53.空穿ちの光槍と満身創痍の賢者 後編
黒騎士エウダイは土の精霊要素で、足下を固められている状態にある。しかし……
「どうした? 劣弱から脱したのではないのか? もっと精霊を打ち込んで来い。貴様の底を知ってやろう」
「……それは光栄なことだが、その前に聞いておく。お前は傀儡をしたシヤの母親だと言ったな? それにパナセも同じ奴隷なのだと……何故そのような真似をしている? お前の目的は何だ?」
「貴様は賢者でありながら、人の心は知らないのか? 貴様が間抜けにも眠りに落ちていた時、シヤとパナセは勇者どもに狙われていた。それが何故か分かるか?」
「傀儡の能力と潜在能力か。それがお前の因縁とするなら、何故すぐに会わなかった? シヤにしろ、パナセにしろ、まだ幼く、力の持たない状態でパディンにいたのだぞ? 偶然にしても、試練の洞窟で遭遇というのはおかしな時機だと思うのだが?」
獣人族のキツネの成長は人が思うよりも早いと分かっていたからこそ、洞窟で自由を与えた。
しかしパナセに至っては、俺と出会わなければこうはならなかったはず。
「何も知らない劣弱め。俺がパディンに隠したのだ! あの町であれば、勇者どもが来ることは無かったからだ。だが近くで貴様が目覚め、貴様を見つけ出したパナセは俺にも分からない出来事だ。シヤはともかく、パナセは俺のことを覚えてもいない。教える必要もないことだ。それ故、劣弱であろうとパナセを預けるに相応しい者かを見極めてやろうと思った……洞窟でのことは偶然に過ぎん」
パナセと出会う運命、そして奴隷としての過去。
いずれにしても、黒騎士に力を示す必要があるのは、賢者の自分に与えられた試練ということのようだ。
『暗雲にひしめく闇の精霊よ、我が生み出すは閃く雷光、凶呼びの紫雲。まばゆきの光を以って、彼の者に稲妻を与えよ、ライトニングボルト!』
あまり呼び出したことはなかったが、足止めの土に加え、雷をエウダイの頭上より放った。
「がぁっ!? くくく……面白い。これが”精霊”の意思か」
「面白い……だと? やせ我慢は止せ! 言っておくが、これでも抑えた方だ。力が完全に戻ったわけではなくても、その威力だ。お前がどれほど耐性に強くとも、命を削ることになるぞ!」
「もっと寄越せ!! こんなもんではないはずだ……少なくとも、勇者と共にいた賢者はな!」
この女、どこまで知り、何を知ろうとしている?
勇者を狙う目的は、奴隷とした二人を守ることにあるようだが……。
「貴様の得意な精霊でやれ! それを受けた上で貴様が求める答えをくれてやる」
「何!? いいだろう……」
正直なところ、パナセから受けた傷の痛みがかなり来ている。
血の流れこそかろうじて止まりはしたが、立って要素を唱えるだけでも意識を閉じそうだ。
怪我の無い万全な状態で、全能な力を使えたとして、それでも黒騎士は耐えうるのだろうか。
『凍てつきの聖氷……願うは命奪。我が望みを受け、氷結の意思の下、彼の者の四肢を刻め!!』
いつもの唱えよりも、より明確な狙いを命じ、切先の鋭さを大気上で具現化した。
足を封じ、頭上で踊る雷の竜、そして殺す意思を露わにした氷の精霊要素。
黒騎士の四肢には無数の氷刃が突き刺さった。
さすがにこれには、たとえ黒騎士であっても相当なダメージを負うはずだ。
「これが賢者の氷の刃……くくく、そうか……これが貴様の……」
「どうした? 相当な苦痛を味わい噛みしめて動けないのか? 想定よりも痛みがあったというのなら、お前の望みを叶えたことになるな」
そうは言ったが、やはり黒騎士に通用するほどの力は戻っていない。
パナセが近くにいなければ底上げされないとでもいうのかは不明だが、戻ったような感覚は得られていない。
『穿て、我が光槍……』
なっ!? 動きを封じ、かなりのダメージを与えたはずだった……
だが、手にしていた槍を上空を突き貫くように投げたかと思えば、光を眩かせて、俺の頭上で標的を狙い澄ますかのように静止している。
「貴様が雲蒸竜変なる者か、俺の槍が決める」
「な……!?」
「槍が貴様を貫けば、貴様はそれまで。そうでなければ……」
こいつは初めから俺を試すつもりだったようだ。
頭上の上空で静止していた槍だったが、しばらくの後、雲間を突き抜け俺が放った全ての精霊要素を消し去り、空から光を差し込ませた。
「――パナセを守れ。俺はシヤを連れて去る……勇者を名乗る魔を滅することが、貴様の宿命」
「お前は仲間にならず、パナセに何も伝えずに去るというのか?」
「……俺は初めからそう言っていたはずだ。貴様の程度を知った、それだけのことだ」
「ふ、合格か」
「自惚れるな!! せいぜい、パナセを守り抜け!」
「……そうか」
どうやら命を託されたらしい。
しかし黒騎士を打ち崩すことは、最後まで叶わなかった。
俺の精霊要素、そしてこの先の戦いは何とかなる……のか?




