僕らの爛れていない性生活 第三話 「Prisoner」 (修正版)
「ねぇ、お兄ちゃんはなんでそんなに童貞なの?」
鈴が転がるような、清らかで透き通った声が俺に尋ねた。
ソファにもたれたまま後ろを仰ぎ見ると、俺の肩に脚を置き気だるげに携帯をいじる妹。
すっきした目元にふっくらした頬、線の細い華奢な体の先には繊細で長い手足、泡沫の姫君のような少女凜、の透き通るような肌のその柔らかい感触が頬に触れる。
「俺を魔法使いになる定めから救い出してくれたのは凜じゃなかったっけ?」
頬に触れるひんやりした感触を確かめたままそう尋ね返す。
凜は何も答えず表情も変えずにそのまま携帯をいじり続けていたが、しばらくして動きを止めた。
それからこれ見よがしな嘆息を一つ。
「だーかーらー!なのになんでそんなに童貞っぽいのかって聞いてんの」
苦虫を噛み潰したような表情を少しも隠すことなくぴしゃりと言い放った。
そしていつの間にか頬ずりしていた俺の顔を心底嫌そうに脚で蹴る。
そんなに嫌なら置かなければいいのに、凜は俺が体勢を元に戻すとまたしても自らの脚を俺の肩に乗せた。
手持ち無沙汰になった俺は、今度はその小さな足の裏をすりすり撫でる。
「さぁ?そんなに童貞っぽいかな」
しばらくは我慢していた凜もさすがに耐えきれなくなったらしく、ぼんやりとつぶやいた俺の頭をチョップした。
「童貞にこんなテクニシャンなかなかいないだろ」
無言でゲシゲシ俺の背中を蹴る凜の頬はほんのりと朱に染まっている。
肌が白いと血色がまるでチークのようだ。
何度か俺の背中を蹴って落ち着いたらしい凜は、愛らしい控えめな咳払いを一つすると。
「だってわたし、今日まだ何にもされてないし」
掠れた声で不機嫌そうにそう言う。
明後日の方向を向いた凜の耳は先ほどよりもさらに紅が差している。
ポカッと間抜けに口を開けその横顔に見とれていた俺の頬を、両側からその細くしなやかな指で挟んだ凜はそのまま俺の首を回し真正面のテレビの方へと向ける。
そして首が回せないよう、すらりとしていながらもしっかりと弾力のある自らの太ももで挟んでくれる。
「・・・・何か言ってよ」
幸せな感触に包まれたまま首を後ろに倒すと唇を尖らせた凜と目が合う。
凜は眉根を寄せると強引に俺の頭を前に倒し、そのまま俺の髪をいじり始めた。
これでは見上げることもできない。
俺は何とか凜の顔を見ようと、首を回すために凜の太ももに顔をぐいぐい押し付ける。
「あ、ちょっ、~~~~~~」
恥ずかしそうに悶える凜。
この子はどこもかしこも綺麗で敏感で愛らしい。
だから俺は、その手に握られた数本の自分の髪も、チクリと痛んだ頭も全く気にしない。
「俺的には、スキンシップは十分してたと思ったけど」
凜はソファの上で膝を抱え、二つに結んだお腹まで届く自らの長い髪をいじっている。
ショートパンツにキャミソール、薄手のパーカーといかにも無防備な姿は、その小さく丸まった格好や体躯から少女らしい幼さと女性らしい色香を同時に引き立たせている。
腹の奥が熱くなり、かすかに笑みをこぼしながらソファに上った。
「ダメ。ソファのらないで」
俺の腕の中にいる凜の声は震えてか細い。
「いくらカーペット敷いてるからって、俺だけずっと床に座ってろってのは酷くない?」
絹よりも美しくなめらかな凜の髪からはシャンプーのにおいがする。
まだそんな時間じゃないのに。
唇を交わして、凜を寝かせる。
そのまま首元にキスしてやりながら少しずつ服をはだけさせていく。
慎ましくも完ぺきな造形を持つ乳房があらわになったところで、一応お伺いを立てるため凜の方を見ると。
濡れた瞳でこちらをまっすぐに見つめ、熱い吐息で囁いた。
「もうどうせ、座ったりしないくせに」
OKだ。
残暑はもうほとんどなく、一年のうちで今が最も過ごしやすい季節ではないだろうか。
