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46.禍罪の勇者と


「……んんんっ? ふぇっ!?」

「ちょっ、パナ、静かにっ!」


 油断をした隙に連れられたパナセ、ルシナの二人は荷車に乗せられて、行き先の分からぬ道に驚いていた。


「え? えええ? アクセリさまは?」

「……しっ! 黙ってて――あっ……」


『くく、こんなとぼけた女が役に立つとか、正気かあ?』


 真紅の瞳で灰色の長い髪をした女は、疑いの目でパナセを見ながら、冷やかしの声を浴びせた。


「な、ななな、何ですかっ! 誰なのですか~!!」

「うるせえ! 誰でもねえんだよ! あぁ、強いていやあ勇者ってやつだな。あがめの勇者ってやつだ。ほら、アタシを崇めなよ! 薬師」

「……勇者? あなたが? どう見てもその瞳は魔族の……」

「お前も役に立たねえ薬師かよ? 知識だけはそこの女よりありそうだが、アタシを知っているかよ、あぁ?」


 言葉も態度も勇者と程遠く、風貌も似つかわしくない……そう見ていたルシナだったが、腰の辺りに隠していた短剣の反応に気付き、すかさず女から目を逸らした。


「――! アクセリから貰った短剣?」

「何だぁ? おい、何を隠し持って……ぐっ!?」

「え……」


 ルシナの短剣に手を触れた女勇者の手は、すぐに弾き返され、激痛を走らせているようだった。


「くそが! 賢者の短剣を忍ばせていやがったな!?」

「……あなたは何者? 何故短剣にさいなまれているというの?」

「アタシはヴェレーノ……毒持つ者。そのふざけた短剣をとっとと仕舞いやがれ! くそが!」

「……そう、毒を弾く短剣なんだ。勇者かどうかなんて知らないけど、私とパナ……その子を傷つけないって約束してくれるなら、短剣を使ってどうこうするつもりはないけど、どうする?」

「ちっ……」


 ルシナに持たせていたアシッドガードにたじろいだヴェレーノは、ルシナの言葉に従うように口を閉ざした。


「はふぅ……ルシナちゃん、すごい~!」

「私じゃなくて、アクセリのおかげ。ただの護身用短剣かと思っていたけど、何かの要素でも込めていたとすれば、大したことある奴かも……」

「これからわたしたち、どこに行くのかなぁ?」

「分からないけど、いなくなったことを知って、きっと大騒ぎで泣いてるかもね」

「アクセリさまが大泣き? あぅ……グズッ……」

「ちょっと、何でパナが泣いているの!?」



 ◇◇◇


「……はぁ? 仲間にならなくていいけど、薬師の女を救い出すのに協力しろだぁ?」

「そうだ」

「何で俺がそんなことをしなくちゃならねえんだよ! てめえに味方する気はねえって何度も……」


 分かっていたことだが、この期に及んでもオハードが俺の頼みなどを聞く筈もなく、無駄な時間だけが過ぎている。


「アクさま、こうすればよろしいのでは?」

「ん?」


 見かねたロサは、俺にこっそり耳打ちをして来た。


 幸いか、そうでないかは即座に判断をしかねるが、城の中には俺とロサ、アミ……そして、強情なオハードと黒騎士が立っている。


「おい、強情男……ならば、俺の話をしっかり聞け! 出来れば近くでだ」

「何でてめえに近づかなきゃいけねえんだよ!」

「俺の仲間……薬師の女の一人は、お前を痺れさせた女だ。それを恥と思わぬのか?」

「あんなもん、下らねえ油断だろうが! それを言うならアクセリ、てめえもだ!」

「……だが風魔法を自分で出しておきながら、痺れを理由に制御出来なかったのは、魔戦士の名が廃るな」

「俺のメインは戦士だ。魔法はてめえの実力に合わせただけで……」


 こいつの気性は面倒なくらい荒いが、深く思考を巡らせるほど賢くは無い。


 黒騎士に惚れていることを利用すれば、協力せざるを得ないはずだ。


「――オハードが痺れていた時、薬師を救ったのは黒騎士だ。お前の惚れている黒騎士が救った女を見捨てるのか?」

「……う」

「しかもお前が放った風をあっさりと消したぞ? 悔しくないのか?」

「あぁ、くそっ……口先もずる賢い奴め。く、黒騎士に出来て俺に出来ねえはずがねえだろうが! やってやらあ!」

「その意気だ」


 単純思考かつ、惚れた弱みに付け込まれるオハードに感謝せばならんな。


 今の会話を聞こえていたかそうでないかはともかくとして、恐らく黒騎士もついて来るだろう。


 そうでなければ、パナセたちをどうにかできる程、甘い相手では無いだろうしな。


「アミナスもきっちりと、強そうな獣を召喚しておけ。いいな?」

「任せるのだ! 偉そうなアクセリの為に動いてやるのだ」

「……味方には当てるなよ?」

「もちろんなのだ!」


 黒騎士に言葉を求めても無駄だろうし、仲間でもない以上は言葉をかけることは不要か。


「よし、行くぞ!」


『……劣弱、勇者は俺に殺らせろ。あの女には借りがある……』


「ほう? いいだろう……女勇者を知っているということならば、エウダイ……お前が勝手にやればいい」


 何とも不思議な組み合わせではあるが、勇者に何かしらの因縁があると見ていた黒騎士。


 黒騎士を追うオハードには、大いに役立ってもらうとしよう。


「フフッ、楽しそうにしていますわ」

「必死にしたところで、アレらが協力するわけではないからな。そうしたまでだ」

「わたくしもアクさまの抱擁を目指して、陰ながら敵の隙を突くことにしますわ……」

「期待しとく」

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