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ブルーストーン  作者: 海来
25/26

25話 愛されていた

シャンは青の魔石から解放されるのか……


 シャンの涙が降ってきて、傷を負っていた幼いレノの身体も、ギリルの身体も癒されていくのが、ガリアの目に映った。

「シャンの癒しの力……シャンの心は守られたのか……」

 守られたと信じたいガリアだったが、依然としてシャンの身体は青く輝いたまま、圧倒的な力を感じさせている。

「青の魔石っシャンを返してくれっ俺が守るから、シャンの心は俺が守っていくからっ、お願いだ、シャンを返してくれ!!」

 シャンが、ガリアを見つめた。

『青き剣士、青の魔法の器をとるがいい。お前の心が真実ならば、私は器に収まろう』

 ガリアは、フロウに借りてきた剣ではなく、ギリルの目の前に突き刺さった自分自身の剣を掴もうとした。

 しかし、一瞬早くギリルが剣を引き抜き、ガリアの前に立った。

「ガリア、悪いなっこれは俺が使わせてもらう。シャンの心は俺が守ってやるさっ安心しろ……お人好しのガリアっ」

「ギリルっ……何を言ってるっまだ、闇に捕らわれたままだったのか……」

 ギリルは、フンと鼻で笑った。

「確かに、闇に捕らわれて此処まで来た。俺の中の魔法は黒の魔法だと名乗った、守護者を守る魔法だとなっ! だが、そうでない事は俺が一番知ってる。誰かを守るなんてのは俺の性分じゃ無いんでな。俺は全てを掴むために、お前の全てを奪うためにこの力を使うと決めたんだ」

 ガリアは、ギリルの話を出来る限りちゃんと聞いてやりたいと思った。

 ギリルが闇に誘われそうな時、自分は気付いてやれなかったのだから、今はしっかりと聞かなければならないと思った。

「だから、闇の力を利用して、そのまま世界を自分の物にしようと考えた。でも、あの女が、お前の名前なんか呼ぶからっ切なそうな顔をしてお前の名前を呼ぶからっ欲しくなった……お前のものが欲しくなったんだよ」

 ガリアは小さく首を振りながら、それでもギリルから目を逸らさない。

「今までは……女なんてどうでも良かった、ギリルが欲しいならどんな物も取られてもいいって思ってた。お前が傍にいてくれるほうが、俺には大事だったから、でも……」

「でも? でもなんだよっ、あの女も同じじゃないか。ただ守護者だってだけで、ただの女だ。俺にくれよ、なっガリア。俺は、もう闇に捕らわれていない、その資格はあるだろう?」

 ガリアは、大きく首を振った。

「駄目だっシャンだけは渡せないっ! 俺の命に替えても、シャンの心は守って見せるっ」

 ガリアの叫びに、ギリルはぶんと剣を振った。

「だからっシャンの心を守るのは、お前じゃなくてもいいんだよっ……お前は、シャンが俺のものになるのを指を咥えてみてろっ」

 そう言って、ギリルはふわりと浮かび上がった。

 その髪の色も、瞳の色も、ガリアと同じ明るい茶色に変化する。

「ギリル……お前は、本気でシャンを愛してるのか?」

「そんなわけないだろう、お前のものだから欲しいんだっ」

 ガリアは、ギリルのその一言にフロウの剣の柄を強く握った。

 青い光とそれを取り巻く金の蔦の輝きがぐんと増す。

「それならっシャンは渡せないっ俺は……俺はシャンを愛してるっ!!!」

 ガリアの身体も、宙に浮いた。

 ガリアがギリルの目の前まで浮かび上がると、ギリルの持っているガリアの剣が銀色に輝き始めた。

「ガリアっ闘うのか? お前が、この俺と? お前にそんな事ができるのか……お前はいつだって、俺と争う事を避けてきたのにっ」

 ガリアは、キツク唇をかんだ。

 自分が本当にギリルと闘う事ができるのか、ガリア自身にも分らなかった。ギリルを傷つけるなど、今更ながら考えられなかった。

 答えに詰まるガリアを、ギリルはあざ笑うように剣を振り上げた。

「俺にはできる……お前が、ずっと目障りだった。いつも誰からも愛されるお前の存在そのものが、俺にとって邪魔だった。日だまりの様なその温かさが鬱陶しかった。お前など、いなければ良かったのにっ」

