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DUAL DIMENSION 第3部  作者: たいちょお
11/27

「懐かしい未来へ」(11)



 再び女神の神殿に戻ってきた。


エラルはヴィダリスの聖殿で別れるはずだったのだが、リグがティキと共に行くと言うので、お目付け役も兼ねてついてきた。本来なら聖戦士以外の男性は神殿には入れないのだから。


謁見の間では女神クレスが三人を優しく迎え入れた。


「お帰りなさい、ティキ。お母様は……そう、よかったわね。」


 クレスはティキから一通りの報告を聞き終えると、リグに目を向けた。


「それで、リグ……、と言いましたか? あなたは……これからどうするのですか? 


辛いでしょうが、あなたの世界は、もう、ないのです。


これからはこの世界で新しい人生をはじめてください。


私も、力になりますから……。」


諭すように告げる女神に対し、リグの発言は意外なものであった。


「……断る。」


そして一呼吸おくと、リグは意を決したように告げた。


「永遠の穴の封印を解いてくれ。俺は……、戻る。」


予想できない言葉に一瞬、辺りの空気は凍りついた。


「何ですって!?」


ティキの声は悲鳴にも似ていた。クレスも驚きの声を上げる。


「何を莫迦なことを! 


もうあの世界は魔気に侵されて、人の生きられる世界ではないわ!!」


「無茶よ、リグ!! 死にに行くようなものじゃない!」


 熱くなる二人に対し、リグは冷静だった。


「ひとつだけ……世界を救う方法がある。」


静かに言葉の続きを告げる。


「鏡を、創る。新しい〝輝きの鏡〟を……。」


女神クレスは悪質な冗談だというようにリグを諌めた。


「『人間』にあの鏡が創れるわけがないわ! 『人間』は『神』にはなれないのよ!」


そんな女神にリグは鋭い視線を向けた。


「……やってみなくちゃわからないさ。可能性はゼロじゃない。


『人間』が『神』になれないのなら、『神』も『人間』にはなれない。


あんたにはわからないよ。『人間』の、俺の心は……。」


クレスは沈黙した。


女神はリグを静かに見つめる。そして視線を虚空に移した。やがて何かを決心したように、首飾りのひとつを解き、ティキに差し出した。


「……これは?」


透明な糸に幾重にも小さな輝きがちりばめられている。そして中央には勾玉のような形の石が翡翠色に光っていた。


「……西の塔の鍵です。


あの塔には私が昔暮らしていた城に通じるフリーゲートがあります。


……そこには〝神宝珠〟が眠っています。」


「神……宝珠?」


「神宝珠には魔気を中和する力があるのです。


……輝きの鏡も神宝珠でできています。」


「クレス様!?」


ティキは事を理解した。女神はリグに輝きの鏡を創る基を与えようとしているのだ。


 動揺するティキに女神は悲しげに諭した。


「私には……、彼を止める権利などないのです……。」


そしてリグに告げた。


「お行きなさい。私があなたのためにできることはこのくらいです……。」



「……本気なの?」


謁見の間から降りてきたティキはリグに言った。その声には嘘だと言って欲しい、そんな響きがあった。


「ああ……、ここからは俺ひとりで行く。……鍵を貸してくれ。」


リグの決意は変わらなかった。右手を差し出し、鍵を求める。しかしティキは鍵を渡さず自分の首にかけた。


「駄目よ。」


「な……?」


困惑するリグにティキは言った。


「……この鍵は私が預かったの。私もついていくわ。」


「ティキ!?」


今度はエラルが驚いた。そんなエラルを見つめ、リグに視線を移す。


「……私たちの世界は、あなたたちの世界の犠牲の上に成り立っている……。


勝手かもしれないけど、少しでも……あなたの力になりたいのよ。」


同意を求めるように再びエラルに視線を戻す。これは私たちにできる僅かな助力なのだというように。エラルもそんなティキの心情を理解した。


「ティキが行くなら、俺も行くよ……。」


「……。すまない……。」


リグは小さく俯いた。そして思った。



そんなお前たちだから、そんなお前たちがいる世界だから、


俺はこの決断しかできなかった……。



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