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19.薬師の隠里とパナセの秘密


 霧を一瞬ではらったロサの動きで視界は晴れた。


 それはいいとして、かなりの人間が俺たちを見張っていたことに気づき、素直に驚いた。

 

 目に見える薬師らしき者たちは、深々としたフードに身を包んで顔を隠したままで様子を窺っている。


「――って、あれ~? わたし、わたしだよ~!」


『その声はパナセ……? 素顔を表にさらけ出しているなんて、何があったというの!?』


「やっぱりルシナちゃんだ~! 元気~? みんなもいるんだ~」


 どうやらパナセの里で間違いが無いようだ。


 今のパナセは最初に出会った時と違って、表情がコロコロ変わる奴として愉しませてもらっている。


 それというのも、あどけない素顔を出しているからに他ならない。


 初めはここにいる薬師のように、似た感じのチュニックを着ていて、顔を隠していたわけなのだが。


 薬師の反応を見る限りでは、顔を見せない掟でもあるのかもしれない。


『アクセリさま~! 安心安全ですよ! ここはわたしの生まれ故郷なのです』


「……ふむ、霧も無くなったことだ。ロサも攻撃の意を解いておけ」

「ふふ、御意にございますわ」


 パナセの里は隠里というわけか。


 濃すぎる霧を発生させるあたり、相当、外の人間との繋がりは薄いと見える。


「えへへ~ルシナちゃん~! ただいま~」

「パナってば、変わってない……ううん、前よりもさらに悪化した感じがあるけど、そこの男にまさか?」

「アクセリさまなのだ! えっへん!」

「パナが偉ぶる意味がよく分からないけど、パナが自信を持っているってことは、すごいお方?」

「賢者様なの! あっ、内緒内緒~もごっ!」


 自分でバラシてすぐに口を塞いでも手遅れというものなんだが、パナセを怒るほどではないな。


 賢者と知られたところで、隠れの薬師に崇められるわけでもなかろう。


「……賢者? そこの者が? しかし霧をはらうほどの力は感じられなかったですけど、でもパナがこんなに懐いているなんて、一体どれほどの……」


 口ぶりを聞いている限りでは、パナセの姉か里の代表者といったところか。


 薬師はフードをかぶっていて、その素顔は分からないが、ただの調合者というわけでもなさそうだ。


「ロサは里と外の境界線で、敵察知をしていろ。俺はパナセの里を知り尽くすことにする。頼むぞ?」

「アク様のご命令とあらば、そうしますわ」

「あぁ、そうしろ」


 クリュス・ロサはようやく、俺だけに心を開放したようだ。


 元々の出会いも策でねじ伏せた関係だっただけに、勇者の野郎よりは、俺に心酔していたのだからな。


 俺の言うことを素直に聞くということは、他の人間の近くに置かないことが利巧と言える。


「あの、あなたさまは賢者だから、パナセ様を配下に?」

「パナセ様を知り尽くしましたか?」

「パナセ様はあなたをお認めに?」


 何事だ? パナセをパナセ様などと呼ぶのはどういうことなのか。


 霧を作り出す能力が薬師にあるということは、多少なりとも魔力の欠片を持っていそうだが、パナセにはそれがない。


 そうだとすれば、合成における万能士としての天才タイプということで、認められているのか。


『パナセ! こっちへ来い!』


 群がるように俺に答えを求められても埒が明かない。


 俺とパナセの関係を示した上で、薬師の能力を知っておく必要がありそうだ。


「アクセリさま~ただいま参りますです!」


 懐きまくった動物のように駆け寄ってくる姿は、何とも愛くるしいものだ。


 だが、実は俺の知らないパナセの能力があるとすれば、この里で得るものは大きいのかもしれん。


「来ました~!」

「……よし、パナセ。今すぐここで霧を作って見せろ!」

「ほえ?」

「そこにいる女が作り出したのであれば、同じ薬師のお前にも霧を作ることが出来るはずだ」

「はうあ!? き、霧ですか? む、むむむ無理です~」

「何故だ? いや、もう隠す必要は無いのだぞ? ここはお前の里であり、お前をあしらう粗野はいない。存分にお前の本当の力を示すといい」

「ええええええええ!? わ、わたしの本当の力……って何でしょう?」


 この期に及んでボケるのか。


 おかしい合成の力を持っているのは理解したが、魔力がもしあるならこの先において、パナセの重要度は格段に上がる。


「パナセ、遠慮はいらん。里に帰って来たのだから、自慢出来るお前の力をみなに見せつけてみろ!」

「自慢できる力……自慢……ふむむむ」

お読みいただきありがとうございます。

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