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ブルーストーン  作者: 海来
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1話 出会い

オーゴニア国の第5王子、ガリアは初めての一人旅で、迷ってしまった。

 鬱蒼と生い茂った木々を払いのけながら、一人の剣士が深い森を抜けている。     

 彼の名は、ガリア・レクタルト。

 背は高く、細身の身体には筋肉が盛り上がっているであろう事は、捲り上げた服の袖から伸びた腕の、美しい筋肉が物語っている。

 年齢は、18歳になったばかりで、長旅に出るのはこれが初めてだった。

 北のオーゴニア国の第5王子で警備隊に所属しているが、今は自国の父王から、南のアクアリス国への書状を届け終え、自国への旅の途中である。 

 ガリアの父は、王子でも厳しく外の世界で育てる事を良しとして来たため、5男であるガリアは、幼い頃から警備隊の総大将の屋敷で育てられ、結構な自由の中で育った。

 今回のこの任務も、自分から買って出たもので、父王も、護衛の一人もつけずに国を出してくれた。

 これも、一重に兄達が大勢いるからこそと言うこともあるのだが、そんな気ままな身分を、ガリアは満喫していた……今回の旅もそうだった。

 だが、そんな旅を楽しむ軽い気持から、行きは通らなかった場所をと選んだこの森で、ガリアは迷ってしまったのだ。

 昨夜ねむった場所は、森を抜ける割と大きな道から少し入った木の下に決めた。

 暑さと湿気で寝苦しかったが、日中の疲れから横になって程なく眠りについた。     

 しかし、朝日に目覚めたときには、ガリアを取り巻いていた景色は全く変わっていたのだ。

 彼は何も知らないことだが、彼が眠った木は「移動の木」としてこの辺りではよく知られた魔法の木であり、ガリアを根に乗せたまま、夜中じゅう移動した結果、ガリアは自分の全く分らない場所まで連れてこられたことになる。 

 熟睡しきっていたガリアは、移動中も目覚める事は無かった。

 初めて自国以外を旅するガリアには、旅の知識も、危険もあまり分かってはいなかった。

 夜、熟睡してしまう事は、危険と隣りあわせだと言う事にも、今はまだ気付いてはいない。

「くそっ、暑苦しい森だなっ……どこまで行きャ街道に出るんだっ」           

 かなり南に位置するアクアリス国からさほど離れていないため、気温も湿度もガリアが生まれ育ったオーゴニア国に比べるとはるかに高く、それに加えてこの森は、湿地帯になっており沼も多く、湿った空気がガリアの身体にまとわりついて不快感を募らせていた。

