20.強制的な仲間入り ①
薬師たちから『パナセさま』などと言われているパナセは、実はとんでもない能力なのか。
ホームどころか、生まれ故郷である里の中であれば、普段は見せることが無い隠された能力を出せるに違いない。
そう思ってけしかけてみたのだが……
「え~い! やぁっ! えいえいっ!」
俺も含め、周りの薬師たちからも深いため息が漏れ聞こえて来ている。
「パナセ。お前はその、何をしているのか聞いていいか?」
「はいっ! 手をこうして、こう……動かしています!」
「見ればわかる……それで何を呼び出そうとしている?」
「へっ? 呼ぶ? 何も呼べないですよ~」
「それ、その奇妙な動きがお前の自慢か……?」
「もちろんなのです! これをすることで気合が入りまして、いい合成が出来る時があるのです!」
怒るのもバカバカしく、本人は至って真面目に披露してくれたのだから、褒めてやってもいいのだが。
しかし他の者の反応を見る限りでは、迂闊に褒める事をしてはいけない気がする。
「はぁ~~……パナ! いい加減にして!」
「ふぎゅっ!? ルシナちゃんもやる?」
「やるわけないでしょう? そこの賢者さまも困っていることだし、動きは止めてね」
「あぅ……ごめん~」
「でも思いついたんでしょ? それなら、奥の小屋を空けてるから作って来たら?」
「うんうん! そうする~! アクセリさま、よろしいでしょうか? あのあの……」
「よく分からんが、行って来い!」
あれだけ嬉しそうにしているパナセに何を言えるというのか。
不思議な光景といえば、パナセの移動とともに他の薬師たちが、ぞろぞろとついて行ったことだ。
「そこの薬師の女! パナセのアレは何だ? そして、お前も薬師なのだろう?」
「ご紹介が遅れました。わたしは薬師の隠里レサルの長、ルシナ・アウリーンと申します。あなたは賢者さまとお呼びすればよろしいでしょうか?」
「長? 全ての薬師を束ねる者か。俺は確かに賢者だが、今はただの義賊として動いている。出来れば、アクセリと呼んでもらいたい」
「ではアクセリさま、パナセを連れ歩いている訳をお聞かせください。そして、何故あの子は霧に驚いていたのかもお教えくださいませ」
連れ歩いているとは、随分な言われようだ。
粗悪なPTから救い出した……いや、助けられたのは俺の方ではあるが、この女の言い方はまるで……
「パナセはすごい薬師で間違いないのか?」
「もちろんです。あの子は生まれ持っての天才児! そして、潜在的な能力が極めて高い特別な存在なんです! わたしなど、足元にも及ばない……はずなのですが……あの子は霧にたじろぎ、戸惑っていました。あり得ないことですが、あの姿を見てこちらも霧を引っ込めるわけにもいかず……」
「霧と言ったが、あれは魔力を操っての幻術だろう? 薬師は魔力を持たない者ではないのか?」
「いいえ! 薬師は回復魔法士よりも回復に優れ、攻撃においても引けを取らない魔力を有しています! 使えないことなどありえないです」
俺はパナセの惑わし草を吸ったままで、幻でも見続けているのか?
まるで違うではないか。
「ルシナとやら、俺はとある事情で察しの通り、力が無い。無いが、嘘を見破る能力はある。お前の言っていることが嘘でないとすれば、あのパナセは何だというのだ? 何故あんなに愉快なことになっている?」
「それはわたしにも分からないです……ですけど、その原因はきっと、アクセリさま……あなたにあるかと」
「何? 俺がパナセをおかしくしただと? それは聞き捨てならんな。薬師の長とやら、俺に許しを乞うあるいは、持ちうる力を示して誤解を解け!」
「……そのつもりはありませんでしたが、あなたの賢者としての力をお示し頂くとします。その答え次第では、わたしも動かなければなりません」
「ふ、いいだろう」




