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ブルーストーン  作者: 海来
18/26

18話 戦いの後

ガリアは、洞窟の中で目覚めたが、そこにはシャンの姿はなかった。

 ガリアは、硬い地面に横になり、片頬を地面に密着させるような格好のまま目覚めた。体中が硬くなったように寝心地が悪い。ふと、自分の脇腹の辺りの重みに気付いた、見るとやはりそこには剣が突き刺さったままだった。青く輝き、いつもの高音を発したままだった。

 身体をゆっくりと起こし、一気に剣を引き抜いた。抜いた痕を見たが、前に肩に刺さっていた剣を抜いた時と同じ様にケロイド状に引きつっているものの、古い傷の様に痛みもなく表面は滑らかだった。

「何回やっても慣れないけどな……」

 そう言うと、ガリアは自分の周りを見回した、シャンの姿を探しているのだ。

「シャン……何処にいる……」

「お兄ちゃんなら、いないよ。迎えが来るまでここで待っててって言ってたよ……」

 ガリアの直ぐ後ろから、声が聞こえ、ガリアは慌てて振り返った。そこには、シャンのマントを身体に巻いた幼い男の子が座っていた。

「お前、誰だ……なんでこんな所に……」

 男の子は、キョトンとしながら首を傾げた。

「分からないんだ……僕ね、分からないんだ、何にも……」

 そう言って、男の子はガリアの剣に手を伸ばそうとした。子供に剣など触らせては危険かと、ガリアはさっと後ろに引いた。

「触っちゃ駄目だ。これは危ない、手が切れちまうぞ……いい子にしてろ、迎えが来るんだろう?」

 剣を鞘に収め、ガリアが男の子の薄い栗色の髪をくちゃくちゃと混ぜると、男の子は嬉しそうにキャッキャと笑った。

「うん、いい子にしてるっ」

『その子は、闇の魔術師ジードに身体を奪われてから、何十年もの間、そのままジードの中に取り込まれていたのだ。ジードは闇に帰ったが、この子の記憶は既になくなってる』

 青の魔法が男の子が何者かを、教えてくれた。ガリアは、目の前の幼子が哀れに思えて、目頭が熱くなってきた。

「こんな幼い子の身体を奪うなど……闇とは何だ……闇の魔術師とは何者だったんだっ」

『闇とは、争い、混乱、狂気、血を好む者の住む世界。闇は人の世界に入り込み、その負の感情を狙っている。いつもこの世界に入り込もうと隙を狙う。黒の魔術師とは、闇がこの世界を狙うための道具に過ぎん。それを防ぐのは、アクアリスの守護者のみ……』

「シャンは何処にいった……」

『シャンは失われた。その願いを叶えし時、シャンはシャンでなくなる、失われたのだ……』

 ガリアは、それ以上聞きたくなかった。淡々と語られる声が、気に入らなかった。シャンを守り慈しんできたであろうダルタの声で、シャンが失われたなどと、平気で言って欲しくなかった。

 そんなはずはないと、ガリアは思った。この目で、シャンの無事な姿を見たではないか。そのシャンが失われたはずがない、そう信じていた。

 その時、洞窟の入り口で音がした。誰かが、洞窟に入ってくるのが見える、日の光を背に受けて顔は分からないが、男性のようだ。

「オーゴニア国のガリア王子はこちらにおられるかっ」

 ガリアは、いきなり自分の国と名前、それに王子と呼ばれ、一瞬まごついてしまった。

「はっはいっ、此処におります。あなたは?」

 近付いてきた男は、ガリアの目の前に跪いて頭を下げた。

「アクアリス国の近衛隊長クラーツと申します。いちど、オーゴニアの王よりの書状をお持ちの際、お顔を拝見させていただいております。あなた様には、覚えはございませんでしょうが……お迎えに上がりました」

 丁寧に話すクラーツは、西の谷で出会った偽者のクラーツとは幾分印象が異なった。柔らかいが、凛とした印象を与える理知的な瞳をしている。揺ぎない強さと、深い優しさを感じさせる笑みを浮かべていた。この男が……シャンが愛した男……俺とじゃ、天と地の差か……ガリアは、思わず笑い出したくなった。

 シャンが、自分の愛した男に迎えに来させた事が、たまらなく切なく、悔しいほどに虚しかった。

 もう、お前はいらないと言われた気がした……。

「シャンは城にいるのか?」

 クラーツが僅かに身じろいだ。

「シャン様は、もういらっしゃらない……、我が城には、守護者がいらっしゃるのみ……」

 クラーツの言葉に、ガリアはがばっと立ち上がった。

「守護者だと、シャンはシャンじゃないか! あんた、シャンのあんたへの気持を知ってるんだろう、どうしてそんな事言えるんだ。シャンが可哀想だろうがっ!」

 クラーツは、顔を上げず少しだけ首を振った。

「私には、何のことか分かりません。守護者は守護者です。他の者ではございません」

 ガリアは、クラーツなど放っておいて、城に行こうと決めた。城に行って、シャンに会って……自分を捨てるなと言ってやろうと思った。

 シャンは、シャンなのだから……失われたりしない……

「お待ちくださいっガリア様っ。一つだけ……今日より30日後、武道大会が開催されます。その大会の勝者が守護者の夫となるのです。オーゴニアからは、第3王子クリス様が名を連ねておられます」

