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ブルーストーン  作者: 海来
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6話 道しるべの石

ダークピューマに襲われ、辛くも救われたガリアとシャン。

やっと意識が戻ったガリアの背中で、シャンは眠っていた。

 ガリアは、自分の背中の重みに目を覚ました。そっと振り返ると、自分に凭れるようにして、シャンが眠っていた。起き上がろうとして、ガリアは自分の肩に突き刺さったままの剣に気がついた。

「抜かないと……」

 そう言って、歯を食いしばってから剣の柄を足先に挟んでひきぬきにかかった。

「痛っ〜っ……ぐっ……」

 痛みに気を失うと思ったが、不思議と既に痛みはない。やっとの思いで引き抜いた剣を、じっと眺めた。剣は青く輝き続けていて、切り殺したはずのダークピューマの血も、ガリア自身の血も見つけることはできなかった。ガリアは、まだ寝そべったまま今度は自分の肩に目をやった。そこは、火傷を負ったようにケロイド状に引きつってはいるものの、血が出るどころか、古い傷の様にしか見えなかった。

「不思議だ……これも魔法の力……」

 ガリアの背中で、シャンが身動きした。

「ガッガリ、ア? 起きたのか?……」

 慌ててガリアの体から離れたシャンは、少し離れた場所からガリアを案ずるように見つめている。

「だっ大丈夫なのか? 肩の傷……」

 ガリアは、肩から抜き取った剣を鞘に収めると、大きく息を吐き出し、シャンに向かって微笑んで見せた。

「ああっ、大丈夫お前を担いで歩けるくらいに回復したぞっ」

「っ……」

 ガリアの言葉に、シャンの顔が一気に真っ赤になった。

「誰も担いでくれなんて言ってないっ」

 シャンは、赤い顔のままそっぽを向いた。

「そうだな、でもあの時はああするしかなくて……手荒な真似してスマン」

 シャンの鳩尾に突きを入れたことを、ガリアは申し訳なく思っていた。かなりの間目覚めなかったと言う事は、相当きつく突いたに違いなかったからだ。

「まだ痛むか?」

 ガリアの問いに、シャンは俯いて首を振った。

「僕が悪かったんだ……ダルタのところに戻ろうとしたから……ダークピューマが追ってくるなんて思ってなかったから……ゴメン……」

 ガリアは、シャンの言葉を手を振って止めた。

「ちょっと待て、あのダークピューマは、やっぱり俺たちを追ってきたのか? 俺はこの辺りに捕らえられていたのが逃げ出したのかと思ってた。今のお前の言葉からすると、根拠があって追われてると言ったように聞こえたが……」

 シャンの身体がビクッと震えた。

「なぁシャン、ダルタもいなくなった。これからは、俺がお前を守ってやる……そう言いたいが、今のまま何も分からないじゃあ、守り様がない……話してくれないか……お前の事、旅の目的……」

 シャンは、俺が守ってやると言ったガリアをじっと見つめ続けた。さっき、本当に自分の身を呈して守ってくれようとしたガリアを、もう既に信頼していた。自分の秘密も、旅の目的も話してしまっても構わないと思った。でも、旅に出る前にダルタにキツク言われていた。

『この男にシャン様の秘密を漏らさぬ事。旅の本当の目的は語らぬ事。いずれこの男が自ら知る時がくるはず……』

 ダルタは、ガリアの事を初めから信用していた。そして、シャンの旅に同行させるのはガリアしかいないと言っていた。でも、ある程度のことは話さなければ、ガリアは自分が信用されていない思ってしまうかもしれない。今、シャンにとって、唯一の存在となったガリアを失うのは、とても心細いことだ……シャンは、差し障りのない事から少しずつ話そうと決めた。

「ねェ、ここからまだ西の街までは距離がある。今から歩いても間に合わないかもしれないけど、歩きながら話さないか……時間を無駄にしないで済む……」

 ガリアは、シャンの提案に頷いた。夜中に、ダークピューマに襲われるなど想像したくはない。西の街で宿を取れるなら、それが一番安心できる。

「じゃっ行こうか」

 さっと立ち上がったガリアは、ペタリと座り込んでいるシャンの腕を掴んで引き上げた。軽々と引き上げられたシャンは、呆然とガリアを見つめていた。

「なにボケっとしてんだよっ、さぁ行くぞっ」

 林を抜けていくガリアの後姿を見つめながら、その背に頼りたいと思ってしまうシャンだった。







「僕の母は、僕を産んで直ぐに亡くなった。父が新しい母と結婚したのは、僕がほんの赤ん坊の頃……、僕は幼い頃、義母を実の母だと信じて育った……でも、気付いたんだよ。僕に可愛い妹が出来た時に……母の愛情が、妹にしか無い事に気付いてしまった。妹は本当に可愛い子で……周りの人は、全て妹を愛した……父も義母も、そして、あの人も……」

