「懐かしい未来へ」(16)
再び永遠の穴に姿を現したリグ。
天井に足を着くと、くるりと反転して石畳に着地した。
部屋の中は何も変わらない。違うのは、ここが己の世界であるということだけだった。
「……戻ってきたんだ、な……。」
懐かしさと哀しさの入り混じった呟きをリグは発した。
そんな時である。
「きゃああっ!!」
聞き覚えのある悲鳴と共に天井から何かが降ってきた。リグはその『何か』に押しつぶされてどすんと倒れた。
「うわっ!!」
「痛ったぁ……。何で上下が入れ替わってるのよ?」
悪態をつき、お尻をさすりながら上半身を起こしたのはティキだった。
「お、お前!!」
「え……? あ! ご、ごめんなさいっ!!」
ティキはリグが自分の下敷きになっているのを見て取ると、真っ赤になってその場をどいた。
しかしリグはそんなことを言っているんじゃないと言わんばかりに彼女を怒鳴った。
「何で、来たんだ……? わかってんのか!?
もう、戻れないんだぞ!!」
「……わかってるわ。」
興奮するリグに対し、ティキは冷静に答えた。
「だったら、何で……!」
「これ……あなたの物でしょ?」
ティキは懐からゴアのロザリオを取り出した。リグの怒気が瞬間おさまる。
「それは義父さんの……。まさか、これを、俺に渡すために……?」
沈黙が流れる。
ティキは本当の理由は言えなかった。
あなたを追ってきた、本当はそう言いたい。
けれどこの世界に光を取り戻すために帰ってきたリグに、
私の気持ちは邪魔になるかもしれない……。
ティキは己の想いを隠し、彼の誤解を肯定することにした。
「……うん。」
「……莫迦だな、あんた……。」
ゴアのロザリオを受け取ったリグは目頭に熱いものを感じていた。それを悟られないようにティキに背を向ける。
「一緒に……行って、いい……?」
ティキが怯えるように尋ねる。リグは黙ったままだった。
やがて眼をごしごしとこすると、静かに言った。
「……帰れったって、無理だろう。……来いよ。」
ティキは胸から溢れてくるリグへの気持ちでいっぱいになった。
これからどれほど辛いことが起こっても、
私はリグといれば、何も、少しも怖くない……。
リグはそんな彼女の気持ちに気づくことなく、銀の扉を開いた。
そして二人は階段を上っていった。