 ガリアは、今まで一番大切にしてきたギリルが、自分の事をそんなふうに思っていた事が、あまりにも衝撃だった。

「ギリル……本心なのか……」

 ギリルは、返事もせず冷やかな目でガリアを見つめた、その姿は、まるで自分自身と同じだとガリアは思った。

 髪の色と瞳の色が違うだけだと思っていた、心のなかでは同じ事を思っていると、ギリルもきっと自分を愛してくれているはずだと、思い込んでいた。

 今は、髪も瞳も同じ色であっても思っている事は全く違うというのか……ガリアの心は悲しみで痛んでいた。

 ギリルは、動く事すら出来ないくらい衝撃を受けているガリアを尻目に、シャンに近づいてその手をとろうとした。

 シャンは、ゆっくりと自分の手をギリルに差し出す。

『自分の気持ちを偽ってはいけない、偽りの心を持つものに守護者を守る事は出来ない』

 シャンの唇が、青の魔石の言葉を伝えてくる。

『守護者の心を守る者は、青き剣士に限らぬ。真実、守護者を守る心を持った者』

 青く輝いていたシャンの手が、透き通るようないつもの白い肌色に戻っていく。

 その手は、ギリルの頬にあてられた。

「ギリル……あなたは本当の気持に気付いていない……ガリアが私を愛しているのが気に入らないんでしょう……私も、さっきガリアが、私よりあなたを大切に思っていると嫉妬した……私とあなたは同じ」

「そんなわけないだろうっ俺はガリアが嫌いなんだよっ」

 シャンの身体は、手の先からどんどん元の色に戻っていく。

「いいえ、生まれる前から一緒だった……ガリアはあなたを半身だと言った。あなたも同じ思いのはず……私がガリアを愛する気持とは違うかもしれない。でも、あなたもガリアを愛している……私には、分かる……」

 ギリルが笑い始めた、身体を揺らし大声を張り上げて笑っている。

 その手から、ガリアの剣が離れた。

 剣は、迷う事無くガリアの元に飛んできた。

 ガリアは、フロウに借りた剣を鞘に収めると、自分の剣をしっかりと握り締めた。

 温かい青の魔法の力とは別に、ダルタの存在を感じて驚いて剣を見つめた。

『この剣には、ダルタの魔法だけが残っていた。久しぶりに手に取ると、青の魔法との違いがよく分かるだろう』

 青の魔法の言葉に、ガリアは大きく頷いた。

「ああっシャンを守ってくれと言ってる、ダルタの愛を感じるっ」

 そう言ってから、ガリアはギリルの腕を掴んだ。

「ギリル……俺はこれからシャンを守って生きていく。でも、お前を思う気持ちに何の変わりも無いんだっ、俺はお前がいないと俺じゃなくなる。きっと、お前がいないとシャンを守っていく力も無くなる……お前は俺の生きる力だったから」