何せ、我が最愛の妹がその美しい体を全て晒していても風邪をひかないのだから。
夏場の暑さによって汗をかいた凜や、冬場の寒さでかじかんだ体に血が巡って赤く染まる凜も大変に素晴らしいものだが、やはりスタンダードにその美しさをそのまま見せてくれるこの季節が一番だ。
ちなみに春はだめだ。
凜が花粉症持ちだから。
「水、取ってこようか」
少し疲れた様子で、服も着ないままソファに倒れている凜に声をかける。
まだ息が荒く、しっとりと汗ばんだ体は規則的に脈を打っている。
口は動かさなかったけれど、ほんの少し首を上向けたことで肯定の意思を汲み取る。
リビングにくっついたダイニングキッチンの戸棚からグラスを二つ取り、片方には水道水を、もう片方には冷蔵庫から取り出した冷えた森の天然水を注ぐ。
二つとも大体同じくらいの量注いで凜のところへ持っていく。
水道水の入った方を差し出すと、冷ややかな視線を送られる。
「逆でしょ?」
俺はあちゃと言っておどけてみせる。
「見られてたか」
「見なくてもいい加減わかるし。よくも飽きずに毎回やる」
髪で口元を隠すそのしぐさは何度見ても飽きない魅力を持っている。
凜はグラスを受け取るとゆっくりとそれに口をつける。
コクコクという擬音がぴったりな可愛らしい飲み方だ。
白い喉が音とともに上下するのをぼんやりと眺めながら、グラスに口をつける。
暖かな日差しが注ぐこの季節の水道水はまだぬるい。
部屋には一瞬沈黙が下り、外から聞こえる車の音や鳥の鳴き声だけが空間を支配する。
凜はじっとグラスを見つめていた。
「・・なんかあった?」
努めて優しく、できるだけ追及している風にならないように問いかけた。
凜はただ、ぶっきらぼうにこう答えた。
「・・・なんもない」
問いかけられた瞬間、凜の肩は小さく跳ねた。
俺が気が付いたことに凜も気が付いているはずだけれど、凜はそれ以上何も言わない。
俺の開いた口がパクパクと息を吐いた。
しばらくじっとしていた凜だったが、おもむろに脱ぎ捨てていた服を取るとソファから立ち上がった。
ちらとこっちを見てから、やはり何も言わずに部屋を出ていく。
ドアが閉められる前に凜を呼び止めた。
「お母さん、今日も遅くなるってさ。また二人きりの晩餐だな。」
凜は無言で続きを待っている。
「ごはん、なにがいい?」
凜は今度こそこっちを振り返らず、後ろ手にドアを閉めながら言葉を置いていくように出ていった。
「・・・なんでもいい」
すっかり夜の帳が下りたころ、凜と俺は遅めの夕食を取る。
今日のメニューは悩んだ挙句に、スタンダードなごはんとみそ汁におかず二品、牛肉とにらの炒め物とお野菜のおひたし、それとポテトサラダにした。
凜は特に好きでも嫌いでもないそれらの料理をただ黙々と食べている。
4人掛けの小さなテーブルの上からは食器のかすかな音が時折聞こえるだけだ。
それなりに広いリビングなのに照明が足りないのか部屋も暗く感じる。
俺はテレビのリモコンを取った。
「テレビつけようか」
凜はいつも無言で頷く。
テレビの音が広い部屋を満たしてくれる。
俺からは見えないテレビの画面の光を瞳に映しながら、凜がつぶやいた。
「お母さん、わたしたちのことどうでもいいのかな」
料理を口に運ぶ手は止められ、黒曜石のような大きく輝く瞳に映る光だけが揺れている。
画面では今ブレイク中のお笑い芸人が小ネタを披露していた。
凜に聞こえないよう小さく息を吐いて、俺は少しだけ大きな声を出した。
「うちは広いよな。そこそこ都会なこの街で床暖房付きの一軒家だ」
少しだけのつもりだったけれど、凜はたいそうびっくりしたようで数センチ飛び上がったように見えた。
「急になに」
口をへの字に曲げジトっとした目を向けてくる凜。
驚いた余韻なのか、箸を持つ手がかすかにふるえている。
