「懐かしい未来へ」(20)
ほどなく二人はアインの村に着いた。
村はすでに廃墟と化し、グレダリオと同じように瓦礫がころがり、ギネムハーバと同じように死の沼に半分沈んでいた。
「……ただいま。遅くなって……ごめん。」
リグはかつての村に呟くように挨拶をした。
魔幻士だった自分を受け入れることのなかった村。それでもリグはこの村を……、義父ゴアと親友エラルのいるこの村を愛していた。
沼の部分を避けながら、かつて聖堂のあった場所を目指す。聖堂はところどころ崩れてはいるものの、今まで見てきたどの建物よりもしっかりと残っていた。
「……ここが、俺の育った聖堂だ。」
かつては礼拝堂であった場所へリグとティキは歩を進めた。
そしておもむろにリグは白い袋を取り出し、ゴアの亡骸を礼拝堂にまいた。
「……お帰り、義父さん。戻ってきたよ。またここに……。」
赤黒い砂塵は風に舞い、所々に散っていく。そして彼は祈りを捧げた。
その姿を見てティキも同じように祈った。世界を救おうと旅立った大聖士の冥福を。
ティキはそっとゴアのロザリオに触れ、静かに心の中で囁いた。
あなたの代わりに、リグは私が守ります……。
二人は聖堂のどこかに輝きの鏡の手掛かりがないか探しはじめた。
義父ゴアの部屋にある本棚……、ほとんど崩れて手にとることすらできなかった。
儀式の時に使う物を収める倉庫……、みな溶けて変形し、原型すらつかめなかった。
何も収穫のないまま再び礼拝堂に戻ってきた。
一息ついて二人は石畳に座り込んだ。崩れかかった石壁に寄りかかり、僅かな食糧をつまむ。
リグはティキに教えた。
「昔はあの祭壇に輝きの鏡があったんだ……。」
リグが指差した先には何も祀られていない、ただの棚があるだけだった。
そんな中、ティキはその祭壇の隙間から風が吹いているのを見つけた。ゴアの亡骸である赤い砂塵がくるくると小さなつむじ風をまいている。
「リグ……、あそこ。」
リグはティキが指差した方向を見た。石造りの祭壇の裏に何か空間があるようだ。
「あの壁の向こうに、何か、あるのか……?」
リグは立ち上がり、その隙間のある壁を思い切り蹴り倒した。すると祭壇はがらがらと崩れ、小さい部屋が現れた。その奥には上に向かうはしごがかけられている。
彼は驚きの表情とともに感嘆の声をティキに向けた。
「よく見つけたな。」
「私じゃないわ。あなたの……お義父様のおかげよ。」
ティキは視線を床に落とし、所々で舞っているゴアの赤い砂塵を見つめた。
「義父さん……。」
しばらくの沈黙の後、リグはティキに言った。
「もう……大丈夫か?」
「ええ……。」
「上ってみよう。あんなところに隠されていたんだ。
何か重要なものがある気がする……。」
二人は小さな部屋に入っていった。はしごの向かう先は薄暗くてよく見えない。リグははしごに手をかけてみた。黒鉄でできているそれをぎしぎしと揺すってみる。長い間隠されていたせいか、魔気の腐食はあまり受けていないようだ。
「先に俺が上ってみる。ちょっと下で待ってろ。」
そう言うとリグははしごを上っていった。
だいたい三階分ほど上っただろうか。終点は礼拝堂の最頂部だった。
所々崩れた屋根とステンドグラスが散っている。
リグはその中で丈夫そうな柱を探し、それにロープをくくりつけた。その先をはしごの下に落とす。
ティキは下で少し不安げに待っていると、目の前にするするとロープが降りてきた。
リグの声が聞こえる。
「一応命綱だ。身体に巻いてから上ってこい。」
ティキはリグの声にほっとすると同時に、自分のために命綱を用意してくれた優しさに彼へのいとおしさがこみ上げてきた。
ティキは一段一段静かに踏みしめるようにはしごを上っていく。しかし三階分のはしごを上るというのは結構な力が必要だった。だんだん腕が痺れてくる。
やがて頂上部にいるリグが見えてきた。
あと少し……。
ティキの集中力がふっと途切れた。体重をかけようとした足が空をきる。
「きゃあっ!」
身体が下に落ちていく。しかし次の瞬間がくんとそれは止まった。ティキははっと上を見る。リグが命綱を引っ張り、自分の右手を掴んでいた。
「く……早く、足場を戻せ……!」
リグは上半身を半分以上乗り出してティキの腕を掴んでいた。かなり無理な体勢だ。
ティキは急いではしごに手足をかけ直すと、何とか上ってきた。上ではリグが息を切らして座り込んでいた。
「リグ、ごめんなさい。大丈夫?」
心配そうにリグを見つめる。彼は荒い息の下から切れ切れに答えた。
「別に……問題ない。」
そう言って立ち上がる。まだ少し息が荒いが、彼の言うとおり問題はなさそうだった。
リグはきょろきょろとあたりを見回す。
すると左端の方にある石造りの柱に小さな扉を見つけた。二人は狭い足場を落ちないようにゆっくりと進んでいく。
そしてその小さな石の扉を開け、身を屈めて中へと入っていった。
小さな部屋の中。
彼らは期待以上のものを見つけた。空間が虹色に渦を巻いている。
「フリーゲート……。使えるのか?」
「……入ってみましょう。他に道はないわ。」
二人は互いに顔を見合わせ、頷き合うとゲートの中へと入っていった。




