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ブルーストーン  作者: 海来
16/26

16話 洞窟へ

ガリアはアクアリス城の近くまで戻っていた。

シャンは、洞窟に捕らえられているらしい、闇の生き物の中にいるシャンを案じるガリア。

 青い海が目の前に何処までも続いていた。白い波が岸壁に打ち付けては帰っていく様を、ガリアは美しいと思った。岸壁に沿うように白く高い石壁が廻らされ、その中に石壁よりも白い城が見える。

「アクアリス城……ついこの間訪れたばかり……グロウ、本当にここにシャンがいるのか?」

 ブルルルルッと唸りながら、グロウは首を縦に振る。

 ガリアは、グロウから下りると城を目を細めるように見つめた。

「ここが、シャンの生まれた城……そして、幽閉された城。今も捕らえられているのかっ……」

 グロウは、ガリアの背中に鼻面をコツンと当ててから、ゆっくりと歩き始めた。さっき、ガリアに水を与えられていたグロウは、歩きながら良質の草を探して食んでいるようだった。立ち止まる事はない、まるで先を急いでいるかのようだが、食事は抜けないらしい。

「シャンは、きっと飯も食ってないだろうなぁ……」

 ガリアの言葉に、グロウは恨めしそうに後ろを振り返った。

「うそだ、うそっ、此処までほとんど走りっぱなしみたいなもんだったからな……飯ぐらい食っていいって……」

 それを聞いて、グロウは慌てたように止まると、必死になって草を食みだした。

「慌てて食って、変なもん食うなよっ腹下すぞ」

 グロウは、首を上げてブルッと振ると、また歩き始めた。城を大きく迂回して裏手の回ろうとしているらしかった。

「城の裏手に洞窟があるって言ってたな……でも、そこは闇の生き物が閉じ込められてるんじゃないのか。急がないとグロウっ! 行くぞっ!!」、

 ガリアが背中にまたがると同時に、グロウは素早く走り出した。グロウの背に乗りながら、闇の生き物の中で捕らわれているシャンを案じた。まさか、そんな危険な場所にいるとは……もっと早く助けに来れたら良かったのにと後悔しているガリアだった。しかし、グロウも走りっぱなしでは潰れてしまう、グロウをそんな目に遭わせられないという思いもあったが、グロウが潰れたら、シャンを救いに行く時間はもっと遅れる。

 その思いの狭間で、ガリアは最短でここにやってきたのは間違いなかったが、本人にすれば、もっと早く、もっと早くと言う思いで一杯だった。それに答えるように、グロウは手綱を引かれなくても、速度を上げていった。










 しばらくの間、シャンと闇の魔術師ジードは睨みあったまま時を過ごしていたが、その緊張感を破ったのはジードだった。ジードは、足を組んでその上に肘を置き、指先で顎をさすりながら小首をかしげ楽しそうに話しかけてきた。

「シャン姫、ブルーストーンは何処にあるのですか? あなたが持ってでた事は分かっていますよ。今のうちに渡してくれれば、辛い思いはさせない、苦しみも与えない」

 シャンは、自分を守る銀の壁の中で少し身体が回復してきたように感じていたが、逃げる事ができるとすれば、その力は少しでも取っておきたかったし、目の前のジードにそれを知られるのは得策ではないと考えていた。だるそうに首を振るだけで、答えるのは止めにした……と言っても、自分も何も知らないのだから、答えようも無いのだが。

「シャン姫、あなたが答えたく無いのなら構わない。私は城に入り込んで長い年月の間に多くの事を調べた。特にダルタを追い出してからは、城の中の人間は、全て私の言いなりだったから調べ物ははかどったのですよ、皆が手伝ってくれる。秘蔵の石盤にまで手を伸ばす事が出来た」