 自分の事を語り始めたシャンだったが、いきなり言葉に詰まったようだった。隣を歩くガリアは、そっとシャンの表情を見ていた、あまり言いにくいようなら、あまり急かさずゆっくり聞いてもいいと思った。ガリアはなるべく、シャンの気持に合わせてやりたいと思っている自分の気持ちがおかしかった。

 今まで、誰かに合わせようなど、あまり思った事がなかったからだろう。

「大丈夫か? 嫌なら、無理には……」

 シャンが、ガリアに微笑んだ。

「いや平気だよ。そう、続きだ……妹は皆に愛され……僕は段々、疎まれるようになっていった……何故か、父までが僕を遠ざけ始めたんだ。そんな中でも、ダルタだけは僕を見てくれた。いつも傍にいてくれたんだ。ダルタだけが頼りだった……でも、突然ダルタは姿を消した……そして、僕は幽閉された」

「幽閉って、まさか……うそだろ……」

 シャンは、驚くガリアの顔を見ることなく続けた。

「いいや、本当さ。地下にある牢に幽閉された……そして、誰もが僕を忘れた……水も、食べ物も与えられず、丸二日が過ぎたとき、ダルタの弟子の青年がたった一人僕を覚えていてくれて、食事と水を持ってきてくれた」

 ガリアは、誰だか分からない知りもしないその青年に、いつの間にか心の中で感謝していた。

「彼は、毎日やってきてくれた。食事を与え水を飲ませてくれ、話をしてくれた。僕は彼に頼んだんだ。牢を出るために魔術を教えて欲しいって、でも彼は泣きそうな顔をして首を振った。自分にはそんな力はまだないのだと……自分に力があれば、とっくに此処から出して上げられたのにと……彼は、何度も謝ったよ……何も悪くないのに……」

 閉じ込められ、忘れられた少年にとって、そのダルタの弟子の青年の存在はどれ程大きかったのだろうか……、しかし、その青年もまた、シャンを救えない自分の不甲斐なさを悔いていた事だろうと、ガリアは思った。シャンを守る事が出来なかった時の事を考えただけでも、身の毛がよだつガリアだった。

「僕は、落ち込んだ……ここを出られないって……でもね、ダルタが来てくれたんだ。牢の壁を高熱で溶かして僕を外に連れ出して、魔法の森の小屋に連れて来てくれた。その後は、薬草の見分け方、煎じ方、癒しの術を教えてくれた。そうやって、何年もあの森で暮らしてたんだ」

 シャンの話を聞きながら、ガリアはおかしな事に気付き始めていた。地下に牢のある家、シャンはダルタを大魔術師と言っていたように思うのに、その大魔術師が一緒に住む家、その大魔術師には弟子までいる。こんな家は、普通では考えられない……。魔法と言う文言をのぞけば、自分が生まれた城ならば、ありうる話に思えた。シャンは、もしかして何処かの国の王子なのか? とガリアは思った。普通の少年にはない、しなやかな身のこなしと優雅さは、そこからきているのかもしれなかった。まぁ、王子と言っても、ガリアの様に一般の民と共に生活する時間が長く、それもやさぐれた兵士達と一緒では、しなやかさや優雅さとは程遠いのだが。しかし、ガリアの長兄は優雅で物腰の穏やかな、威厳のある王子だと思い出す。まあ自分と比べるのは、はなからおかしいのだとガリアは思った。

 ガリアは、確信を得る為に、関係ないように思える別の質問をしてみる事にした。

「ところで、さっきのダークピューマが閉じ込められてるって所は何処なんだ?」

 何も言わず見開いたシャンの瞳が、それを聞きだせばシャン自身の素性に近付くと、ガリアに確信させた。

「あいつらは、アクアリス城の裏手にある海に面した洞窟に閉じ込めてあるんだ。あいつらは水が苦手で、特に聖水に近いアクアリスの近海の水には近づけない……だから、魔術で聖水を集めている洞窟からは出られないはずなんだっ」

