77.ベナークの最後
「……ふ、さてと……」
「アクセリさま?」
「あぁ、トドメを刺しにな」
「ええっ!? あの人はまだ生きているんですか?」
「ベナークは腐っても勇者だったからな。耐性も備わっているし、魔王に魂を売り飛ばし済みだ。俺を追い出した奴をこの世界から追放することこそが、俺からの恩情だ」
どうやらパナセは自分がしたことを、少しは覚えているようだ。
意識が変異者に取られていたとはいえ、直に刃を手にした感触は残したくないだろう。
「で、でででも~」
「自惚れるな。パナセの為じゃないぞ。これをする……いや、しなければ俺が受けた呪いは解けないだけだ」
「じゃ、じゃあ……あのあの、どうぞ!」
「……何の真似だ?」
どういうわけか、パナセは目を閉じ何かを待つようにして、つま先立ちをしている。
「アクセリ、パナのパートナーなのでしょ? それならその通りにしてあげなさいよ」
「確かにそうだが、その通りとは何だ?」
「……はぁ。賢者のくせに、それが分からないなんて……」
「ん? ルシナが何のことを言っているか、クリュスは分かるか?」
「そのことを、アクさま……わたくしに言わせるおつもりですか? それと、された後はクリュスではなく、ロサとお呼びになって、頬を思いきり叩いてくださいませ」
「あ、あぁ……そのうちな」
ルシナが言っていること、クリュスが態度で示していることも何となくは分かるが、何故この場でやらねばならんのか。
油断を生めば、たちまち俺は意識を落としてしまうというのに。
パナセなりの謝罪なのかもしれないが、何も今やるべきことではないはずだ。
「――アクセリさま、アクセリさまぁぁぁ!! はーやーくー!」
「わ、分かった。そうねだるな」
アミナス、ストレは子供のようなもののせいか見られても関係無いが、ルシナとクリュスが見ている前でそれをするのは何の罰なのか。
パートナーとして選んだ手前、これからも求められることになるのは必至か。
「――んんっ……アクセリさま……」
「……あぁ」
口づけは何度か交わしているが、パナセから流れ込んで来たのは幸せの鼓動だ。
同時に、万能の力も注がれている感じを受けている。
「む……? パナセ?」
「この力は、あなたに捧げます。わたしは、アクセリさまの為……永遠にお傍にいます」
「し、しかし、これは――」
「あなたへの償い……禍々しき力は、力ある賢者さまにお預けしたいのです」
「……お前の想いを全て受け止めてやろう」
パナセが求めた口づけは、俺への求めと償いが入っていた。
口づけを通して、パナセの中に眠っていた万能変異の力が俺に注がれ、同時に俺の傷は治され、パナセは変異の能力を失ったようだ。
万能の力よりも、おかしなパナセだけになってしまったが、力を取り戻した俺が守っていくしかあるまい。
「――お気をつけて」
「そうだな、それも奴への贐となるだろう」
ルシナ、ロサ、そして愛するパナセの期待を背に、俺はベナークの元に近づく。
「……ア、アクセリ、てめえが俺に呪い……追放の術をかけられるわけがない……」
「その通りだ。俺は魔王から力を注がれていないのでな。だが、呪い魔法でなくともお前を地獄に送るのは可能だ」
「ぐ、くそ……あの女の力は何なんだ……たかが奴隷ごときが……」
「奴隷ではなく、万能者だ。デニサの元に行かせてやる。それがせめてもの礼だ」
「礼……?」
「ここに来たことで、彼女の呪いを引き出せたのだからな」
「……礼なら、今ここでてめえに返してやる!! き、消えろ……賢者め!」
魔に魂を売り飛ばし、心酔したベナークにまだ力が残っていたか。
横たわっていたベナークだったが、この俺に手をかざし、デニサからもらった呪いの力を放とうとしている。
奴は変異のパナセによって、刃で突き刺されたが苦鳴をあげず、俺の為だけに力を残していたようだ。
「き、消えやがれ、劣弱賢者がーー!!」
殺さず生かしたまま俺をPTから追い出し弱くしたのは、ベナークの弱さだったのかもしれないな。
勇者としても強さは平凡、剣の動きも弱いままだったのが運の尽きか。
「命を乞え、この地この生に飢えを覚えた勇者ベナーク、我が望み、我が声をその者の身に委ねん……サナトス!」
『な、何っ!? な、何だ、それは……っ!?』
「呪いでなくとも、お前に”死”を与える黒魔法程度なら使えるからな」
『が……あ、あぁぁ……く、そ……』
俺を追放した重力系呪術では無いが、この黒魔法は死の宣告のようなものだ。
かつて俺を閉じ込めた黒い球体のようなものに近いが、恐らくベナークの全身を包んでいる黒の空間は、闇の存在どもの元に連れて行くカタチに近いはず。
「もう一度、地の底から這いあがって来い。そこで魔のモノどもを倒せたらな」
「……ぎぁぁぁぁぁぁ、ひ、た、助け……ア、アクセリィィィ」
「自ら償うことだ……勇者ベナーク」
最後にして助けを求めて来たが、ベナークの肉体は人間の形を残したままの人形に過ぎない。
そのまま血の塊だけを残し、ここから完全に消え、ベナークの意思は消滅。
これで俺が受けた呪いも弱かった力も、全て終結した。




