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ブルーストーン  作者: 海来
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3話 激しい想い

森を進み始めた、ガリアとシャン。

お互いに、まだ何も知らない者同志、色々と聞きたい事が一杯のガリアですが……

 森の中を進んで行く間、少年は何も話そうとはしなかった。

 何かを考えるように、時折、木の枝を払う以外は、ただひたすら真っ直ぐ前を向いて進んだ。

 ガリアは、そろそろその様子にイライラし始めていた。

 何も分からず出発したため、聞きたいことが山ほどあるというのに、聞ける雰囲気でないことが、ガリアにはたまらなく不快だった。

「なあっ、お前の名前な、ダルタが呼んでたシャンって呼んでいいか? 名前がないんじゃ困ることもあるだろうし、やっぱりさ、一緒に旅するなら交流を深めるためにっ」

 少年は振り返ると、ガリアを指さした。

「うるさいっ名前は勝手に呼びたければ呼べっ、でも、僕はお前と交流を深めるつもりなどない」

 ガリアのイライラは、この一言で爆発した。

「勝手なことばかり言ってるんじゃないぞ! 俺はお前の旅に付き合ってやろうってんだ。少しは有難いと思えよ。態度悪すぎじゃねーのかよ」

 少年は、黙ってガリアを睨み続けた。

「お前が行こうとしてる場所も、何をするのかも何も聞いてない。どうしてこんな状態のまま引き受けちまったのか……でも、一旦引き受けたからには、最後まで一緒に行くさ。だから……」

 少年は、薄いブルーの瞳を伏せた。

「すまない……色々と考えないといけないことが多すぎて……シャンと呼んでくれて構わない……宜しく頼む……」

 それだけ言って、シャンは前を向いて歩きだした。

「シャン……か……」

 軽い旅装に着替えたシャンの肩は、少女のように細かった。

 何となく、ガリアはまだ幼さの残る少年シャンを守ってやらねばならないと思い始めていた。

 キツイ口調と、横柄な態度の中に、どこか不安定な心の揺れを感じる気がする。

 ぼんやりとシャンを見つめながら歩いていたガリアの頭に、何かが降ってきた。


「うわっ!!」


 その声に振り返ったシャンは、思わず口を押さえて笑い始めた。

「アハハハハハハッ……ハァ、あんた注意力なさ過ぎ……」

 ガリアは、頭から肩まで、どろりとした飴色の液体に汚れていた。

 目も液体に覆われ開く事が出来ない。

「おいっ、これは何だっ何か臭うぞっくさっ……」

 ガリアは、自分を覆っている液体に触れようと手を上げた。

「触っちゃ駄目っ」

 シャンの声に、ガリアは一瞬手前で触れるのを止めた。

「何で触っちゃいけないんだ?」

 シャンは溜め息を付きながら、ガリアのところまで戻ってきた。

「これさ、キキンガって言う木の樹液なんだ。あんまり吐き出したりしないんだけど、一年で一番暑くなるこの季節は、たまに木の幹から吐き出すんだよ。きっとドロドロしてて自分でも気持ち悪いんじゃないかな? って僕は思ってるんだけど」

