14.旧知の仲を信じる道へ 1
「アクセリさま、これからどうされますか?」
「ん、ああ……パディンのことはギルドの連中に任せたからいいとして、問題は山積みだからな」
「わ、わたしはずっと、ずーっと! アクセリさまのお傍にいますから! お、置いて行かないでくださいね?」
跫音の鳴る洞窟で出遭った黒騎士に、俺は手を出した。
しかし基本そのものが弱くなり過ぎた俺では、勝てることが叶わなかった。
どういうわけか、三白眼キツネ娘がいたおかげで今の命があるわけだが、どっちにしても俺もこの子らも、もっと力をつけてやらねば世界がどうこう言えるはずもない。
「ふ、パナセのような愉快な娘を置くバカはここにはいない。教えることが山ほどあるからな」
「ゆ、愉快な娘じゃないですよぉ~むぅぅ」
不貞腐れのパナセは、中々に愛嬌がある。
改めてこのでたらめな薬師を拾ったことには、天に感謝せねばならないな。
「ヌシさま、ストレ、里、帰る……」
「あん? 里だと? 竜人の里に帰ることでお前はどう変わる?」
「……不明。里、力つく。里、戦う」
「里に帰ればストレは強くなるというのだな? では、そこに行くとするか」
「ダメ。ヌシさま、人間。竜の里、立ち入る、認めない」
弱くなっていなければ、たとえ厄災の竜だろうと気にもしなかったのだが、パナセを連れて行くだけで何かの災いを起こされても困る。
ここは戦力増強をして来てもらうとするか。
「いいだろう。ストレ、次に俺の元へ姿を見せる時があれば、確実に強くなって来て見せろ。そうでなければ、魔王も勇者も消し去れ無いぞ?」
「……分かる。じゃあ、帰る。バイバイ、ヌシさま、パナ……」
「待っているぞ」
「えっ……えええええええ!? あれっ、アクセリさま! い、いいんですか? あの子、どこかに行っちゃいましたぁぁ!」
「そう騒ぐな。ストレは己の弱さを悔いたはずだ。パディンの前で沼を作り出したとはいえ、あの力を放っただけで、その後は何の役にも立たなかったと子供ながらに思ったはず。それを悟った上で俺の元を離れる。寂しいが、成長出来るものなら行かせてやったまでだ」
正直いって、パナセと二人だけの現状を変えてくれるというならば、いくらでも強くなって帰って来て欲しいものだ。
「はわわわわわわ!? ふ、ふふふふふ……二人きり~!?」
「どうした? 俺と二人きりが嫌か? 最初の出会い状態に戻ってしまうわけだが……」
「ととと、とんでもないですっ! こ、こここ、この身を盾にしてでも、アクセリさまをお守りするのが薬師としてのお役目……はぎゃっ!?」
おっと、ついついパナセの頭をどついてしまった。
「薬師が盾にだとか、それはあり得ん。パナセ、お前は俺の傍にいろ! 俺の為に新薬でも、でたらめ薬でも構わん。お前自身も、もっと強くなって見せろ! 俺を守るというのならな」
「ふ、ふんふんふんふん! つ、強くなりますよ~!」
「くくく、可愛い奴め」
さて、薬師は現状維持といったところになるが、このまま闇雲に進んだところで、賊に襲われて身ぐるみを剥がされるのがオチだ。
あまり期待もかけられないが、強い賢者として生きた時の仲を信じて、奴の所に行くしかないか。
「パナセ、お前は体力は問題ないか?」
「は、はいっ! むしろ、それだけが取り柄ですっ!」
「よし、ではひたすらに歩くぞ。ついて来い!」
「ど、どちらへ行かれるのですか?」
「旧友……いや、旧知の仲の奴の所だ」
あまり頼りたくはないが、弱くなった俺を知れば態度を変えて味方になってくれるはずだ。
「アクセリさまのお友達……そのお方も、賢者さまですか?」
「賢者は世界に俺しかいない……ソイツは、少々面倒な奴だが……多分、パナセごときでも気に入ってくれるはずだ……」
「え? ええ? どんな怖い男の方なのですか!? 怖い方は怖いです……」
「心配するな。俺は賢者の時から、男の友人がいなかった男だ。ソイツは紛れもなく女だ……見た目だけはな」
見た目と性格は別物だが、何とかなるだろう……多分。