74.万能者の真 1
パナセを呼ぶルシナの手は冷たくなり、表情も苦しそうだ。
いくら祈りの要素を呼び出したからといっても、回復効果は微々たるものに過ぎない。
ルシナはパナセとは違うのだと、俺自身に言い聞かせながら、ベナークばかりに気を取られ過ぎていたことに後悔するばかりだ。
肝心のパナセだが、氷の要素はこういう時だけは忠実に言うことを聞き、パナセを硬い氷の空間に閉じ込めている。
何だかんだ言いながら、今までパナセは氷の要素に触れる機会が多かったことが、大いに関係する。
受ける側は、攻撃にせよ守られるにせよ、冷たく凍えるような思いしか記憶に残っていないだろう。
だが、氷の要素からしてみれば、氷との相性を着々と固め、受け入れてくれていると判断するものだ。
しかし急いては事を仕損じてしまう。
パナセを氷から解放することを考えるよりも、ルシナを守りながらベナークを仕留めねばならんのだが――
「くそが! こんな雑魚ども、すぐに葬ってアクセリを滅してやるのに!!」
「そいつは残念なことだな。だが俺も同じことを考えていたぞ。ベナーク、お前は賢者自らの手で消し去って差し上げよう」
「けっ!!」
ベナークの力は俺がいた時と、大して変わっていない。
しかし魔女デニサが与えた小賢しい魔の力は、無駄に面倒なことになっている。
てっきり戻って来ないかと思えば、ここに自力で戻って来ていたオハードを、いとも容易く傀儡するなどと、勇者らしからぬ魔力によって操っているようだ。
『……赤い血――』
この声はパナセか?
黒騎士に言われたことを守れなかったといえばそれまでだが……まさか氷の要素を解くというのか?
人間誰しも心乱す時はある。あるが、パナセのそれは異質なモノだ。
激しい衝撃音と共に、俺がかけた氷の要素を、いとも簡単に割ってしまった。
『ルシナ……血、赤い血……』
「落ち着け、パナセ! 俺だ、アクセリはここだ!!」
『許さない……許さ――ない。たとえ、勇者でも……魔王でも――』
ちぃっ! 何という凄まじい魔力と圧力だ。
黒騎士の言った通り以上の魔力を秘めていたということか。
「全てを――」
これはまずいことになる。
万能者の真は、全能と謳う賢者とはまるで異質なものだ。
いつものパナセはすでにそこになく、万能者としてこの地、この場を全て消してしまう彼女しか残っていない。
こうなればルシナを……いや、違う。
パナセを正気に戻し、ベナークをどうにかするしか手立ては無いか。
全ての始まりであるこの俺の油断を消して、そして今度こそパナセを救ってやる。