わざと大袈裟にした表情とその手の正直さのギャップがまた堪らない。
「俺たちの生活の話だよ」
俺は素知らぬふりで澄ました笑顔を浮かべる。
「俺たちは何不自由なく生活できてる。それはお母さんのおかげだろ?」
俺の言葉に凜は表情を少しだけ崩す。
「つまり、満足に生活できるんだから文句言うなってこと?」
少し怒った、俺を責めるような口調だった。
こちらをじっと見つめる瞳は瞬き一つしないせいで揺らいでいる。
俺はゆるく首を振った。
「そうじゃないよ。別に文句くらい言っていい。でも、その不満はお母さんが俺たちのことどうでもいいと思ってるからじゃないってこと」
凜の皿には料理がもうほとんど残っていない。
凜は左手に持っていた茶碗をちらりと見ると、箸と茶碗を置いた。
「もう食べないのか?」
俺が聞くと、凜は頬杖ついてその筋の通った小さな鼻をふすっと鳴らした。
分かってるくせにと言わんばかりの視線。
「今日だって本当は仕事じゃないんでしょ」
わざわざ言わないってことは。
言外に見抜いていることをはっきり突き付けてくる凜に対し、俺は諦めて苦笑する。
「ほーら」
口を尖らせてすっかり不貞腐れてしまう。
あっさりと見抜かれてしまった真実に返す言葉もない。
けれど、やると決めたことは突き通さなくてはいけない。
「お母さんは仕事だって言ってたんだよ」
目の前で頬ずえを付いたまま黙って話を聞いている凜。
「それに基本放任だけど、俺たちの事放っぽったりはしないだろ?」
その目に映る自分の姿を消しながら語った。
「それは、お母さんが俺たちのこともきちんと大切に思ってくれてるってことだよ。まぁ普通の家庭とはちょっと形が違うかもだけど」
自然と顔が緩く笑みの形を作った。
内心うまく言ったものだと思っていたせいかもしれない。
対して凜の視線は非常に冷ややかだった。
しらーという擬音がぴったりなとても冷めた目。
「なに一人で悦に入ってんの。キモ」
凜はがたりと音を立てて椅子から立ち上がり、正面に座る俺の横までやって来る。
そして俺の頬に手を当て、でもと続ける。
「お兄ちゃんが慰めてくれてるのはよく分かったよ。ありがと」
ひどく大人びた妖艶なしぐさで目を細める。
凜に向き直った俺の脚の間に自らの脚を入れ、凜はさらに体を近づける。
「とりあえずは納得してあげる」
お互いの吐息がかかるような距離で視線を絡める。
「でも、それじゃ足りない」
世をはかなむような視線。
「今日はもうしませんでした?」
その美しさに呑まれた。
思わず顔を引く。
「分かるでしょ。慰めだけじゃどうにもならないの。わたしが本気で言ったらすぐに日和るくせに。これくらいいいでしょ?」
引いた分だけ凜は顔を寄せる。
俺はのけ反るような体勢のまま腹筋で震えながら体を支える。
「さっきので結構疲れたんだろ」
凜は視線をそらさない。
「わたしはこういうやり方しか知らないの」
俺の言葉など一顧だにせず詰め寄って来る。
「でもごはんまだ残ってるし」
言い逃れなど許さない。
「ごはんとわたしどっちが大事なの」
襟首をつかまれ額を突き合わせる。
「お母さんも帰って来るよ」
凜の瞳は揺れている。
「帰り遅いんでしょ」
問答の果てに凜が不意に顔をそむけた。
揺れる瞳からこぼれないように、そういう顔。
「嫌なの」
そのまま視線でこちらを窺い、湿った声で囁いた。
そんな風に聞かれては断れるはずもない。
「嫌じゃないよ。むしろ大歓迎だ」
凜は俺の言葉に雫を瞳に溜めたまま、勝気な笑みでこたえた。
「ただ男ってのは途中で終わられると辛いんだよ」
俺は一応ブレーキをかけるように言う。
「そんなの女だって一緒だから。そういうのしらけちゃうからやめてよ」
凜は俺の忠告など一切気にかけることなく俺の服を脱がしにかかる。
慣れた手つきで細い指がボタンを外していく。
