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DUAL DIMENSION 第3部  作者: たいちょお
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「懐かしい未来へ」(24)

 洞窟の中は外よりもはるかに静かで、ところどころに掘り残された水晶石がティキの明かりの反射を受けて幻想的にきらめいている。しかし対照的に、地面には腐食したトロッコの線路や、腐りきった木製の荷台が転がっていた。


やがて下へと向かうはしごを見つけた二人は、慎重にそれを降りていく。


「妙だな……。魔物の気配がしない。」


「そうね、これだけ閉鎖的な空間なら魔気も濃いはずなのに、あまり感じないわ。」


 奇妙な感覚を覚えながら坑道を進む。しかし魔物は出なかった。


 そして三層か四層下りた頃だろうか。二人はぞっとする感覚を覚えた。何か異様な空気を道の先に感じたのだ。リグは刀に手をかけ、慎重に進む。


 坑道の終点にあったのは、……フリーゲートであった。しかし今まで見たことのない、どす黒い闇が渦を巻いている。


「これは、フリーゲート……?」


 二人はどちらからともなく疑問を口に出す。この採掘場に魔物がいなかったのはこのフリーゲートのせいだとしたら、この先にいる魔物は圧倒的な存在に違いなかった。


 二人はしばらく躊躇した。だが、進まなければ道は開けない。


「……行くぞ。」


リグの言葉を合図に二人は闇のゲートへと入っていった。



 ……到着した先。


そこは静寂と凍てつく空気と果てしなく濃い魔気の渦巻く場所であった。


「ごほっ……!」


 二人は胸に鋭い痛みを感じた。激しく咳き込み、頭の芯が痺れていくようだ。すべてが凍りついてしまうほどの冷気に体温は一瞬で奪われ、体の自由が利かなくなる。


ティキがあまりの激痛に座り込む。リグはそんな彼女を何とか担ぎ上げると、再びフリーゲートをくぐり抜け、元の場所に戻ってきた。


「はあっ、はあっ……。大、丈夫か……?」


 リグの呼びかけにティキは応えない。あまりの魔気の濃さに失神してしまったようだ。いくら呼びかけても応えない彼女にリグは焦りを覚えた。



俺はまた、大切な人を失ってしまうのか……!? 



 リグはエラルのロザリオを掴み、祈るように解毒の聖術を唱え始めた。


「我が古の守り神よ、この傷つきし魂と身体に癒しの光を与えたまえ。


邪悪なる魔のいばらから解き放ちたまえ……!」


 淡い光がティキを包んでいく。リグはその光をたまらない気持ちで見つめていた。


 やがて……、彼女の腕がぴくりと動いた。そしてゆっくりとまぶたを開く。


「リグ……?」


その言葉にリグは熱い感情を覚え、ティキを抱きしめた。いつもの彼らしくない行動に彼女は驚く。


「どう……したの?」


「……もう、戻って、来ないかと、思った……。」


 リグの頬を涙が伝っているのがティキの頬にも感じられた。彼女は記憶の糸を手繰り思い出す。そうだ、自分はゲートをくぐった時、あまりの魔気の濃さに意識を失ったのだ。その自分を彼は懸命に介抱してくれた……。ティキは胸がいっぱいになり、自分もリグを抱きしめる。


「ごめんなさい。もう、どこにも行かないから……。」


 幼子に諭すようにティキはリグに囁いた。


 二人はしばらく動かなかった。


ただそのまま、二人は生きている、という実感を溢れるほどに感じていた。



 しばらくして二人は落ち着きを取り戻した。あのどす黒いゲートの向こうに〝炎の氷〟があるのか、確かめなければならなかった。世界中を探さなければ見つけられないのだとしたら、ここは通り抜けなければならない試練である。それにあの凍気……『炎の氷』の名に見合うだけの空間がある確信もあった。


「神宝珠に、ありったけの聖術を込めて、結界を張るしかないな。」


「でも、それでも駄目だったら……。」


「……他に、考えつく方法がない。」


 リグの言葉にティキは返す言葉がなかった。



   あのアインの神殿にいれば、


   世界に光を取り戻さなくても二人で暮らしていける……。



一瞬ティキはそう思った。


しかしそれはリグにとってこの世界のすべてを裏切る行為になる。やはり、彼の言うとおりの方法しかないのである。


「……わかったわ。それなら、できる限りちゃんとした儀式をやりましょう。


その方が聖術の効果も大きくなるわ。」



 ティキは地面を丁寧にならし、そこに真円を二重に描いた。内側の円に六芒星を描き、外側の円との間に古代文字を丁寧に彫りこんでいく。


リグはできるだけ同じ大きさの水晶石を二十個ほど集めてきた。六芒星の頂点と、外側の円の東西南北に合わせ、半分ほど地面に埋め込む。残りの水晶石も時計の針と同じ間隔……十二方位に向けて埋め込んでいった。


「方角は大丈夫?」


ティキの問いかけにリグは水筒の水の上に磁力をもった黒金を浮かせ、確認した。


「大丈夫だ。合っている。」


そしてティキは神宝珠を魔法陣の中心に置いた。リグを魔法陣の北側にいざなう。


「……はじめるわ。リグはできるだけ集中して神宝珠に祈りを捧げて。


そう……白い翼を思い描くように。」


 ティキは魔法陣の東に立ち、錫杖の翡翠玉を神宝珠の上に重ねる。


「精霊よ、女神の忠実なる下僕よ。神の魂に聖なる光を呼び覚ませ……。」


すると神宝珠がぽう、と光をおびはじめた。ティキはそのまま宝珠を中心に南へと歩き出す。


「精霊よ、女神の忠実なる下僕よ。神の魂に果てしない輝きを呼び起こせ……。


悪しき黒雲を打ち破る、強き正義のきらめきを我らに示せ……!」


 ティキの詠唱が終わると神宝珠は青白い光を天へと走らせた。そのまますう、と宝珠は浮き上がると、大きな白銀の光の翼を開き、周囲に球状の暖かな光の射す空間を作り出した。


「……結界の完成よ。リグ、ありがとう。あなたの力だわ。」


「俺の、力?」


「見たでしょう、光の翼を。あれは祈る人の想いの深さなの。


想いが大きければ大きいほど強く広い結界が張れるのよ。


……この結界はゆうに四、五人は入れるわ。あなたの力よ。」


ティキが錫杖をかざすと神宝珠はふわふわとついてきた。


「……行きましょう。」


 ティキは光の結界にリグをいざなう。結界に足を踏み入れた瞬間、彼の胸は焼けつくように痛んだ。結界の聖なる力が強すぎて、幻魔の魔法陣が拒んでいるのだ。


リグは一瞬、胸を掴み俯く。


「どうしたの……?」


ティキの呼びかけに彼はひとつ深呼吸をすると、何もなかったように顔をあげた。胸の魔法陣はじりじりと痛み続けている。しかし、あのゲートの向こうに行くにはこの結界の力がどうしても必要だった。なんとも面倒な身体だ……、リグは自分が闇の眷属に近いことをつくづく思い知らされていた。


「……何でもない。行こう。」




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