おはよう、時雨」
いつもと同じ朝。違うのは私が自分の性格を隠さなくなったことだけだ。
「あれ〜?どうしたの〜?なんかいつもより弱気じゃんか。なんかあったのか〜?」
「っ!時雨が悪いんでしょ……!ていうか近い、近い……!」
ひとしきり逸義をからかった後、私は今日の予定を聞くような話し方で
「なぁ逸義、私と付き合ってよ」
と言った。
すると逸義はピタッと動きを停止して、ギギギ、という音がしそうな動きでこちらを見た。その顔は真っ赤だ。
「えっっ、つ、付き合うって、そりゃこちらからしたら願ってもないどころかなんとしてでもお願いしたいけど、な、なんで!?」
「そりゃ、お前が可愛いから」
「……か、可愛いぃ?」
「そ。私はそれで充分だと思うんだけどさ。お前はそれでいい?」
「……よくない」
私は知っている。こいつが私にかっこいいと思って欲しい事を。
「だよな。だから私と付き合って、私にあんたをかっこいいと思わせてよ」
そういって挑発的に笑う。
すると逸義は、こっちを見ながら、
「上等」
と言って笑った。
やんでれは、でれでれにしんかした!