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ブルーストーン  作者: 海来
14/26

14話 西の谷の妖精

シャンを助ける事ができるのか。

空高く舞う竜は、ガリアには届かない。

 ガリアの周りのダークピューマが詰め寄ってくる。

 ガリアは剣を握る手に力を込める。

『青の魔法。今この時に俺に力を貸せっ! ダークピューマをなぎ払え!!』

 ガリアは心のなかで叫ぶと、剣を大きく振り回した。まぶしすぎるほどの青い光が剣から流れだし、ダークピューマをなぎ払っていく、半数以上が身体を半分に引き裂かれるようにして息絶えた。

 その時、遠くにいたはずのグロウが、ガリアの元に駆け込んできた。

「グロウ!」

 ガリアは即座にグロウに飛び乗り、ダークピューマの隙間を駆け抜けた。空の上から竜に乗った闇の魔術師が、掌を広げるのがガリアの目に映った。

「同じ手は喰わないっ」

 飛んできた光の矢を、剣を一振りして弾き飛ばした。その時、ガリアを乗せたまま走っていたグロウの身体が宙に浮き始めた。グロウの身体を包んでいるキラキラと輝く日の光の先に、シャンの姿があった。

「風の精霊か。グロウ、竜に近づけるか?」

 ガリアは、グロウの首を撫でながらそっと聞いた。グロウはそれに答えるように、大きくいなないた。

「行けえっ!」

 その掛け声と共に、一気に竜との距離を詰めると、ガリアは自分の剣を竜の首めがけて振り切った。

 青い光が駆け抜け竜の喉元に届く。大きな咆哮と共に、竜の首から鮮血が飛び散り身体はバランスを崩し地面めがけて落下し始めた。

「シャーンっ!!!」

 風の精霊が付いている、シャンは大丈夫だと思っていたが、落ちていく様をみて不安になるガリアだった。すーっと風が柔らかく吹いたと思った瞬間、ガリアとグロウも地面に下り始めていた。竜は既に地面に落下し、辺りに土埃を上げていた。しっかりと地面に下りる前に、ガリアはグロウから飛び下りると、竜の方に向かって走っていた。

「シャンっ、シャン……何処だっ!! 答えろシャンっ」

 もうもうと立ち込めていた土埃がおさまると、巨大な竜の死骸が横たわっていた。注意深く辺りを見回したが、ダークピューマの気配はなく、竜の死骸の周りにも闇の魔術師はおろかシャンの姿もなかった。

「何処に行ったんだ……連れ去られたのか……」

 ガリアは、己の剣を地面に突き刺すと、その柄に凭れかかった。

「シャンを守れないなら、お前の魔法なんて何の意味もない……シャンを守れないなら……俺は生きる意味がないっ」

 ガリアは、大きなため息をついた。ガリアに近寄ってきたグロウは、ガリアの背中に鼻面をつけて、まるで慰めてでもいるようにそっと押し続けた。

「シャン……絶対探し出すっ」

 そう言って真っ直ぐに前を向いたガリアの瞳は、熱く燃えていた。








 ガリアは立ち上がり、グロウの状態を確かめた。

「怪我はないようだなっ疲れてないか? 少し水をやろうな……今から、お前にも無理をさせるかもしれない、でも俺はシャンを守りたいんだ。絶対に探してやらないとな」

 グロウは、ヒンっと短く鳴いてガリアの顔を舐めた。

「ありがとう、グロウ」

 グロウに水を飲ませていると、辺りの景色が少しずつ変化していることにガリアは気付いた。辺りにいくつも建っていた塔は、その姿を消している。周りにできた斜面には美しい木々が生え始め、中央にできた湖に、小さな島が浮かんでいた。

「何だ? 何が起こってる……」

 ガリアは、自分の目の前で起こっている変化に驚愕しながら、またも闇の魔術師の仕業ではないかと、鋭く目を光らせた。すると、ガリアの横にいたグロウが、湖に向かって歩き出した。まるで、そこに向かう事が楽しいとでも言うように、グロウの足取りは軽い。

「グロウっ何処に行くんだ! 待て、こらっグロウっ」

 慌てたガリアも後を追った。湖の岸辺に立つと、細長い船の舳先がガリアの太腿にコツンと当たる。グロウが、ガリアの尻を鼻面で押して、舟に乗れと言っているようだ。

「これに乗れって言うのか。お前な、何もわかって無いだろうがっ」

 ガリアの言葉に、グロウはふんっと大きく鼻を鳴らし、盛大に鼻水を飛ばした後、しきりに尻を押し続ける。

「分かった、乗ればいいんだろ、乗ればっ」

 グロウの執拗さに観念したようにガリアは舟に乗った。ガリアが乗ったのを確認したかのように、船はゆっくりと進み始め島を目指した。

「あそこに行くのか……グロウは何だって、俺に行かせたがったんだろう?……」

 答えを探そうと、目を凝らしていると、島に細長い塔が建っているのが見えてきた。岸に着くと、ガリアは何故か迷うことなく、その塔に向かって歩いていた。自分が何故そこへと向かっているのかも分かってはいなかった。塔の入り口らしい薄いベールのような掛け布をめくって中に入った。

