75.万能者の真 2
「こら、パナセ! 俺の言うことが聞けないのか?」
「……全てを」
やはりとも言うべきか、黒騎士によって封じられていた血の記憶が、ルシナの血を見たことで呼び覚まされてしまったようだ。
血を見て意識を何かに奪われるほど、パナセにはいい記憶が残されていなかったのだろう。
氷の要素から抜け出したパナセは、俺やルシナの姿は見えていない。
見えているのは、血を出させてしまったオハードと、それを感じさせるベナークだけだ。
「もういい……もう、全て消す……」
何のために黒騎士に認められたのかと自問自答するが、パナセがこうなることも見越して契ったはず。
それならば、俺が取れる手段はこれしかないだろう。
「――血迷ったか、アクセリ」
「いや、どのみち俺は、お前をこのまま生かすことは考えていなかった。まして、オハードなんぞまでもを傀儡するお前を、許すことはないのでな」
「……あんな役にも立たない薬師に惚れ込んだってわけか」
「役には立つぞ。お前よりもよっぽどな」
「口の減らねえ賢者が! 離れやがれ!! くそーーーー」
「しつこさは勇者だったお前と同等だ。悪いが最後まで付き合ってもらう」
ベナークを抑えていたクリュスとストレも、次第にその勢いを失いかけていた。
そこに来てパナセの無意識的暴走は、彼女らにも止めることは出来ないと判断。
物凄く嫌で、近付きたくも無かったが、パナセの目を覚ますにはこれしかない。
もちろん無駄死にをするつもりはなく、ベナークに気付かれることのない要素を、体内に発動済みだ。
まさかベナークを道連れにするくらい、体ごと密着させる日が来ようとはな。
「は、離れろ、この野郎!!」
「どうした? お近づきの再会だぞ。密着していても、攻撃して来れるはずだ」
「背後から近付いといてよく言いやがる! くそ、くそがーーー!!」
あまり、いや、極力やりたくもなかったが、クリュスとストレに向き合っていたベナークの隙をつくことに成功した。
かつ棒のように動かないオハードをかわし、俺はベナークの背後から近付いて力づくで押さえている。
羽交い締めのようになり、密着した状態だがこれならば、パナセを真正面から眺めることが出来そうだ。
『パナセ、俺の所まで来い! そして、万能者としての力をベナークに与えてやれ!!』
「正気か!? お、俺を道連れにするとは、昔から卑怯な賢者め!」
「今さらのことだ」
ベナークの背後に回ることで、パナセからは見えていない。
これならコイツも倒され、俺もパナセの手にかかれば……
パナセを面白い女に戻し、キチンとした薬師として育ててやれるだろう。