「ほら、お兄ちゃんも。観念して」
預けられた体を抱きとめ、抱え上げて部屋まで移動する。
そのまま服を脱がして、二人でベッドに上がった。
唇を重ねると、そこから言葉は交わさなくなる。
結局この日はお母さんが帰ってくるまでずっとしていた。
随分と激しかったし飯も食い途中。
あとの始末や言い訳が色々大変だった。
「行ってきます」
無人になった家に向かって挨拶を投げかけ出掛ける。
前日にどんな夜を過ごしていようと学校がある。
俺は凜と並んで人工的な住宅街の中を歩いてく。
家にいるときよりも几帳面に揃えられ結ばれた二つの髪が風にふわふわとなびいている。
昨日の疲れを特に感じさせることもない軽やかな足取りだ。
「お兄ちゃんってシスコンだよね」
揺れる凜の髪をぼんやりと追っていた俺に凜が問いかけた。
「また唐突だな。愛の確認?」
首を傾げ口の端を歪めて見せると、容赦ないひじの攻撃が横腹に跳んでくる。
「調子に乗んな」
ジト目でこちらを睨んでくる。
そしていじわるくにやっとわらい。
「ほら、こんなとこまで付いてくるって完全にわたしのこと超好きじゃん。学校に行くとしばらく会えないから少しでも一緒にいたいんでしょ?」
いじらしく肩をぶつけてくる。
凜の体の柔らかさと程よい押し具合が心地いい。
俺は真剣な表情を作るとまっすぐに凜を見て言う。
「ああその通りだ。俺は凜が好きで好きで仕方ないんだよ。寝ても冷めても凜のことばかり考えてる。だから実は今当たってきてくれたのもすごく気持ちよかったんだ」
俺の言葉に凜は間髪入れずに反応する。
「キモ!」
二人の距離が物理的に遠のいた。
「なんだよ。恋人気分を味わいたかったんだろ?いいじゃん。愛してるぜ」
凜の頬がさっと染まった。
赤い顔のまま精一杯顔を歪ませて言い返してくる。
「だから調子乗んなって言ってんじゃん。まじキモイ。自分のシスコンを押し付けないでよ」
凜は早口にまくしたてた。
俺はそれに笑いながら謝る。
「ごめんって。そうそう、ほんとはお兄ちゃんが凜のこと大好きなだけなんだよ。凜にかまってほしくてつい言っちゃうんだ。だから許してくれよ」
そして、そろそろ目的地に着くからと凜が何か言う前に話を終わらせてしまう。
「ほら、友達も待ってるぞ。早く」
凜は唇を尖らせて不満気だ。
「なんかむかつく」
そしてカバンを当てることで俺に不満をぶつけた。
しばらく上目遣いにじっと睨んでいたけれど、それでも凜は小さく呟いた。
「じゃあ、行ってきます」
それから胸元で控えめに手を振って走り去っていった。
「ごめんね。連日付き合わせちゃって」
凜と別れてから7時間半ほどが経過したころ。
西に傾きかけた日がまだ空を赤く染めていない時間。
クラスメイトであり、生徒会の会計を務めている女子、近藤綾香が紅潮した顔を俯かせてそう言った。
言ってから照れ笑いのようなものを自然と向けてくる。
「気にしなくていいよ。どうせ俺も暇だったし」
学年の中でも人気な女子である近藤はゆったりとしたペースで俺の横を歩いている。
最近少しだけ話すようになっただけの関係だが、他愛もない会話は途切れることなく続けられていく。
歩き始めた時はばらばらだったはずの互いのペースも今はぴたりとそろって綺麗に横に並んでいる。
会話にもペースにも、ともに行動していて何事にも気遣わなくていい立ち振る舞い。
そして。
「あ。あの公園だよね、千賀くんがいつも妹さんを待ってるのって。・・・・もう着いちゃったね」
朝凜と別れた公園の前に着き、近藤は初めて表情に影を落とす。
入り口で見送るべく立ち止まっていると、近藤は瞳をあちこちに動かし、それから上目遣いに問いかけてきた。
「妹さんの学校は何時くらいに終わるの?」
意識的にせよ無意識的にせよ、近藤は自分のことを分かっていて、見せ方や扱い方を知っている。
