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13.風と微塵とランス使い 後編


「よし、パナセ。俺が3つ数えたら、手持ちの攻撃系な草を、手あたり次第投げろ!」

「ええ? それだとアクセリさまにも当たっちゃいますよ~」

「3つだぞ? 数えた後だからな? 後だぞ? 先に出ては行くが、心配するな」

「はいい~! し、信じますです」


 とは言ったが、パナセのことだから必ずドジを踏んでくれると思っている。


 俺が3つ数えている間に、何から投げようだとか思い悩んでいるうちに、自棄やけになって投げるであろうからな。


「……ふぅ」


『ん? そこにいるのは誰だ!』


「誰でもないが、強いて言えば義賊のそのいち! だな」


『義賊? では貴様がパディンの前に沼を作った張本人か。その一ということは他にも? いや、この奴隷らがそうか。俺の奴隷をどうするつもりだ? 義賊で民を味方につけたとて、褒められるものでは無いぞ!』


「褒めてもいいぞ? ふ……黒騎士ごときが何故奴隷を飼う? に!」


『黒騎士とて、奴隷は使うものだ。この世界は魔王と勇者がのさばり、廃れたも同然だからな。奴隷を扱って手を汚さず動くことの何が悪い?』


 素直に3を数えるべきだったと後悔しまくりではあるが、さすがのパナセも気づくはずだ……


「さん! せいしかねるな。廃れた世界であるからといって、貴様より弱い奴隷を使うというのか?」


 さぁ、紛らわしくも3つ数えたのだから、投げて来い!


「……義賊。貴様、他にも仲間がいるな? さっきから何を――」


『えいえいえいっ! とにかくどれでもいいから、行って~!』


 何ともいい加減な投げ方で放り込んで来たかと思えば、本当に手あたり次第ではないか。


 草の形や色で立ち位置を変えるつもりをしていたが、防御魔法で何とかなるだろう。


「む!? 何だこれは……げほげほげほっ! くそっ! 暗闇草か……小賢しい」


 よしっ、マジックカシェ! これで魔法系は封じられて俺には効果が無いはず……ごほっごほっ。


「だ、だだだ、大丈夫ですかっ! アクセリさま!」

「お前、本当に手あたり次第だな。どれを投げた?」

「え、えーと……目つぶしと、暗闇と、麻痺と、胡椒と……あ」

「胡椒? パナセ……後で説教だ」

「はうううう」


 エルフらは物陰に隠れたまま、様子を見ているといったところか。


 三白眼キツネ娘は、巻き添えを喰らいたくないからか、かなり離れたところで隠れているようだ。


 もっともそれだけでは無いようだが。


「小賢しい義賊めが!」


「何っ!?」

 

 視界を遮断され、麻痺やその他色々な効果を受けているはずの黒騎士だったが、気を集中させているのか、片足を付いたままで槍を構えだした。


「パナセ、俺から離れていろ!」

「えっ、は、はい」


 黒騎士は手にしている槍を見えないままで、肩の上辺りまで掲げたかと思えば、弧を描くようにして回転させ始めた。


 黒騎士の周りは、先ほどエルフらが吹き上げた塵が残っていたが、塵ごと砂塵を巻き上げている。


 回転する槍からは、耳鳴りのような音を発し始めた。


 これは……黒騎士の最高技か? これは驚いた……ただの雑魚ではなかったようだ。


「仕方ないな……盟約の要素、俺の言に傾き、塵立つ場に力を示せ! いや、示しやがれ!」


 久しぶり過ぎるが、言うことを聞いてくれた要素は氷のようだ。


「わわぁ! 氷が辺りを凍らせてます~」


 パナセには全てが新鮮に映るというのか? これからたっぷりと見せつけてやりたい所だが。


「……ちぃっ、義賊ではなく魔法士だったか! 貴様、何者だ?」

「義賊アクセリだ。雑魚な魔法士なぞではない」

「我が名は黒騎士エウダイ! 義賊ごときが、我が奴隷をどうするつもりだ?」

「どうもしないな。ただ自由を与えてやるだけだ。黒騎士も自由を得てみたらどうだ? まずはその重そうな鎧を脱いで、素顔を拝ませてくれないか? その声、その立ち振る舞いはどう見ても男だろうが……」

「貴様に我がおぞましき面を見せるわけには行かん。それよりも、随分と余裕のようだがその程度か?」


 氷も予定よりずっと威力が弱すぎたか。


 これはまずいぞ。パナセの草攻撃もほとんど当たらずじまいだった。


「人間め、思わせぶりで大して強くないとは……」

「こ、こら、シヤまで出て来ることはないだろう?」

「シヤ……? く、くっくっく……キツネも連れて来たか。義賊、ここは退いてやる。パディンの町も放置してやろう。だが、俺は義賊アクセリを執拗に追ってやる! 地の果てまでもな!」

「それは有り難いが、男か女かで俺の態度は変わるぞ? 男なら、次に会った時こそ地の底に沈めてやろう」

「弱者ごときが何をほざく。聞け! そこのキツネは並の人間では手に負えぬ奴隷だ。ソイツを連れ出して来た所だけは評価してやる」

「……それはどうも」


 よく分からないが三白眼キツネ娘は、特別な奴隷のようだ。


 勝負にもならなかったが、勝負は決したらしい。


 黒騎士は表情の中身が不明なまま、洞窟から去って行った。


「ア、アクセリさま! ご無事ですか?」

「いや、無様だ」

「ヌシさま、魔法使い」

「ふぅ……使えるのは頭脳だけで、まるっきり劣弱ではないか」


 それにしても、黒騎士があっさりと手を引いたが、パナセのでたらめな攻撃が効いていたか?


「に、人間! お前は魔法を使うのか?」

「そうだな。キツネ娘は何者だ? 黒騎士に大事にされているようだが……」

「し、知らない……」


「「ジュメリも知らない」」


 双子エルフの力の程が分かっただけでも良しとするか。


「まぁいい。パディンに戻ったのち、エルフとシヤ! お前たちはどこへでも行け。この先、生きるも死ぬも自由だ。俺とパナセ、ストレはパディンを出て進まねばならん」

「え? みんな仲間に加えないんですか?」

「いや、今はしない。自由を与えられ、その後に強くなるかを試す。今のままいられても困る」

「はふぅ……それは寂しいです~」

「ヌシさまに、従う」


 エルフらは敵になるかもしれぬし、キツネ娘も成長次第ではどっちにつくかは知らないが、寄せ集めのPTで最強になれたら、勇者がのさばる世界にはならんだろう。


「さぁ、戻るぞ。次の大きな町で仲間を探す!」

「は、はいい!」

「……ん」


「人間、嫌いだ。でも、自由をもらったこと、忘れない」

「「人間たち、カンシャ」」


 町までは共にしない選択をしたようだ。洞窟の中で、彼女らはそれぞれで散って行った。


 俺の弱さを何とかするには、パナセを何とかしない駄目なことが分かった。


 まずはパディンのギルドでそこそこな奴をボス扱いとしておくとするか。

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