 ガリアは、頭の上にあった手を下ろして、フンっと鼻を鳴らした、鼻と口を避けるように樹液は顎に向かって伝っていた。

「だからっなんで触っちゃ駄目なんだよっ」

「引っ付いて取れなくなったら、目が見えないだけでも歩きにくいのに、余計に歩きにくいじゃないかっ」

 ガリアは、黙ったまま立ちつくした……

「そんなに落ち込まなくて大丈夫さっ川に行って流せばいい、僕が持ってる石鹸なら落ちるから、それまでは僕は手を引いてあげるよ……」

 そう言うと、シャンはガリアの手首を持ってゆっくりと歩き始めた。

 全く前が見えないため、足元が危ういガリアは、シャンの手首を強く握り返していた。

「っつ……」

 握り方が強すぎたのか、シャンが痛みに声を漏らした。

「あっすまん……ちょっと足元が見えないってのは初めてで……不安なもんだな……よかったら、肩を貸してくれた方が歩きやすいと思うんだが」

「えっ……」

 シャンは少し戸惑ったような声を出した。

「イヤならいいさっ……一人でだって歩ける……」

 ガリアがそういった途端、ガリアの脇の下に、小さな肩が入ってきた。

「いっイヤじゃないさ……ほらっ、そんな顔で、一人で歩ける訳ないだろうっ。また、何かに喰われそうになっても知らないぞ……さっ行くぞ」

 最後の言葉に、ガリアの口元がイヤそうにピクッと動いた。

 魔樹に喰われそうになったことは、当分の間、皮肉られそうだと思うガリアだった。

「この森には、変わった植物が多いんだな。歩く木に、人を喰う木、樹液を吐き出す木、他にどんな木があるのか心配になってきた。さっきのお前の言いようじゃ、まるで木に意思があるみたいだし……」

「意思はあるよ。この森の全ての生命には意思がある。心があるんだ。だから、自分たちの気に入らない人間は、この森に入る事を許さない……僕らには安全な場所だった……」

「安全な場所って……お前ら……何かに追われてるのか?」

「……多分……この旅は危険だ……止めるなら今のうちだぞっ……」

 ガリアは、シャンの肩を掴んだ手に力を込めた。

「今更、止めねーよっ」

 その言葉に、シャンが嬉しそうに微笑んだのは、目を塞がれているガリアには見えなかった。











 目を塞がれ、シャンに肩を借りて歩いてきたガリアの耳に、川のせせらぎが聞こえてきた。

「川に着いたのかっ」

「耳がいいんだな、あと少し行かないと着かない。もう少し頑張れよ……」

 自分を労ってくれるような言い方をするシャンに、ガリアは何だか安心感を抱いた。

 知り合って一日程しか経っていないが、これからの旅も、うまくやっていけそうな気がしてきていた。

 あともう少しと聞いたことで、ガリアは俄然元気が出てきていた。

 シャンの肩をグッと掴んで前に前にと歩を進める。

 その時、ふと気になったのがシャンが着ているマントだった。

 北のオーゴニア国の生まれのガリアには、此処の気候は暑すぎた。

 年間を通して暖かな気候の中で育ったシャンが、それほど暑さを感じていなかったとしてもおかしくはないが、それにしてもシャンが着ているマントは日除けの為の薄い物ではなく、厚みがあり、身体を覆うように大きい。

