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ブルーストーン  作者: 海来
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2話 旅立ち

少年に連れられていった森の中の小さな小屋には、一人の老人が待っていた。

 少年の後を付いていくと、少し開けた土地に小さな小屋が立っているのが見えてきた。

 良く見ると、小屋の前には老人が一人、立ったままこちらを見つめていた。

「お帰り、シャン。魔樹の様子はどうだった?」

 老人は明るく笑いながら少年に話しかけた。

「だめになった……この男のせいで……」

 ガリアは、自分の方に顎をしゃくった少年を見て、ぴくりと眉を動かした。

「謝ったじゃネーかっしつこい奴だな……っで、お前さ、名前あるんじゃないか。このじーさんが、今、シャンって呼んだろう」

「ダルタが勝手に呼んでるだけだ……本当の名前じゃないっ、あんたもしつこいじゃないかっ」

 二人の言い合いを聞きながら、ダルタが笑った。

「どうして魔樹が駄目になったのか、家に入って飯でも食いながら聞こうじゃないか……シャン、腹が減ってるだろう、お客様もな」

 少年は、小さく頷くと、ガリアに手招きして家に入って行った。

「あんた、あの子のじーさんなのか?」

 ダルタは首を振った。

「いやっ、ワシの孫ではない……まっ、あの子の詮索はせんことじゃ……取り敢えず、飯を食おう……ところで、魔樹の変化した女は、美しかったかの?」

「…っ……」

 何で知ってると聞きたいところだったが、ダルタの穏やかそうな灰色の瞳の中に見えた、一瞬の強い光に何も言えなくなってしまったガリアだった。








「うまいっ、こんなに旨い魚料理は食べた事がない……この白い物は何なんだ?」

 ガリアは、魚を包んであった白い粉の塊を指さした。

 ダルタはスプーンで白い粉をとると、ガリアの口元に持って行った。

「舐めてみるといい」

 ガリアは、恐る恐るペロッと舐めてみた。

「かっらっ……ん? でも、何か甘みも……何だこれは」

「岩塩じゃよ。塩っ辛いだけじゃない、ほんのりと甘みがあるんじゃ。それに魚を包み込んで釜で蒸し焼きにする、今朝そこの川で獲れたばかりの魚だから、格別に旨かろうて。それに、旅の途中の出来立ての食べ物は、何よりのご馳走じゃからな」

「ああっ旨いっ、でも、こっちのスープは、少し妙な香りがするな……変なもん入れてるんじゃないだろうなっ」

 ダルタは平然としていたが、少年は嫌な顔になった。

「ダルタは、あんたが長旅と森で迷って疲れてると思ったんだっ。疲れを取って、よく眠れるように薬草入りのスープにしてくれたんだぞっそれをっ」

「まァ、いいじゃないかシャンっ。彼は何も知らんのだから、勘弁してやろうじゃないか」

 ダルタのとりなしに、少年は仕方ないといった様子でガリアから目を逸らした。

 ガリアは、ダルタにぺこりと頭を下げた。

「本当に、俺、何も分からなくて失礼なこと言って……申し訳ない……」

 ダルタは、じっとガリアを見つめてから首を振った。

「構わんさ、ワシはあんたのような真っ直ぐな若者は好ましいと思うがな……、なァ、シャン?」

 ダルタの言葉に、少年は答えることなく立ち上がった。

「ご馳走様でした」

 そのまま、食器を持って台所に行き片付け始めた少年を、ダルタは黙って見守っていた。

「さっ、ワシらもさっさと終わらせて、寝床の用意でもせんとな」

 今夜は、この家に泊めてもらう事になっていた。

 明日の朝、魔法の森の外れまで送ってもらえるらしい。

 ガリアは、慌てて残っている食事を平らげ始めた。

 薬草入りのスープも、残さず全て飲み干した。

 食事の片付けが終わると、小さな小屋の中に、ガリアの為に簡単なベットが作られた。

 ガリアは、出来上がると同時に、その上に寝そべって寝息を立て始めた。

 少年が、ガリアの顔を上から覗き込んでも、額を音がするほど叩いても、起きる事はなかった。

「人を疑うって事が無いのか……」

 そう言った少年の横で、ダルタは微笑んでいた。

「シャン様のように、誰でも疑っていたのでは、それも悲しゅうございますな……」

 少年は、ダルタを振り返って睨んだ。

「疑わざる得ない事が起こっている。誰を信用して、誰を疑うか、そんな賭けはできない……まずは、疑ってみないと……悲しいなどと言ってはいられない」

 ダルタは、少年の足元に跪いた。

「シャン様、この男、信じてみてはいかがですか? この者の瞳には、人を欺く影はございませんぞ……今回の旅に、シャン様をお一人で行かせるのは危険かと思います。私も付いては参れませんし……」