 シャンは、秘蔵の石盤の存在自体知らなかったし、何が書いてあるのかも、勿論知っている筈もなかった。

「青い魔石ブルーストーンはアクアリスの守護者の物であり、守護者のみが願いを叶える事が出来る。ただし、『誕生より3年のときを過ぎ、己の心を見つけし時、守り人より戻されん』と石盤には書かれていた」

 だからかっとシャンは納得していた。アクアリスの守護者を殺してしまえば早いのに、自分を生かしておく理由は何なのだろうと考えていた。守護者にしか願いを叶えられないのであれば、ジードの願いはシャンが願ってやらねば叶わない。シャンは、自分がそんな事をするとでも思っているのかと、ジードを睨みつけた、侮辱されている気がしならない、アクアリス城の中で疎んじられていたとしても、自分はアクアリスの守護者であるなら、決してジードの願いなど叶えてやるわけにはいかないのだっと固く誓った。どんなに恐ろしい目に遭わされたとしてもと、シャンは拳をキツク握った。

「シャン姫、あなたは3歳から自分が周りから遠ざけられたと感じているのでしょう。疎んじられている、妹のティナ姫しか愛されていないと信じていた」

 ジードは、さも可笑しそうにクククっと笑った。

「それもそのはず、3歳を過ぎたアクアリスの姫は、その母が亡くなったとあれば守護者としての扱いを受けねばならない。王であれ、簡単には近寄れない存在とみなされる。そのお前を守り、その力を預かり守っていたのがダルタだ」

 ダルタの名を口にしたときのジードの顔は、嫌なものでも噛んだように歪んだいた。きっと、器だと言っていたダルタの存在をはっきりと把握できなかった事が悔しいのだろうとシャンは思った。そして、自分が愛されていなかったのではないと、この憎いジードの言葉であっても、それが分かった事が嬉しかった。心の中で、いつも閉ざしていた家族への想いが溢れだし、シャンの胸に温かいものが染み込んでくる。そして最後に、何故かガリアの笑顔を思い出していた、自分を好きだと言ってくれたガリアの顔を……。

「さぁ、今度は別の質問をしましょうか……青い魔石ブルーストーンに何を願うのですか? たった一つ、何を?」

 シャンは、ジードの質問に、またもやガリアを思い出した。

『シャンっ、お前は青い魔石に、何を願うんだっ……』

 僕は男にしてくれと願うと言った……

『お前は……それでいいのか……自分の気持ちを捨てて良いのかっ』

 僕が自分を捨てて、二人が幸せになるなら……本当に? それで良いのかな……

『俺なら……お前が愛した男が……俺ならよかったのに……』

 ガリア……もう、ガリアが好きだよ……今更気付いても遅いけど……きっとガリアは、僕がクラーツを選んだと思ってる……傷ついてる……でも、あの時、迎えに来てくれたのが本物のクラーツだったなら? 答えは同じだっただろうか……、偽者だと気付いたから、ガリアに頼ったのではなかったのか?

 自分自身の気持に、シャンは疑問を感じた。ジードの質問に対する答えは、シャン自身にとっての答えだった。ゆっくりと、クラーツとの記憶を辿り、この数日間のガリアとの記憶を辿る。胸を締め付けるようだったクラーツへの想いは、心の奥底にある遠い記憶……チクリと胸を刺す痛みは、綺麗なまま終わった初恋に対する少女の感傷。

 ほんの短い間だったのに、ガリアを思い出すと、今も心臓がドキドキする。


 ガリアの大きな笑い声が好きだ。


 ガリアの大きな背中が好きだ。


 ガリアの少し間の抜けたところが好きだ。


 ガリアの優しい声が、優しい心が好きだ。


 ガリアの抱きしめてくれる温かい腕が好きだ。

 

 ガリアの口づけは、胸を焦がす……


 ガリア……大好き……でももう、僕を追いかけてきて助けてはくれない……


 僕は、伝えられなかった、自分の気持ちを……一緒にいたいと、一緒にいて欲しいと伝えられなかった……


 ガリアっガリアっガリアっ


 シャンは心の中で、胸が張り裂けんばかりに叫んでいた。

 涙が、一筋シャンの瞳から流れた……


 青い魔石に願う事が出来るとすれば、青い魔石を手に入れられたなら……

 

