「懐かしい未来へ」(17)
数百年後のリグの世界。
魔気が溢れ、空は赤紫と緑青が入り混じるような渦をところどころに巻いている。大地は腐りきり、腐臭と共に青銅色の沼が泡立っていた。
永遠の穴の祠を出てきた二人は神宝珠の僅かな光に守られ、かろうじて立っていた。
「……すごい、魔気……!!」
ティキがリグにすがるように寄り添う。そんな中、リグはぐるりと周囲を見渡し、宙を仰いだ。
「どうしたの……?」
リグはかすれるような声で呟いた。
「覚悟はしてたけど……、本当に、みんな……。」
嘘であってほしい、半分はそう期待していた。
まだ自分の世界には光があると。
しかしその思いは見事に砕かれ、悪夢の現実をまざまざと見せつけられた。
「リグ……。」
「……とりあえず、俺の村に戻ろう。俺の村はアインの村と言われていた。
男神アインの……、輝きの鏡の手掛かりが何かあるのかもしれない。」
山の頂きには確か僅かに泉が湧いていた。しかし今はその痕跡すら見つからない。それはこの世界では水も食糧も確保できないということであり、リグたちの旅には時間が限られていることを意味していた。
二人は嘆きの塔へと入っていった。この世界から旅立つ時はあれほど長く感じた回廊がとても短い。どうやらこの回廊は進む方向に対して空間のねじれが存在しているようであった。前に進むのは己の心との戦い……、戻るのは容易くできていたのである。
回廊を静かに進む中、リグはふと棒状の焦げついた線を地面に見つけた。足が止まる。
「……どうしたの?」
「いや……何でも……な、い……。」
リグは胸のロザリオを握り締めた。
あれはエラルの錫杖の跡。
ここは、俺がエラルを殺した場所……。
しばらく立ち尽くすリグをティキは心配そうに見つめていた。そんな中、ふとリグはゴアのロザリオに触れた。懐から取り出す。
「おい、ちょっと……いいか?」
リグはティキの方を向き、そして義父のロザリオを彼女の首に静かにかけた。
「リグ、このロザリオは……」
ティキは胸の鼓動が速くなるのを感じながら、リグに問いかけた。
これはリグの大切なお義父様の形見ではないの?
そんな大切な物を私が身につけていいの?
ティキの心の問いに答えるかのようにリグは言った。
「……そのロザリオは俺の義父、大聖士のロザリオだ。
大聖士はこの世界でもっとも高位の聖術士が身につけるもの……。
向こうの世界で聖術士の頂点に立っていたあんたが
身につけた方がいいと思っただけだ。
……俺には、過ぎた代物だ。」
「でも……。」
遠慮がちなティキに対し、リグはもうひとつつけ加えた。
「……すまないが、ここで祈りを捧げて、くれないか?」
「え……。」
「魔幻士の俺の祈りじゃ……、天まで届かない……。」
リグは静かに膝を折り、その錫杖の焦げ後に亡き親友エラルを思い、祈った。
ティキも同じように膝を折り、祈りを捧げた。
おそらく、ここがリグの親友の墓標なのだろう、そう感じていた。
そして願った。大切な人の親友の、魂の安らぎと幸せな来世を……。
「……ありがとう。行こう。」




