55.賢者と甘え娘 2
オハードに突進した話を聞いた限りでは、相当なダメージを負いそうだと判断して、それに備えて土要素で衝撃に備えることにした。
「ア……」
「どうした、パナセ」
「ひぇぅ……!?」
「むっ!? な、何だ? どうした?」
てっきり俺を目がけて体当たり抱きつきを実行して来ると思っていたが……。
パナセは俺の正面に立ち、ジッと見つめて来たかと思えば、ルシナも唖然とするほどの行動に出た。
『賢者アクセリさま! こ、この度はわたしのせいで大変なご迷惑をおかけしました!! どうかこの罪深くダメダメな薬師にお仕置きを頂けないでしょうか!』
「……え、パナ? いつもと違う言葉でどうしたっていうの!?」
ルシナが驚くほど、パナセの態度は出会い初めの頃の、他人行儀なものに変わっていた。
「いや、待て……どうした? パナセだよな? 何だそのかしこまりは……」
「そ、そうだよ! パナなの? 誰か違う人になったんじゃないよね?」
「だって、だって……あのその、わたしのような人間のせいでアクセリさまが……はぐぅぅぅ……」
なるほど……、操られていたとはいえ、俺にダメージを与えたことはしっかりと覚えているようだ。
しかも自分が奴隷であったことも、思い出してしまったらしい。
黒騎士のことは今は聞かないでおくが、いずれパナセから言って来た時には話すことにする。
「ふ……今に始まったことではないだろう? パナセらしくないな。不意打ちで俺の姿を消し、口づけまでして来たお前はどこへいなくなった? 確かに手傷を負ったが、それは俺の油断に過ぎない」
「で、でもでもでも……」
どうやら責任を感じさせてしまったようだ。
「お前が俺から離れたいというなら止めはしないが、俺はパナセに出会えたからこそ、ここにいるんだ。俺の元へ来てくれないのか?」
「お、お許し頂けるのですか?」
「……そうだな」
「えぅっ?」
分かりやすくしなければ、パナセには分かってもらえない……、そう思って痛みをこらえながら両腕を思いきり広げて、パナセの突進を迎えてやることにした。
「さぁ、俺の胸に飛び込んで来い! お前の全てを許し、お前の一生を見てやるぞ!!」
「ほ、ほほほ、本当によろしいのですかっ?」
「遠慮するな! 今までそうして来たはずだ。何を今さら遠慮する?」
これはかなりの衝突が予想されるだろうが、瀕死になってもこの際、構わないことにする。
「ア、アグゼリざばぁぁぁあぁ……!!」
「さぁ、来いっ! パナセ」
すぐ傍に立ってはいたが、助走も無いのに恐ろしい程のスピードで俺に向かって来る。
もしかしたら意識をも失いかねないが、パナセの気持ちを受け止めるには覚悟を決めるしかない。
「ズドーーーーーーーーーーーン!!」
まるで岩が向かって来たかのような、激しい衝突を受けた。
黒騎士との戦いの中で受けた傷ではなく、パナセの移し傷の痛みが治りきっていないだけに、一瞬暗闇空間が広がった。
「ふぎゅっ……うぎゅっ、アグゼリざばぁぁぁぁぁ……わたしは、アグゼリざばの傍にいたいですぅぅ」
「ぐおっ……あ、あぁ……お、俺もだ……」
金色に輝くパナセの長い髪が俺の鼻先をくすぐっている。
パナセは泣きじゃくりながら、顔を胸にこすりつけて来ているのだが……。
「ぐあっ……く、くぅっ……」
「ちょっと、アクセリ? あなた、さっきよりも顔色が悪いんだけど」
「あ、あぁぁ……そ、そうだな。そろそろパナセを落ち着かせるか……」
ルシナから見ても、俺の顔色は相当深刻に見えるようだ。
「アクセリさま、アクセリさまぁぁぁあ……」
「あぁ、アクセリだ。パナセの気持ちは受け取ったぞ。とりあえず、一度離すからな?」
「嫌ですぅぅぅぅ……ふぎゅぅぅぅぅ!!」
「あ、愛しているのは分かった、分かったから……離すぞ?」
「うーうーうー!!」
一度くっついたら離さないし、離れないのは想定していたが、ここまでだとは思わなかった。
普段の力であれば、いくらパナセの抱きつきが強くても引きはがせたのだが、体力は限界を超えていたようだ。
「パナセ、一先ず落ち着け。は、離すからな? 素直にいうことを聞いてくれ……」
「ぎゅぅぅぅぅ……!! いーやーでーすぅぅ」
「そうか、では仕方が無いな……」
「へぎゃっ!?」
効くかどうか分からなかったが、抱きつくパナセにお仕置きを施した。
「あーうー……ひどいですぅ~」
「よ、ようやく、落ち着いたか……パナセ、これからもよろ……がふぁっ!?」
「ア、アクセリさまっ!? ルシナちゃん、アクセリさまが!!」
「うん、そのままパナの膝の上で寝かせてあげて」
「ほへっ?」
パナセに与えたお仕置きの一撃で俺は意識を失ったが、パナセを泣かしては行けないことを学んだので良しとしよう。
「全くもう……パナは本当に仕方のない、可愛いお姉ちゃんだよね」
「ルシナちゃんも可愛いよ」
「と、とにかく、アクセリが目を覚ましたらいつも通りにしててよね!」
「うんうん!」




