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32.賢者のゆく道へ ①


 パナセから蓄積されたダメージを全て貰った俺は、恍惚な表情のパナセを引きはがし、己の回復に努めることに専念した。


 倒した自称勇者はこの場に放置することにしたが、念のため、土の要素で動けなくしといた。


 後で自警団にでも来てもらうとするが、コイツを助けに来る連中がいないとも限らないので、来てもいいようにマーキングを施すことにした。


 そうすれば黒幕の狙いが辿れるかもしれないが、この男はそこまで大事にされてはいないだろう。


「さて、峡谷は抜けることが出来たわけだが……この先に味方を得られそうな場所はあるか?」

「そ、それなら、私に任せてくれる? 里の長だった時に、友好を結びに来た連中がいたの。そこなら、アクセリの味方をする者がいると思うし」

「ほう? 伊達に長をしていなかったというわけか。ルシナ、頼むぞ!」

「当然。それと、ロサさんとパナは休ませた方がいいと思うし」

「何故だ?」

傀儡かいらいが解けても、本来の力を出すまでには休むことも必要だと思うし、パナはとにかく色んな意味で落ち着かせる。それでいい?」


 小生意気なことを言い放つ娘だが、長く里を守っていた者の言葉は真意だろう。


「それで? そこで得られる味方は何だ? 人か?」

「アンヴォカシオンよ」

「……召喚か。それはいいが、攻撃特化の者はいないのか? ロサは確かにアサシンではあるが、前に出て戦うタイプではない。一人くらい、その手のタイプが欲しい所だが……」

「賢者ならそれを利用して募れば?」

「義賊と言ったはずだ。もう忘れたのか? 自称勇者であっても、俺は賢者と名乗らなかった。その意味をまだ理解していないのではあるまいな?」

「分かってるってば! アクセリ的には、弱くなり過ぎた賢者として馳せたくないんでしょ?」

「おい」

「気持ちは分からないでもないけど、時には賢者と名乗ることも必要だと思うけどね」


 状況次第では名乗ることも必要ではあるが、どこにいたとしても敵が潜んでいないとも限らない。


 多少は戦えるようになって来たが、やはり薬師は戦えないことが明白だ。


 だとすれば、武器を手にして戦える者を入れなければ、偽であろうと自称であろうと、毎回パナセをぶん投げることになりそうだ。


「勇者は強いのに、賢者はそうじゃないんだ?」

「何を言うか! 勇者など、単独では何も出来ない愚か者に過ぎん。魔王を倒すという目的があるのなら、いるだけで役立ったが、今の世界ではそうではないはずだ。多少の見聞があるかといって、賢者を愚弄するのは許さないからな?」

「じょ、冗談だってば」

「パナセに似ないほど、可愛くない性格な奴め」

「あー! それ言う? アクセリはパナにばかり愛を注ぎすぎ! 平等に注いでくれないと、成長したくても出来ないってことを覚えてよ!」


 自覚しているが、確かにその通りだ。救われたことによる心の傾きは否定出来ないが、長だった者に容易く接することは簡単ではないし、あってはならないと理解している。


「ルシナ」

「な、何?」

「お前も霧以外の魔法を使えるようにしてくれ」

「え、えー? アクセリが何とかしてくれるんじゃないの?」

「要素の機嫌はいつもいいわけではないからな。仲間が頼りだ」

「そ、そういうことなら何とかしてみるけど……教えてくれるんでしょ? 魔法とか」

「あぁ。まずは仲間を増やす。ある程度強さを確かめたら、敵に攻撃を仕掛ける。出来るか?」


 敵とはもちろん、勇者と勇者を崇めている連中だ。魔王はおまけだ。


「アクセリのすることが世界の正しいことなら、それに従う」

「ならば、いいだろう」

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