15.旧知の仲を信じる道へ 2
「あ、あの~……アクセリさま」
「……何だ?」
「ど、どこを目指しておいでなのでしょうか? も、もう、かれこれ何時間歩いたか分からないくらい、足がガタガタ教えてくれているんですけど~……はふぅ」
「パナセは体力だけが取り柄では無かったのか? 日が暮れ始めて間もない。暮れてしまえば、モンスターに狙われるのは必至だ。とにかく、歩き続けるしかない」
「で、でも、山奥に入って行くのも危険です~」
「案ずるな。俺がいるだろう?」
「ふぎゅっ! た、頼りにしております」
旧知の仲とはいえ、奴は一か所に留まることを嫌うダークエルフ。
俺が知っている居所に果たしているかどうかだが、気配を感じるにどうやら、こちらに気付いているようだ。
まずは仕掛けてみるとしようか。
『……盟約の要素、強力なわが友……この地、我が下に氷刃を求む!』
「え? ええ? ア、アクセリさま? さ、寒いです……冬でもないのに氷呼んじゃったんですか!?」
「……ふ。いいからそこで見ていろ! 挑発に乗っかって奴が出て来るはずだ」
「挑発?」
俺が現時点で使える要素は氷、水、土、風に留まっている。
一番言うことを聞く要素は氷と、土ということも分かった。
だとすれば、使える奴の中でもっとも有効な挑発を仕掛ける必要がある。
そうでなければ、あの女は表にすら出てこないはずだ。
『穿て! 氷刃』
日の暮れた山奥は、当然のごとく人の気配は感じられない。
陰を落とした木々の間で、弱きを狙う獣が潜んでいるのも承知している。
だが、山奥のさらに奥の此の地に限り、獣ですらも寄り付かせない気配をありありと見せている奴。
こいつには生半可な挑発では、気配すらも微動させることが叶わないだろう。
「あっあああ! す、すごい……アクセリさまの魔法で辺り一帯の木々が氷に変わってきたです! ハックシュン! あぅぅ……」
「もう少しだから辛抱しろ! 手が悴む前に、葱を噛んでていいぞ」
「だ、大丈夫です~」
寒さに弱くもないが、中で留まっている奴もさすがにジッとしていられないはずだ。
『さぁ、出て来い! クリュス! 俺が会いに来てやったぞ!』
名前を呼ばれるのを一番嫌がる奴のことだ、すぐに俺を殺しに現れるだろう。
「――その名をあなたに呼ばれても嬉しくなどありません。氷を融かし、山を戻すならこの刃を引っ込めましょう……賢者アクセリ」
「……来たか。ふ、そうだな。出会えて早々、背中に傷を残されても、あらぬ疑いをかけられそうだからな」
「……戯言」
「氷など、まやかしに過ぎん。すぐに戻る」
盟約の要素は、長いこと言うことを聞くとは限らないが、聞いているうちは自らで合図をしなければ、その地、その空は永遠に動くことが無いだろう。
パチッ――!
指を鳴らす、それだけで氷の世界と化した景色は平静を取り戻した。
「あ、あれれ? さ、寒くない……うー苦い……」
素直に言うことを聞き過ぎているパナセは、葱を口に加えて顔をしかめている。
何とも退屈させない女だ。
「……賢者が何用ですか? 平穏なる時を壊しにわざわざ来るなど……相応の理由があるのでしょうね?」
「まぁな。そこの薬師の女は俺の仲間だ。傷つけることなく、小屋の中へ入れてあげてくれ」
「人間の女……懲りずに、また変えたのですか。甲斐性なしの智者……」
「それは誤解だ。と、とにかく中へ案内してくれ……」
「……そこの女。口を濯ぎ、その臭いを消してから付いて来なさい……」
「はひぃ~ごめんなさい~」
俺の弱さを知ったら、間違いなくパナセから消されてしまうだろう。
だが、葱を本当に噛んでいたパナセは、やはり只者ではないかもしれないな。