 ギリルは、力の抜けた身体をガリアに預けるように縋りついた。

「ガリア……お前が羨ましかった……でも、それ以上に誰にもお前を取られたくなかった……いつも俺だけを見て欲しかった……」

 ガリアは、ギリルをしっかりと抱きしめたまま、自分の剣をシャンと自分の間にかざした。

「俺は、シャンを守っていく。何があっても、シャンの心は俺が守ると誓うっ」

 シャンが、ガリアの剣に手をかざした。

「私は、ガリアを愛しています……ずっと一緒にいて……私を守って欲しい……」

 シャンの言葉の後、胸の谷間から青い光がうねる様に飛び出し、ガリアの剣の柄にできた窪みへと流れ込んでいく。

 シャンの周りの輝きはなくなり、シャンは急に落ち始めた。

「シャンっ!!!」

 ガリアは、剣を持ったままシャンの腰を抱いた。

「危なかった……シャンっ大丈夫か……」

 シャンは、元に戻った薄いブルーの瞳でガリアを見つめた。

「ガリア……私……言いたい事があって……」

 ガリアは、少し微笑んでから、ゆっくりとシャンとギリルを抱えたまま地面に降り立った。

 ギリルが、ガリアの腕から逃れて、すっと後ろに離れていった。

「ギリル? どうした……」

 ギリルは、俯いたまま首を横に振った。

「なんでもない……俺は、もう出て行くから……安心しろ、もう会いに来ない……」

 そういったとたん、ギリルは素早く走り出した。

「ギリルっ!! 駄目だっ必ず俺のところに来い! オーゴニアにも戻るんだ。フロウも父上も兄上達も、皆、お前を心配してる。ギリル」

 ギリルが、ゆっくりと振り返った、その黒い瞳は濡れていた。

「俺の事を心配? フロウはもしかしたら少しは思ってくれてるのかもしない……でも、他の奴らなんて……」

 ガリアは、きっぱりと首を振った。

「お前は分かってないっ父上や兄上達が怒っているのは、お前を愛しているからだ……」

「違う……愛されていたのは、お前だけだ……俺は、いつも疎まれていた……俺が貰う愛情なんて、お前のおこぼれだった。城の厨房に行っては、お前がこっそり貰ってくるお菓子のオコボレを貰ってたのと同じだ……皆、お前には甘い……俺を見てくれたのも、愛してくれたのも、お前だけだった……」

「違うっ、厨房でお菓子を貰う時、コックはいつも言ってた、ガリア様お一人で食べてはいけませんギリル様の分と一緒にお入れしていますからねっとな……」

「馬鹿らしい……お菓子の話をしているわ、けじゃ、……」

 ギリルの涙は、瞼に留まる事が出来ずに頬を伝って落ちていった。

「俺とお前は、いつも一緒、二人で一人、皆お前を愛してた……ただ、いつも冷静なお前に、どう接したらいいか分からないと言っていた。俺は、いつもギリルの様に冷静になれと、もっと学べと怒られてた。皆……お前を誇らしいと思ってるよ、俺がお前を誇らしく思ってるようになっ」

 もうとめることの出来ないギリルの涙は、ぼたぼたと地面を濡らしていた。

「はい、お兄ちゃん……涙ふきなよ」

 レノが、いつの間にかギリルの横にいて、小さな手拭を出していた。レノは、ぴょんぴょんと飛び上がって、ギリルの頬を拭こうと頑張っている。

「お兄ちゃん、座ってよ、届かないよ」

 ギリルは、黙ってその場にしゃがんだ。

「きれいにしよーね……ほら、ほら、もうふけたよ」

 ギリルが、少し微笑んでレノを見つめている。

「ありが、と、う……」

 そう言って、ギリルは立ち上がった。

「俺は……一度、オーゴニアに戻る……皆に謝らないと……それから後の事を決めたら、お前に話しに来るよ……どうせ、このままこの城にいるんだろう……」

 ガリアは頷いた、その顔は心底安堵しているようだった。ガリアは自分の剣帯を外し、剣と一緒にガリアに向かって投げた。

「フロウに借りた剣だ。返しておいてくれ……」

 ギリルがその剣を少し抜くと、銀色の輝きが辺りを照らした。

「ああっ必ず……フロウに返しておく……じゃぁな、ガリア……」

 ギリルは、城の者達が皆で見守る中、ふわりと宙に浮かび上がると一気に速度を上げて、夜空に消えていった。ギリルがいなくなった瞬間、城の者達がシャンとガリアの元に集まり始めた。

 シャンは、慌ててガリアを見つめる。

「ガリアっ、言いたい事がっ」

 ガリアは、優しく微笑んでいる。

「後で聞くことになりそうだな……」














ギリルと和解できたガリア、これからやっとシャンとの時間を持てるはずなのに……

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