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72.精一杯の抵抗


「くそっ、くそっーーー!! 劣弱賢者になったはずなのに、どうして当たらない!」

「ふむ……そうだな、俺は勇者様よりも弱き賢者だった。あくまでも勇者にとっての良き理解者であり、良き功労者と自負していたが、ベナーク様にとってはそうでなかったのですか?」

「だ、だまれ、相変わらず人を嘲笑い、巧みな言葉を滑らせやがって!!」


 勇者ベナークは、勇者とも思えぬ暗灰色の鎧に身を包み、かつて装備していた煌びやかな装備をしていた面影は、すでに無い。


 オハードを含め、俺とベナークが直接手合わせをしたのは、後にも先にもリルグランで共に過ごしていた時だけだ。


 しかしまたこうして、いや、世界を救おうだとか正義面をするつもりは無いが、勇者を名乗って世界を混沌させたベナークだけは、この世界から追放すべきだと思っている。


「アクセリ、やはり貴様は、あの時俺自らが手を下しとけばよかったんだ!!」

「……あの時にそれが出来たとでもお思いですか?」

「っざけるな! いつまでも口達者な口ぶりをしやがって! 素のお前を出せ!」


 理知的な俺も賢者アクセリの個性ではあるが、もはやベナークには、どの言葉も響かなくなったようだ。


 ベナークが手にしている剣は、かつて俺の助力によって手にしたレアものの武器ではあるが、敵対する勢力に一度も振ったことが無いかのごとく、使われずの錆が目立つ。


 恐らく、全て魔女デニサの囁きで動いていた、哀れなる傀儡勇者と化していたのだろう。


「何でだ、何で当たらない!! アクセリに当たりさえすれば、劣弱賢者ごとき防御力なんかに息を切らせることがあるわけが無いんだ!」

「無駄口ばかりが目立つようですが、レアな剣を私めに当てて来られないのです?」

「うるさい!! 黙れ!」


 今までの鬱憤うっぷんが積もりに積もっていたせいか、ベナークは未だ劣弱賢者の俺に対し、攻撃を向けて来ていない。


 剣を手にし、頭上から振り下ろす動作だけをみせているだけで、実際は大げさな言葉の羅列のみを浴びせて来ているだけだ。


 魔女がいなければ何も出来ないのかとも思っていたが……


「くっくく、アクセリ。貴様もさっきからただの一度も、俺に攻撃を仕掛けて来ないじゃないか。所詮、魔術。耐性のあるこの俺、勇者に属性を撃っても無駄だと思っているからだろう?」

「何だ、お望みなのか? ベナークから積極的に攻撃をしてくると思って、遠慮をしていたのだがお見舞いしていいなら、してやるとしよう」

「ふん、無駄な足掻きだが、撃って来い」


 口を動かすだけの口撃だけでは、事が進まぬし、ルシナのことも心配だ。


 近くに仲間はおろか、ベナークが引き連れていた女の気配が感じられないが、力の戻った属性要素を撃つべきか。


「どうした? やれよ! 貴様がやらないなら、薬師くすし……その辺でちょこまかと動いていたこの女を傷つけてやってもいいんだぞ!」

「ア……アクセリさま……ぐすっ……ご、ごめんなさぁぁい」


 どこにいたかと思えば、俺とベナークの様子を間近で観戦していたか。


 クリュスの気配を感じるが、さすがにパナセの動きを封じられなかったと見える。


 金色の長い髪を隠さず、深く被るのをやめたクロークのフード部分。


 そこを掴まれては、素早さの定評が俺の中にあっても、ベナークごときからは逃れられなかったか。


「よし、パナセ。全身に力を、いや、拳を力強く握って耐えろ! お前ならきっと大丈夫だ」

「ひゃ、ひゃい! が、頑張ってみるです。アクセリさまと要素さんを信じるです!!」


 要素さんって何だ……


 不思議なことを言う女だが、俺の精霊要素もパナセだけをピンポイントに避けてくれるはずだ。


『氷を統べる我がバラフ。我が加護を与えし者、パナセ。力強き厚き庇護を与えよ!! デフバラフ!』


「な、何!? アクセリ……貴様、この女にも非情な報いを与えたというのか!?」

「……ベナーク。お前の出番はすぐに訪れる。パナセにはしばらく氷の中にいてもらうだけだ」

「や、やってみやがれ」


 近くに感じるのはクリュスとストレ、そして傀儡のルシナか。


 だがストレはすでに竜と化し、傀儡と化したルシナもろとも、竜の翼で覆い隠し始めたようだ。


 ――パナセ、耐えろよ。


『焦熱の禁呪……我は賢者アクセリ。闇持つ者、ベナーク……彼の者に憑りつく影を打ち消し、望みの刃をもたらさん。メルト・プラーミア!!』


「あ、ああぁぁぁぁ……!?」


 焦熱の炎がベナークを纏う。


 目に見えるのは、焔の柱。ベナークの抵抗空しく、朱く染まった色は焦げ付きの匂いを発し始めた。


「ふ、ふざけるなっ!! こ、こんな程度で俺がやられるはずがないだろーが!!」

「――ほぅ? ようやく属性斬りをする気になったか?」


 俺に対し、剣を振って来なかったベナークだったが、己自身にしつこく纏う精霊要素に危険察知をしたのか、今まで持ち腐れ的存在だった剣を素早く動かし始めた。


 焔の柱をそこまで強力にしたわけでもなかったことで、ベナークの身体からだにまつわりついていた炎は即座に消えてしまった。


 てっきり苦痛のうめき声でも上げて、劣弱賢者に助けの声でも張り上げて来るかと思っていたが。


「はぁっはぁっはぁっ……くそっ!!」


 必死に足掻いたベナークは、炎を全て消し、必死な動きの反動でその場に手をついていた。


「こんなもんでいい気になるなよ?」

「いい気になってくれて構わんぞ。ベナークのその力で、俺に対して来てもいいぞ」

「……貴様に俺の力をか? 魔術だけの貴様に俺の剣を使えば、勝負はすぐに片がついてつまらなくなるだろうが!」

「なに、構わん。人質を取っているだけで優越感を得ているのであれば、不服だろうからな」


 焔の影響は微かに残り、耐性に優れた剣からは、灼ける匂いが立ち込めている。


 魔女の影も本体もすでに消してはいるが、ベナークの後ろにはまだ控えがいると見ていいだろう。


「消してやる……この俺が今度こそ、劣弱賢者を消してやる……」


お読みいただきありがとうございます。

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