 中は薄暗く、ヒンヤリとしている。

「誰かいるのか……」

 ガリアは、小さな声で聞いてみた……何故か神聖な場所に来たような気がして、大きな声がはばかられた。

『その様に、小さな声でなくとも良いのですよ、青き剣士』

 いきなり、鈴の鳴るような声が聞こえてきた。声のしたほうを見たガリアは、そこに薄明かりの中、岩をくり抜いた様な椅子に腰掛けた女性を見つけた。

 肌はぬける様に白く、大きな瞳は金色に輝いている、耳が異様に大きく尖っていた。

『ようこそ我が家へ、青き剣士。名を隠す者は、奪われてしまいましたね。此処へは、あの子も来るはずだったのに……どうします? 青い魔石について、あなただけに教えましょうか? 私はそれでも構わないのですよ』

 そこまで聞いて、ガリアは目の前に座る女性が、西の谷の妖精なのだと気付いた。

「あんたが西に谷の妖精? なのか」

 妖精は、ころころと鈴が鳴るように笑った。

『妖精……、そう言われる事もある……でも、西の谷の魔女と呼ぶ者もいますよ。どちらで呼ぶかは、その者次第……私は魔女と呼ばれることの方が、好ましいように思っているのですよ』

 妖精は、自分の横にある岩の上から杯を持ち上げ、ガリアに向かって差し出した。

『一杯どうです。疲れがとれますよ、話をするのもお酒があると楽しいもの……さあ、どうぞ』

 そう言って、またコロコロと笑った。ガリアは、なんだか腹立たしくなってきていた。大事な事を聞いたら、早く此処を出たかった、イライラしてくる。

『青き剣士は、どうやら気が短いとみえますな……そんなに、怖い顔をせずともよいでしょうに……』

 ガリアは、拳をぐっと握った。直ぐにでもシャンを助けるために出発したいのに、目の前の妖精は、ガリアとのやり取りを楽しんでいるかのように、笑い続けている。

「俺は早く出発したい。シャンを追って行く」

 笑うのを止めた妖精が、金色の瞳で瞬きもせずにガリアを見つめた。

『何のために? お前が守ってやらなくても、あの子は大丈夫。精霊の加護受けているのですよ。お前よりも、あの子の方が強い力を持っている……お前など、出る幕はないのではないか?』

 妖精の言葉は、ガリアの胸に鋭く突き刺さる……これまでの旅でも、危険を回避できたのは、いつでもシャンの金の腕輪、精霊達の力によってだった、決してガリアが守ってきたのではない事は、言われなくても分かっていた。でも、シャンは自分に守って欲しいと言った、一緒にいてくれと言った、その時の事を思い出す。その時のシャンの顔が、鮮やかに甦る。

「俺の力なんて、シャンに比べれば無いに等しい……でも、俺はシャンだから、他の誰でもないシャンだから、シャンの心が守りたいんだっ」

『シャンの心……?』

 妖精は、不思議そうに小首を傾げた。ガリアは、一旦呼吸を整えるように息を吐き出した。

「そうだ、シャンが悲しまないように、苦しまないように、シャンを守りたい。それが俺の……俺の力だ!」

 ガリアの息は、知らずに上がっていた。一気に自分の想いを全て吐き出した。シャンに聞いてもらえなくても、伝えられなくても、そんな事はどうでもよかった。ただ、ひたすらにシャンの笑顔が見たいだけだった。いつも何かに追われ恐怖し、いつも何かを考え悲しそうな顔をするシャン……いつも笑っていて欲しい、今のガリアには、それだけが願いだった。

 ガリアを凝視していた妖精が、またコロコロと笑った。

『青き剣士……お前に、青い魔石の器をやろう……』

 ガリアは、妖精の言葉の意味も真意も分からず、目を細めて妖精を見つめた。

「青い魔石の器? 魔石に器がいるのか?」

『当然ではありませんか、魔石の強すぎる力が暴走しない様に、収める器が必要なのですよ。お前は、それを持つ者に相応しい……』

 妖精は、ガリアの方へ手を振り上げた。細かい金の粉が、ガリアの周りをキラキラと輝きながら回っている。ガリアの腰の辺りに、金の粉が集まってきた。剣の柄の端に、親指の先ほどの穴があいた、そこに金色の粉が入り込み、綺麗な金色のくぼみを作り出した。

『青き剣士、お前の剣は、青の魔法の剣であり青い魔石の器となった。決して奪われるのではありませんよ……』

 ガリアは、自分の剣をしげしげと見つめ直していた。シャンと旅立つ前に、ダルタがくれた青の魔法と、妖精がくれた青い魔石の器……自分を青の剣士と皆が呼ぶ事実。全てが青と結びつく……ガリアは、アクアリスの青い海とシャンの青い瞳を同時に思い出していた。

「全てを守りたい……」

 そう言って目を閉じたガリアを、妖精は微笑みながら見ていた。

『さぁ、行きなさい……名を隠す者の待つ場所へ……そして、あの子に伝えるのです。青い魔石ブルーストーンはシャン自身の心の中にあると』

 その言葉を聞いた瞬間、ガリアの目の前はぐるぐると回り始めた。息をするのも苦しくて、目も開けていられず、何が起こったかも分からなかった。ガクッと膝をつくと、ふらついて地面に手をついた。その時、ガリアの頭の上で盛大に鼻を鳴らした音が聞こえて、首筋に濡れた感触があった。

「グロウ……鼻水は飛ばすんじゃない……」

 顔を上げたガリアの目の前に、グロウの歯をむいた顔があった。

「ただいま、それと直ぐに出発だぞっ」























 


西の谷の妖精、彼女が言った言葉……

『青い魔石ブルーストーンは、シャン自身の心の中にある』その意味とは?

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