俺、追放! ~このパーティーに俺は相応しくないと何度言ったら分かるんだ! 俺はクビだ!~
「今日かぎり、俺はクビだ!!」
高らかにクビを宣言した俺を見てパーティーの仲間は固まった。
突然、自分で自分をクビにすると言い出した男になんて声をかけていいのか分からないようだ。
「まだ分からないのか! 俺の能力はA級パーティーに相応しくないと言ってるんだよ!」
ポカーンとした仲間の顔を見て俺はまくし立てた。
「ただのポーターで大したスキルもない。できることと言えば、寝る場所を確保して食事を作って皆の疲れを取ることくらいだ!」
「いや、めちゃくちゃ助かってるんですけど?」
「そうですよ。どんな迷宮でも暖かい場所を用意してくれて感謝してます」
「料理もすごく美味しいしな」
「だいたい、迷宮の中で8時間も熟睡できることが有り得ねえから」
こいつら、ここまで言っても俺が足手まといであることが理解できないらしい。まったくふざけるにも程がある。
「ここまで言っても分からないようだな。じゃあ言ってやろう。俺の持つ【擬態】というスキル。こんな卑怯千万なスキルの持ち主が勇者パーティーに相応しいわけがなかろう!」
これは前からずっと思っていたことだ。俺の持つスキルは【擬態】という何とも情けないスキルで、虫なんかが天敵に襲われないように葉っぱそっくりになって敵の眼を誤魔化すというアレである。このスキルを使えば俺はどんな場所でも、その場所に同化して敵の眼を欺くことができるのだ。えっ? 姿を消せるなら伝説の暗殺者になれるだろうって? ところがどっこい、俺の【擬態】のスキルは次の擬態まで10分はかかるという間抜けなスキルなのだ。レンガ色のまま歩いている俺を想像してみろ! 情けないにも程があるだろう!
「そんなことを言い始めたら、そもそもスキルなんて頼ってる時点で卑怯じゃないか?」
「そうですよ。わたしも別に【治癒】なんてスキルを持つのに努力したこともないですしね」
「魔王から言わせれば聖剣に頼ってる時点で卑怯だろうしな」
「しかも大勢で取り囲んでる時点でお察しですね」
色々と理屈をこねて、あくまで俺が足手まといであることを認めようとはしない。
まったく。何という能天気な連中だ。俺がクビと言ったらクビに決まってる。
なら、これはどうだ!
「しかも、俺は勇者の幼馴染である聖女のマリスに横恋慕しているというではないか!」
「いうではないかと言われても。マリスも満更じゃなさそうだし」
「しかも、『勇者は単なる幼馴染!』って何度も何度も否定してるもんね」
「勇者はヒーラーのシュテラと恋仲だしな」
聖女マリスは真っ赤な顔をして下を向いている。
あれ? 勝手に横恋慕してると思ってたのに、俺の勘違いか?
「そうなんだ……私だけの一方通行かと思ってたけど……嬉しい!」
マリスがまっすぐに俺の眼を見つめて「相思相愛だったんだね! 結婚しよ!」と俺に抱きついてきた。まったくどうなってるんだこれは。
「そうかあ、結婚するのか」
「おめでとう。よかったねマリス」
「パーティーで結婚するなんてこの幸せ者!」
「いや、ちょっと待て。たしかに俺はマリスに横恋慕していた。それは認めよう。しかし、これとそれとは話が別だ!」
「まだなにか?」
「いいか! 俺は貴族でもなんでもない平民だぞ! そもそも生まれがこの選ばれたパーティーには相応しくないんだ!」
「でもマリスと結婚すれば貴族なんじゃないか?」
「あら、もう解決ね。私の父は身分とか気にしないし」
「マリスのお母さんだって平民だったものね」
「うちもただの貧乏男爵だしな」」
くそ、こいつらときたら、何が何でも俺の追放を認めようとはしないらしい。
こうなったら奥の手しかあるまい。
これを言ったらお終いだが、もう手段を選んではいられない。
「おまえらには言ってなかったが……俺は亜人なんだ! 俺にはハーフエルフの血が流れてるんだよ!」
「うん、知ってた」
「だって耳長いもん」
「ハーフエルフでないとそんな美形がいるわけない」
「逆に羨ましいぞ。俺みたいな岩石系男からすれば」
「「「「 で? なにか問題でも? 」」」」
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
「ありがとうございました!」
「また来てくださいね」
「待ってるわ」
「また会える日を楽しみにしてる」
俺は4人にお礼を言って店を出た。
実に爽快な気分だ。「騙されたと思って行ってみろ」という友達のすすめでやってきた風俗店だったが、こんなに気分の良いものだとは。
そんな俺の前に友達も戻ってくる。
「おい、どうだった? 引き留め屋は?」
「めちゃくちゃ気持ち良かったよ。ありがとな。前のパーティーを追放されて以来、ずっと落ち込んでたんだけど何だかスッキリしたよ」
「あの店、何言っても引き留めてくれるもんな」
「そうなんだよ。で、おまえはどうだったんだ? ツンデレ女騎士の店は?」
「良かったぜ! 美人の女騎士さんが『まったく見る目がない連中だな。お前のような男を追放するなんて。わたしはお前を手放すつもりはないがな!』とか言ってくれるんだよ!」
「そりゃ最高だな!」
「ああ最高だった。俺もやる気が出てきたよ。どうだ? もう一軒行かないか? いつもの猫耳奴隷の店」
「好きだなおまえ」
「だって『ご主人様について行くニャー』って言われたいだろ?」
「言われたい。しかし、俺たちあれだな」
「「絶対、出世できないな!!」」
最後までお読みいただきありがとうございました。