教室で会計の資料整理を頼まれたとき、周りの人間は俺がそれを断ることを良しとしないと、分かっていて尚且つそれ以上の効果を持って俺にあのタイミングで声を掛けてきた。
「学校自体はうちと同じ時間に終わるけど、部活があるからそれまでは待つよ」
そして今もあの時と同じように、整った顔を小さく傾げ、腕を寄せて豊かな胸元を強調するように抱きながら、甘く囁くように懇願する。
「なら、もう少しだけお話しできないかな」
俺は断る理由を持っていない。
二人でベンチに座った。
互いの間に荷物を置くものかと思ったけれど近藤が俺とは反対側に置いたので、さすがに俺だけが間に置くわけにはいかなかった。
「その、えっと・・・」
公園に着くまでは軽快に喋り続けていたにもかかわらず、ベンチに座ってからは一向に話を振ってこない近藤。
感情が読みやすく、男にとって魅力的に見える変化だ。
「昨日全部片付けたのにまたあれだけ仕事が入って来るってのは、生徒会は噂以上に大変なんだな」
とりあえず沈黙を裂くために放った会話も。
「それ、実はね、私が依頼される前の仕事とかも全部集めてきたの」
日の光とともに紅桃色に変わる。
セミロングの髪をくるくるさせながら堪えるようにして告白する。
「だから本当は、普段はこんなに忙しかったり仕事が多かったりはしなくて、私が、その、千賀君に頼めないかなって・・・・・怒った?」
人気がない公園は、常とは違う二人を周囲から隔しそのささやかな会話だけを響かせる。
握りこまれた手を視界の端にとらえ、俺は目を逸らした。
「いや、怒らないよ」
近藤がびくりとしたのが分かった。
え、えと、と早口に言う。
「あ、あれね。その、千賀君作業すっごく速いから。ほら、どうせいつかやらなくちゃいけない仕事だしまとめて先にやっちゃおう、みたい、な」
最後の方は尻すぼみになる。
「あの、ごめん」
近藤は静かに謝った。
「何も謝ることないだろ。先に片付けるのは全然いいことだし、俺は別に何も気にしてないし」
近藤の顔は今にも泣きだしそうだ。
「作業が速い奴に応援を頼むのは当たり前だろ。俺より早い奴がいたらそいつに頼むだろ?」
助け舟を出したつもりだった。
このまま何もなかったことにしてしまえばいいと思って、余計なことを言ってしまった。
「違うの!」
近藤は俺の言葉を否定した。
「違くて・・・そうじゃなくて・・・」
真剣に悩んで、向き合って、立ち向かう姿を素直に『いい』と思った。
自分で蒔いた種だ、きちんと今ケリをつけるべきだ。
そう思うと同時に、この娘でもいいじゃないかと思った。
変だから。
そろそろ元に戻ってもいいかもしれないと。
近藤が次の言葉を紡ごうとするのと合わせて、俺も答えを口にする準備をしていた。
「私は千賀君が」
「お兄ちゃん!」
二人以外誰もいなかった公園に鈴が割れた音が響いた。
凜は表情から察しただろう。
状況も心境も。
「え、えっと妹さん?」
凜に戸惑う近藤。
そして事態に気付いて赤くなる前に、凜はもう一声俺に向かって言った。
「帰るよ」
俺はすぐに立ち上がる。
「え、あの、千賀君」
近藤は今度こそ本当に困惑している。
でも、こっちは気遣っていられなかった。
「ごめん。あいつが待ってるから」
行こうとする俺の服の裾をつかまれた。
「妹さん、だよね?」
縋るように向けられた瞳を見返して、努めて平静に答えた。
「そうだよ」
近藤はそれから何かを言おうとしたが言葉が出てこないのか、開かれた口は音を伴ってはいなかった。
「じゃぁまた明日」
続きを待つことなく、今度こそ背を向ける。
後ろでか細く聞こえた声は頭まで届かなかった。
眩しく差す赤の中、細めた目はただただ無表情に俺が来るのを待っている凜をとらえ続けていた。
凜への感情を自覚したのは割と早い時期だった。