 国で働いている時とは違い、軽めの旅装ではあったが、肌着の上にはクサビ帷子を身につけている。

 これ一つとっても、暑さと湿気は上がってくると言うものだ。

 手の甲で、顎からたれる汗を拭っていると、どこからともなく甘い香りが漂ってきた。  

 甘い果実のような匂いに、ここ二日ほど保存食しか口にしていなかったガリアの喉が鳴った。    

「何の果物だろう……」                               

 ガリアは、匂いに誘われるまま、道無き森の中を抜けて行った。

 少し開けた場所に出てきたガリアは、自分の目の前の光景にあ然となって口を開けたまま立ちつくした。

 ガリアから長剣四振り分ほどの距離をおいた大きな木に、美しい女が吊るされていた。

 透き通る様な白い肌を包む布は、胸元をぎりぎりに隠す程に開き、すんなりと伸びたこれもまた真っ白な足は、裂けたドレスの裾からはみだして足首を縄で縛られていた。        

 蜂蜜色の髪を揺らして上げられた顔は、憂いを帯びて美しく、赤い唇はガリアを誘っているように艶やかに光っている。

 その艶かしい唇が動いた。                             

「助けてください……」

 女の首がフルフルと震えて、苦しそうに懇願した。

 ガリアは、女に見とれながらも、一刻も早く助けようと走り寄った。

「待っててくださいっ直ぐに助けますっ」

「はやく……」

 縄を切る為に女に近付いたガリアは、女の顔が自分にグッと近付くのを感じた。

 息が吹きかかるほどに近い……女の唇が薄く開き、ガリアを誘っているように見える。

 思わず、ガリアは女の唇に引き寄せられる様に、自らの唇を重ねようとした。


 ザシュッ


 ボトッ


 音と共に、いきなりガリアの目の前から、女の顔がなくなった。

 ガリアは、何があったのか分からず呆然となったが、自分の足に何かが当たるのを感じて下を向いた。

「ウワっ!!! なっ何だっ」

 ガリアの足元に、緑色のぬめった肌をした異質な生き物の首が転がっていた。

 大きく開いた口からは、鋭い歯がのぞき長い舌がだらりと垂れていたが、それにはもう既に生気はなかった。


 ガサッガサッ


「…っ…」

 ガリアはいきなりの音に、驚いて振り返りながら剣を抜いていた。

 そこには、ほっそりとした色白の少年が立っていた。

「あ〜あ、せっかく干しておいたのにっあんたがスケベ心を出さなきゃ、こんな事にはならなかったんだっどうしてくれるんだよ」

 可愛らしい、ぱっと見た目に少女にでも見えそうな少年は、ガリアを軽蔑したように睨みながら、ガリアの足元の異質な生き物の黄色い髪の毛を握って持ち上げた。

「これじゃあ、せいぜい滋養強壮薬ぐらいにしかならないっ」

 ガリアは、ブツブツ言いながら、生き物の頭を大きな袋に詰め込もうとしている少年に近寄った。

「これは何だ……」

 少年は顔を上げた。

 薄いブルーの瞳は、相変わらずガリアを軽蔑したように見つめた。

「これは、魔樹の花。生きたまま干して煎じれば、万能薬になる……それを、あんたが駄目にしたんだっどうしてくれるんだ! あと一週間ほどで干しあがったのにっ」

 怒ったように言う少年に、ガリアも段々腹が立ってきた。

「そんなに怒る事ないだろうっそんな事知るもんかっ、俺はこの辺りの人間じゃないし、大体、人が通るような場所で、そんな大事なものを干しておくなっ」

 しらっとした視線が、ガリアを捕らえた。

「ここは、薬師の僕か、森番しか通らない場所だ。こんな所で何してるんだ。森に入る前に、注意事項を読まなかったのか……」

 ガリアは、そんな注意事項が何処に書いてあったのかさえ知らなかった。

「そんなもの見ていない」

「大街道からしか入れない様にしてあるんだ。看板があっただろう……」

「知らない……」

 少年は大きな溜め息を付いた。

「そんなだから、魔樹の花に喰われそうになるんだよっ、魔樹の果実の匂いに騙されてスケベ顔ゼンカイで魔樹とキスするところだったんだぞっ恥ずかしいと思えっ」

 あの時、自分は魔樹のエサになる一歩手前だったらしいと、ガリアは気付いた。

「助けてくれたんだ……スマン、えっと有り難う……」

 意外と素直に頭を下げたガリアに、少年はちょっと恥ずかしそうに頬を染めた。

「いやっ僕がもっと早く点検に来られれば良かったんだけど……ところで、何でこんな所にいるの?」

 ガリアは、昨夜大きな道から少し入った所にあった木の根元で眠って、朝起きたら全く知らない場所でしたと、恥を忍んで言った。

「それって、移動の木って言うんだ。この辺では、よく知られてるけど、寝ながら乗っちゃ駄目だよ……って言っても仕方ないか……っで? どっちに行くつもりだったの? アクアリス国の方? それとも、北?」

 ガリアは、頭を掻きながら苦笑いした。

「アクアリス国から来たんだ……北を目指してる。反対方向に来てなきゃいいけど……」

 少年は、軽く笑った。

「方向違いに進んだみたいだねっ残念でした……此処は、アクアリス国から言うと東側になる……」

 少年は、袋を担いで魔樹を干してあった木から、少し離れた木に突き刺さった斧を引き抜きに行った。

 さっき、自分を助けるために、この少年はその斧を投げたのだ……魔樹に近寄りすぎた自分は、もしかしたら、少年が狙い損なっていれば……殺されていたかもしれない……

 涼しげな薄いブルーの瞳を持った少年は、大振りの斧を肩に担いで振り返った。

「一緒に来る? それとも、一人で北を目指すかい?」

 ガリアは、大きく首を振った。

「待ってくれっ一緒に行く……」

 ガリアは、少年の後ろを付いていきながら、少年の後姿に見惚れていた。

 すらりとした長い足に、少し肉付きのいい尻、柔らかそうな銀色の髪、後ろから見ていると、少年と言うより、細身の女性を思わせた。

 そう、少女ではなく、大人の女性だ。

 服装が、男物の作業服でなければ、少年だとは判断しにくいだろう。

 だが、自分の可笑しな思考に、ガリアはさっき嗅いでいた魔樹の果実の匂いのせいかもしれないと思って、頭を振った。

『男にまで欲情してどうすんだっ』

 頭を、切り替えようと、ガリアは少年に話しかけることにした。

「なァ、お前の名前は?」

「…………」

 少年は何も答えない、聞こえなかったのかと、同じ質問を繰り返してみた。

「おいっ聞こえなかったのかっ名前っ、名前だよっ何て言うんだよっ」

 少年が立ち止まって、振り返る。

「僕は、魔術師の卵なんだよ。不用意に他人に名前は教えられないっ、勝手に好きなように呼べばいい」

 少し怒ったように少年は言った。

「魔術師の卵……って名前を教えちゃいけないのか?」

「そんな事も知らないのかよっ」

 これには、ガリアもムッと来た。

「なんでもかんでも知ってるはずないだろうがっ、俺の国は魔法の無い国なんだっ魔術師のことなんか、何にもしらねーって」

「そうなのか……魔法のない国……もしかして、あんた、オーゴニア国の人?」

「ああっそうだ、って知ってんのか?」

 少年の表情が、ほんの少し曇ったが、ガリアには分からなかった。

「ちょっとだけ……、それで? あんたは何してる人? オーゴニア国の人が、こんな所で何してるの?」

 別に、秘密の作戦って訳でもなく、本当の事を話しても良かったが、ガリアは何故か言うのをためらった。

 幸い、警備隊では一兵卒から入って自分と同じ年頃の連中と寝食を共にする為、言葉遣いも態度も、どう見ても王子には見えない……ここは、そのまま隠しておくことにした。

「俺の国の王様から、アクアリス国に手紙を届けに行ってたんだよ。俺の仕事は警備隊だから、国を守るのが仕事なんだけど、今回は特別。一回旅ってのを経験してみたくってさ、志願したの」

 少年は、ガリアをジッと見ていた。

「ふ〜ん……警備隊ってことは、剣士なんだっ……強い?」

 そう聞かれて、弱いと答える剣士はいないだろう……

「まァまァ、腕はたつつもりだけどな」

「そう……」

 少年は、また歩き始めた……



















                              

少年魔術師に出会ったガリア、取り合えず付いていく事にしたが、名前すら教えてもらえなくて……

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