 少年は、ダルタとガリアを交互に見てから、大きな溜め息を付いた。

「けれど、あまり頭が良いとは思えんし、剣の腕すら分からん……どう信じろというのだっ」

「この者の、気でございます……純粋な青い気が見えます。きっと、シャン様のお力になってくれましょう、この魔術師の長の言葉も、信じられませぬか?」

 少年は、小さく首を振ってから微笑んだ。

「ダルタの言葉は、いつでも信じてる。幼い頃から助けて貰った。ここにダルタが追いやられてから、どんなに心細かったか……」

 ダルタは、少年の右手首を力強く握った。

「では、このダルタの言葉を信じて、この男と旅に出るのです。今は、それしか方法がございますまい……私がお傍にいられない分、これをシャン様に……」

 ダルタが少年の腕を離すと、その手首には金の太い輪がはまっていた。

「これは何?」

「まだ癒しの魔術しかお使いにはなれないはず、この輪をはめていれば、身を守る事は出来ます……守って欲しいと願うだけで、この輪が敵の攻撃からシャン様をお守りいたします」

 そう言って、ダルタはその輪の上から、細い皮帯をクルクルと巻いて輪を隠してしまった。

「決して、誰にも見つからないように……これには大変な秘密も隠されておりますゆえ……」

 少年は、不思議そうに自分の腕に巻かれた革帯を見つめた。

「大変な秘密とは、何だっ」

 ダルタは、目を細めて少年を見つめた。

「それは、シャン様であってもお伝えできません。いずれ、自らがその答えを得られるでしょう……」

「…………」









「なんでだよっ」

 ガリアは、はっきり言って怒っていた。

「なんでっ俺がこんな奴と一緒に旅しなきゃならないっ。俺には大切な用事がある。国王にアクアリスからの返事を持って帰らないといけないんだよっ。そんなに暇じゃないっ」

 怒り狂っているガリアの目の前には、落ち着き払ったダルタと少年が立っていた。

 朝食も済ませ、さあ出発と言う時になって、少年の旅に同行してくれと頼まれたのだ。

「あのさっ昨日、魔樹に喰われてたら、王様に返事を持って帰るなんて出来なかっただろう。昨日のお礼だと思えばいいじゃないかっ、きっと王様も分かってくれるよ」

「そうじゃなっ、シャン一人では旅は心許無い、あんたが付いていってくれたら助かるのォ」

 ガリアは、テーブルをバンと力いっぱい叩いた。

「なんでっこうなっちまったかなァ……」

 ガリアはうな垂れながら、昨日、森で見た魔樹が変化した美女を思い出した。

 あんなものに惑わされるから、こんな事になったんだと、一人心の中でぼやいたガリアだった。

「さァ、行くぞっ用意は出来てる」

 少年が、ドアに向かって歩き始めた。

 ダルタが後についていく。

「じゃぁ……ダルタ……行って来る……」

 ダルタが深く腰を折った。

「……幸運を……」

 その光景を、ガリアは不思議な気持で見つめていた。

 二人の姿は、出掛けていく主と、それをを送り出す執事か何かの様に見えたからだ。

「何なんだ、あいつ等……まぁ、しかたねーなっちょっと遠回りするしかないかっ」

 ガリアも、重い腰を上げた。

 ダルタがドアの前から、身体をずらした。

「シャンを頼みましたぞっ……」

 そう言って、ダルタはガリアの剣に、そっと触れた。

 ガリアは、素早く剣の柄に手を添えた。

「触るなっ、人の剣に気軽に触るものじゃないっ知らないのか」

 ガリアは鋭く言って、ダルタを睨みつけた。

「申し訳ないっ、だが、剣の補強をさせていただきました……守りと速さ、鋭さが増しましたよ。きっとお気に召すでしょう……」

 そう微笑んだダルタの瞳は、穏やかな普通の老人と言うには相応しくない品格と厳しさがあった。

 自分の剣を見下ろすと、ガリアは今までなかったものを見つけた。

 剣の柄には、蔦が絡まるように細い銀の筋が入っていた。

 触れている皮膚から、ほんの少し熱を感じた。

「何なんだ……あんた達……、あんたも魔法使いか?」

 ガリアの質問には答える気などない様に、ダルタは歩いていく少年の後姿をじっと見つめていた。

 ガリアは、自分がもしかするととんでもなく厄介な事に巻き込まれたのかもしれないと思い始めていたが、生まれ持ったお人よしな性格は、この状況から逃げ出す事を良しとはしなかった。

「仕方ないっ行くかっ」

 ガリアは、少年の後を追って走り始めた。

























 





少年と旅に出る事になったガリア。

何が何だかわからないまま、少年の秘密の渦の中に巻き込まれそうですが……

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