「じゃァ、そのアクアリスにいる筈のダークピューマが、どうして俺たちを追ってきたと思うんだ」

 シャンの顔は青ざめていた。

「そんなの分からないよっ、僕が知りたいぐらいだっ何故っ何故っ……誰がっ!!!」

 シャンの息が上がった、興奮しているのが分かる。先ほどの事が、相当堪えているか、それとも他に何かあるのかは分からないが、あまりこの件は踏み込まないでおこうと思った……今はまだ……きっと、他の何かの方に怯えているとガリアには思えたから。

 シャンは多分、アクアリス国の王子なのだろうと、ガリアは確信した。自分の国に捕らえてある闇の生き物ダークピューマに襲われたら、それが追手だと思ったのだろうことは、ガリアにも想像がつく。あんなものを追手に差し向けたのが、もしかすると自分の親かもしれないと、シャンは思っているのだとガリアは感じた。あまりにも可哀想なシャンの身の上に起こった事実に、ガリアは、それ以上聞くことなく、また質問を変える事にした。

 務めて明るく聞いてみた。

「じゃぁ、旅の目的は? 西に向かうって、何処に行く気なんだ?」

 ガリアがそう聞いた時、ガリガリと石を擦り合わせるような音がした。シャンの声を待っていたガリアは、変な音に拍子抜けした。

「ん? 何の音だ」

 だが、さっきダークピューマに襲われた事が甦り、瞬時に剣の柄を握ったガリアだった。

『そんなもので切ってもらっちゃ困るな……』

 カシャカシャと何かを擦るような耳障りな声がした。

『青き剣士、お前さん日暮れまでに西の街に着きたいんじゃろ』

「青き剣士って、俺か?」

 ガリアは、ぐるりと身体を回して辺りを見回したが、人の気配は無い。

『こっちじゃ、こっち。何処を見とる』

 声のしたほうを見ると、道しるべの石碑があった。

 石には、西の谷と書いてあり、不思議にもその下に刻まれた矢印がゆっくりと回っていた。

 ガリアは、黙ってその石碑をじっと見つめた。

「ガリア……僕、道しるべの石がしゃべるの初めて聞いたよ」

「な、に? 石がしゃべったってのかっ」

「うん……しゃべるって知ってたけど、声を聞いたの初めて」

『ワシは、用事がなけりゃ、しゃべらんのよ。青き剣士に、いい事を教えてやろうと思ってな』

 ガリアは、剣の柄を握ったまま、用心して石の様子を見ていた。

「いい事って何だ、俺が何にも知らないと思って騙すんじゃないぞっそんな事してみろ、ぶった切ってやる。どうも、魔法ってのは好きになれそうにないんでなっ」

「道しるべの石は、嘘はつけないよ。話すことは滅多にないはずだけど、嘘は絶対につかないってダルタが教えてくれた」

『道しるべが嘘を言ってどうするんじゃっ愚か者』

「はっ、どうせ愚かですよっ、で? 何なんだよ、教えたい事って」

『名を隠す者よ、風の精霊を呼べ。西の街まで連れて行ってくれるじゃろうて、青き剣士と共にならな』

 ガリアは、シャンを見つめた。

「名を隠す者ってお前じゃないか? 風の精霊なんて呼べるの?」

 シャンは首を傾げた。

「呼んだことないし、呼び方知らないよ」

『お前さんほどの魔法の力を持ってすれば、簡単なことじゃろう。念ずればよいだけじゃ』

「念ずればいい……」

 シャンは、知らぬ間に右の手首を握っていた。

 ビュンッと風が舞った。

「おっとっ!!! シャンっ」

 その瞬間、ガリアはシャンを抱上げた。

 風が二人を舞い上げ運び始めた。

「おっおろしてっガリ、ァッ」

「そんなの無理だろォォ〜〜」

 強い風に、空高く舞い上がった二人は、風の精霊に願った……途中で落さないでくれと……















風の精霊の作った風に乗って、西の街に向かう二人。

シャンから色々な話を聞いたガリアですが、確信した事は、シャンに聞き返すことは出来ません……

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