「クリス兄上が?」

「はい、あなたがお持ちになった書状に書かれていたお名前は、クリス様でした。確かにお受けしたとの返事を、あなたがお持ちになったはず」

「…………」

 確かに、グロウの背にくくり付けた荷物の中に入っている、そこにそんな事が書かれていたとは……ガリアは、あまりのショックに動けなくなっていた。自分には、その武道大会に出る資格すらないと言うのか……ガリアの気持は沈んでいった。


 シャンが、誰かと結ばれる……それが、シャンの愛した男なら諦めも付く……


 でも、強ければ、腕がたてばそれでいいのか? 


 シャンは、誰かに守って欲しいだけなのか?


 俺でなくても良かった……初めから、シャンの気持など分かっていたじゃないか……


 クラーツが、ガリアの横に立っていた、傍に幼い男の子を連れ手を引いている。

「ガリア様、今から戻られれば、オーゴニアとアクアリスを往復できますよ……」

 何故この男はこんな事を言っている? とガリアは不思議に思った。オーゴニアに帰ってアクアリスに戻ってくる……武道大会の日までに……。何故? ガリアの心と頭の中は、急回転で考えをまとめようとしていた。

 

 もしも、クリス兄上が優勝してシャンの夫になったら、俺はシャンを姉上と呼ぶのか?


 シャンが、どこの誰とも知らない男と結ばれて、俺は納得できるのか?


 シャンが俺を愛していなくても、他の奴より俺のほうがいいに決まってる、だって俺は、シャンを愛してるからっ


 他の奴らなんか、どうせシャンの地位目当てだっ、そんな奴が夫になれば、シャンは幸せになれない。


 シャンと結ばれるのは、俺だっ


 あくまでも自分本位の考えだが、ガリアはシャンを想っていた。この世で一番、自分がシャンを愛していると自信があった。答えが見つかったガリアは、クラーツに向かって微笑んだ。

「戻ってくるっ、出場者の変更届けを持ってなっ!!」

 クラーツが微笑みながら頷いた。

「はい、お待ちしています。私が大会の受付窓口を取り仕切っておりますから」

 ガリアは、直ぐにでも洞窟を出ようとしたが、もう一度振り返った。

「あんたを此処に来させたのは、シャンなんだろう……」

「いいえ、守護者は誰かを洞窟へと、オーゴニアの第5王子が幼子と共に眠っているからと、城に連れて来て丁重にもてなせと。ただ、大切な人だからと……聞き取れないほど小さな声でおっしゃいましたので、私が参りました。大切な事を伝えなければと思ったもので……」

「そうか、大切な事を教えにきてくれたのか……俺にその資格があるのかな……」

 クラーツは、やさしい顔で頷いていた。

「あの方が、あのような切ない顔をされるのは初めてです。何かを諦めて、それでも追い求めている……勝気な方なのに……」

「俺は、今、シャンに会えるか?」

「いえ、幼子は自分のところに連れてくるようにとおっしゃいましたが、他の者は一切近付かせない様にとおっしゃいました。オーゴニアの王子であってもと……」

 立場を利用しようとしても、シャンには会えない、ならば、直ぐにでもオーゴニアに帰るしかないと、ガリアは決めた。

「シャンは、淋しくはないのか? 誰か近くにいてやってるのか?」

「いいえ、誰も近付く事は許されていません……今は……まだ」

 ガリアは、幼い男の子の前に跪くと、頭に手を乗せた。

「おいっ、お前に頼みがある。さっきのお兄ちゃんは、本当はお姉ちゃんだ。泣き虫で淋しがり屋のな……だから、ずっと傍にいて優しくしてやってくれっ頼むぞっ」

 幼い男の子は、大きく微笑むと、ガリアの腕を掴んだ。

「うんっ優しくするっずっと一緒にいるよっ」

「ああっ」

 ガリアは、幼子の頭から手を放すと、腰から剣を外しクラーツに渡した。

「これを守護者に、守護者を守る剣だ。俺の替わりにシャンを守るだろう」

 クラーツは、思いもよらない事に、剣をじっと見つめていた。ガリアに剣を返そうとした時には、ガリアの姿は洞窟から消えていた。

 クラーツは、そっと剣を抜いてみた。柄の模様は凝っているが、自分の持つ剣ともあまり代わり映えのしない、普通の剣だった。

 男の子が、不思議そうに剣を見つめた。

「さっきは、すっごく光ってたのに……青くて綺麗な光だったんだよ。キーンってうるさかったけどね」

 男の子の言葉に、クラーツは剣を慌てて鞘に収めて溜め息を付いた。

「早く守護者に渡さねばっ」










オーゴニアに帰るため、洞窟を出たガリア。

ガリアの剣が普通の剣ではないことを、幼子に聞いたクラーツは、シャンの元に早くと心が急いた。


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