 着ていると暑いと思うのだが、北に向かっているのか? とも思うガリアだったが、それなら今の内は背中にでも背負えばいいのだガリアの様に……。

「なぁ、シャン、お前暑くないのか? 厚いマントなんか着てて、荷物になるなら俺が持ってやってもいいんだぞ」

 シャンの肩が、ぴくりと動いた。

「構うなっ……僕は暑くないし、あんたに荷物を持ってもらうほど柔でもないっ」

「ああっそうかよ……さっきは少しカワイイとこもあるのかと思ったのにっ喰えないガキだ」

 そう言ったとたん、ガリアのわきから小さな肩はなくなった。

「さぁ、川に着いた。あとは自分で洗うんだなっ」

 そう言って、シャンはガリアの手に石鹸を押し付けて歩き去った。

「おいっシャンっ待てよ。全然見えないんだぞ。戻って来いっ、ちょっとは手伝ってくれって!!」


 バッシャーン


 ガリアの横に戻ってきたシャンが、ガリアを川に突き飛ばした。

「くっそーやりやがったなっクソガキがっ」

 怒ったガリアは、あたり構わず川の水を撒き散らし始めた。

「あんたさっ、どっちが子供なんだよっやってる事……すっごい子供っぽいよ……あ・ん・た」

 ガリアの動きが止まった。

「あんた、あんたって何だってんだっ、俺にはガリアって名前がある。あんたなんて呼ぶんじゃねー!!」

「そう、ガリアって名前なんだ。初めて聞いた。よろしく、ガリア」

 シャンは、そう言ったままその場からいなくなった。

「くっそっ名前も聞いてないような奴に、よく一緒に旅してくれなんて言えたもんだっ」

 仕方なく、ガリアは服を着たまま、石鹸を泡立ててまずは頭から洗い始めた。









 パチパチと爆ぜる火を見ながら、ガリアはシャンを見つめていた。

 あの後、シャンは枝を集めてきて火を熾してくれていた。ずぶ濡れのガリアの服を乾かす為だろうが、その事については何も言わない。黙って、自分の腰に下げた袋から色々な乾燥させた草や、干物を出してブツブツ言いながら確認しているようだ。

 下着以外、全てを脱いで火に翳しながら、ガリアはシャンの手元を覗き込んだ。

「おい、なにしてんだ?」

「あんた……ガッガリアの肌に塗る薬を作るんだよ……キキンガの樹液は接着効果が凄いから、肌に負担をかける。接着剤として使う時には便利だけど、直接触らないように気をつけないとかぶれて酷い目にあう……」

 シャンは、視線を上げることなくぶっきらぼうに答えた。わざと自分の方を見ないようにしているのでないかと思えるほど、シャンの視線の外し方は不自然だった。

 ガリアは、溜め息をついた。

「なぁ、シャン……仲良くなってくれとは言わない。でもな、せっかく俺のために何かしてくれるんなら、目を逸らしたまま話したんじゃ、有難みも減っちまうだろう……」

「…………」

 頑なに視線を逸らしたままのシャンに、ガリアはまたしても苛立ち始めていた。

「ちゃんと、こっち向いて話せよっ」

 ガリアは、シャンの顎に手を掛け、力ずくで自分の方へ向かせた。子供っぽい態度のシャンに、大人として、ちゃんとした付き合い方を教えてやろうと思っての事だった。

 シャンの薄いブルーの瞳が、何処を見ようかと彷徨う。白い顔は真っ赤に染まり、上気していた。長い睫毛にふちどられた薄いブルーの瞳は、何故か潤んでいるように見え、浅い呼吸を繰り返す唇は小さく震えていた。

「おまっ……」

 一瞬、ガリアの茶色の瞳が、シャンの瞳を捕らえた。

「放せっ」

 シャンは力いっぱいガリアの手を叩いた。そのまま、立ち上がって少し離れた大きな岩の上に座ると、背を向けてごそごそと作業を始めてしまった。

 ガリアはと言えば、さっきの上気したシャンの表情に心臓を鷲掴みにされたような強烈な衝撃を与えられていた。

 ……ガキだ……それも、男だぞ……俺は、おかしくなったのか……

 ガリアは、自分の中の燃え上がるような激しい感情を抑える事に必死になっていた。国では、女に不自由した事はなかったし、それなりに経験もあり、恋愛もした事がある。でも、ガリアにとって、これ程激しく心を揺さぶられる想いはなかった……

 シャンの、あの顔を見た瞬間、我を忘れそうになった、抱きしめて自分のものにしたかった。

「俺は、おかしい……はやく、このおかしな魔法の森を出ないとな……そうだ、この森は変なんだよ、そのせいだ……」


 しばらく経ってから、シャンはガリアのために作った塗り薬を、顔、それに頭皮に塗ってくれたが、その他は自分で塗った。顔と頭は見えないし、塗りにくいから大人しく塗ってもらったが、他のところは丁寧に断った。さっきの自分の想いが、ガリアにはとても怖かったからかもしれない……。

「ありがとう……助かったよ、シャン……」

「いや……それよりも早く服を着ろっ……昼ご飯の時間になったじゃないか……裸じゃ行儀が悪いから……」

 そう言ったシャンの顔は、まだ赤かった。








 


 











 



 

少年シャンに抱いた激しい感情に戸惑うガリア。

魔法の森を抜ければ、間違った感情は消えるのでしょうか?

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