 願う事はたった一つ……ガリアに会いたいっ愛しているっ……

  





 シャンが何も答えようとせず、黙っているかと思えば、苦しげな表情になり、いきなり涙を零した事に、ジードは舌打ちした。

「なんと弱いものだ人と言うのは、何を嘆く……今この時に、囚われの身を嘆くのかっ愚かしい……」

 ジードが最後まで言い終わらないうちに、シャンの金の腕輪が輝きを増した。その瞬間、洞窟の入り口から何か小さな物が飛び込んできた。透明な中に金の輝き、黒の中に銀の輝きの二つの石は、自転している金の輝きの周りを銀の輝きがくるくると回っていた。石はシャンの銀の壁に反応するように壁の周りを回った後、すっと中に入ってしまった。一気に銀の壁の中が、輝き始め中の様子をうかがう事が出来なくなった。

「っち、何が起きてるっ!! あの石は何だっ」

 飛び込んできた石は、それぞれシャンの金の腕輪に嵌まった。周りでは金と銀の輝きが溢れ、それはシャンの身体を浮かび上がらせた。

『私は青い魔石ブルーストーン、守護者の願いを叶えましょう』

 シャンの頭の中に、声が響いたその時、シャンの胸の谷間に青い輝きが浮かび上がった。

 シャンは目を見開き、自分の服をそっと開いた。

「青い魔石?……ブルーストーン」

 シャンの胸の谷間に、紛れもなく青い魔石が嵌まっていた。










 ガリアは、城の裏手にある洞窟の前まで辿り着いていた。目の前に広がる低い岸壁は、何故かその辺りだけ水の色が違っている。まるで血を流し込んだかのように赤黒く、腐敗臭のする海水。前に、シャンは洞窟の前には聖水にちかいアクアリスの海水を魔術で集めた結界が張られていると言っていた筈だが、此処の海水は聖水と言うには禍々し過ぎる。

 ガリアは、そっとブーツの底を海水に浸してみた。ブーツの底はジュッと音をさせて溶けた、ブーツの底が分厚く出来ていなければ、足まで溶けていただろうと思うと、ガリアはぞっとして足を引っ込めた。

「グロウ、お前は此処から戻るんだ。闇の生き物が飛び出してきたら、お前が此処にいると、助けてやれないかもしれない……城の方へ戻ってろっ早く……」

 グロウは、反抗する仕草もなく素直に身体を反転させて戻って行った。その後姿を確認していると、グロウの方から金と銀の石が飛んでくるのが見えた。二つの石はガリアの目の前で止まると、ゆっくりと下りてきた。ガリアは思わず手を出していた。

 手に乗った石を見ると、透明の中に金の輝き、黒の中に銀の輝きがあった。

「これは、グロウの耳に嵌まってたやつか?……」

 そう言いながら、ガリアは石を握った。洞窟に入るべく、ガリアは岸壁の岩を登り始めた。この禍々しい海水に入らずに洞窟の入り口に辿り着くには、岩を登り入り口の前に飛び降りなければならない。高い、岩壁を見上げながら必ず成功させようと気持が高ぶってくるガリアだった。

 その時、金と銀の石が、ガリアの手の中で震えた、瞬間にピュッと手をすり抜けて洞窟の入り口を入っていった。二つの石が通った後、その下の海水は美しく清らかな色と匂いを発していた。ガリアは、思い切ってその海水に飛び込み洞窟の入り口を目指す、それが一番速いのは間違いない。

 清らかな水は、ガリアの身体を溶かすことなく、癒してくれている気がした。

「シャンっ、待ってろっ直ぐに行くっ」








やっと洞窟に辿り着いたガリア、シャンを助け出す事ができるのか。

シャンの願いは叶うのか

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