幼いころから優れた容姿を持っていた凜だったが、小学校に入ったころから女の子としての可愛さを持ち始めた。
その頃はよく面倒を見ていた俺に随分と懐いていて、いつもおにぃおにぃと俺の後を付いてきた。
自分の気持ちに気づいたのと、それが変だと知ったのはほとんど同じ時期だったと思う。
だから、凜が将来俺と結婚するとか言ってた時に、つい誓いのキスというものを教えてしまったことを、自分の下心と知る以前に恐れた。
小学校高学年ともなってくると女の子は非常に多感な時期だ。
そんな思春期に加え依然冷たいままの俺の態度から、凜との関係は非常に冷え切っていた。
その頃の凜は俺を避け、稀に呼ぶときも、ん、とか、ねぇ、とかで声を掛けてきた。
今考えてみるとそれもまた可愛いものだが、当時は毎日苦しい思いをしながらこれでいいと自分に言い聞かせていた。
そんな関係が終わったのは凜が少し大人な知識を手に入れた頃だ。
俺なりに凜から離れようと努力していた時期でもあり、その一環で買ったアダルトな雑誌を読んでいたところを偶然凜に見つかった。
軽蔑した視線とともに何を読んでいるのか尋ねられた俺は子供には早い本だと答えた。
それに対して凜が言った言葉が。
「童貞のくせに調子乗んな」
だった。
今とは違い冷淡な言い方だったが、この言葉がきっかけだ。
汚されてしまった気がした、という理由だったと思うが、単純に我慢の限界を迎えてちょうどいいきっかけを探していただけかもしれない。
とにかくその日俺と凜は肌を重ねた。
そこから関係は始まり、駄目だと分かっていても、何度やめようと思っても、俺には終わらせることができなかった。
そして別の女の子を好きになろうとしていた今も。
凜は公園から俺の手を強引に引き続け、家に着くなり玄関で押し倒した。
「ねぇ、あの女となにしてたの?ううん、言わなくてもわかる。どうせ告白だよね?」
凜はカバンを放り投げ俺の上に堂々と跨った。
「それでどうしようとしてたわけ?かわいそうな童貞が」
首元のリボンを解いてブラウスのボタンをあけていく。
「いや、童貞じゃないんだけど」
迫力に呑まれながら論点をずらそうとした俺の言葉も一蹴される。
「妹としかしたことないとか童貞と同じだから!」
ブラウスを脱ぎ捨て、ブラジャーを晒した凜は今度は俺の服を脱がしにかかる。
「童貞のくせに調子に乗らないで」
シャツのボタンを引きちぎらんばかりに乱暴に外していき、ズボンのベルトを強引に引き抜く。
「自分が女の子に告白されて勘違いしちゃったの?ねぇ?」
衣類を片端から脱がされ、靴を履いたままズボンをおろしてパンツを露出した情けない格好になる。
「ねぇ、わたしがいつもこんなに優しくしてあげてるのになんなの?」
そして最後の砦もあっけなくずりおろされる。
「可哀そうだからだよ?」
そして自分の股をそれにこすりつけた。
こちらに噛みつかんばかりに捲し立てていた凜は急に姿勢を正し、俺を上から見下ろしながら、先ほどとは打って変わったトーンで言葉を紡ぐ。
「ねぇ、わたしモテるの」
喋りながら俺の一物を撫であげ刺激する。
「今日も告白されたの。サッカー部のキャプテンだって。すごく人気のある人」
俺はすぐに準備ができてしまう。
凜はそれでも手を止めず、次の言葉で俺を凍り付かせた。
「わたしね、まだ返事してないの」
凜は自分の下着をずらし、自分のと俺のとを擦り合わせる。
「ねぇ、お兄ちゃんはどうしてほしい?」
顔を近づけ、耳元で吐息を吹きかける。
「なんて返事してほしいの?」
やめなくちゃいけないと分かっている。
お互い別の人とうまくやっていくチャンスだ。
けれど。
「・・・・断ってくれ」
俺はここから抜け出せない。
気になった部分などを今手直しできる範囲でしたものです。
ばらばらだと読みにくいかなと思ってまとめてあります。
楽しんでいただければ幸いです。