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12話:扉を開けると

「はじめまして、私の名前はアリシア。貴方の名前は?」

「……アルフォンス」

「アルフォンス!!かっこよくて良い名前ですね!!けれど少し長いです!!正直少し呼びにくいです!!」

「そ、そうかな?」

「そうですよ。というわけで、アルというのはどうでしょう?単に短くしただけですが、私のお気に入りの物語の主人公の愛称なんですよ」

「…アル?」

「…お気に召しませんでしたか?でしたらまた別の愛称を考えますが…」

「いや…、ううん。いいと、思う」

「ありがとうございます!!これからよろしくお願いしますね!!アル!!」






山の朝は冷える。


 ベッドの上で毛布を頭から被って赤ん坊のように丸まる。こうすれば寒さがだいぶマシになる。身体から熱を逃がさないですむ。僕は眠気が覚めるまで、そうしようと思ったがこのままではまた眠ってしまいそうだと気付き、観念してベットから起き上がった。


 背筋を伸ばして、腕を何度か回す。パキ、パキと骨の鳴る小気味いい音が身体の内側を駆け巡った。

 堅いベットで寝ていたせいか、身体が凝っていたようだ。


 身体を軽く動かしたのが良かったのだろう。

 気づくと眠気は嘘のように綺麗に去っていった。


 夢の中で魔王を倒して以降、睡眠の質は格段に良くなった。


 台所に移動して、魔法で作り出した水で顔を洗う。火を起こして簡単な朝食を作る。パンとジャガイモを潰した簡単なサラダもどきが僕の朝ごはんだ。歯を立てて、パンを噛み切る。


 朝食を食べ終わると、食器を洗い、バックを下げて僕は家を出発する。



 山の奥深くは僕は入っていく。

 大地に値を張る草に足を取られぬように注意しながら僕は山中を歩く。朝の澄んだ冷たい空気が肺を満たした。


「これかな?」


 お目当の植物を見つけた。


 薄緑色葉をつけたソレは一見すると雑草のようだ。僕は鞄から一冊の本を取り出す。この地方で採取できる薬草や山菜を絵柄付きで解説している図鑑だった。手元の金が完全に尽きる前に買った一冊だ。僕は目の前の植物と図鑑の薬草が同じ種である事を確認して、根から引っこ抜く。


 この薬草は根を煮出して茶にして飲めば、安眠やストレスの緩和に効果がある。山の下にある街でも、そこそこな値段で取引されていたはずだ。


 僕は図鑑を片手にお金に変えれそうな植物を採取していく。

 2、3時間ほど経過すると流石に飽きてきて、僕は家に帰る。


 家にはここ数日で、採取した薬草がある。それらと今日採取した分を持って近くの町まで売りにいく。片道で1時間近くかかるが仕方がない。そこくらいしか、薬草を買ってくれる所がないのだ。


「こんなに長くいるつもりはなかったんだけどな…」


 町へ向かう道すがら、愚痴が思わず口をついた。



 僕は、こんなにも長くこの山にこもるつもりは無かった。

 というか、そもそもの話ここまで長く生きるつもりがなかった。


 僕の体の中には魔王の力が宿っている。

 魔王の精神は確かに死んだが、その力は僅かではあるが僕の体へと流れ出た。

 其れは魔王の本来の力の総量を海とすれば、ほんの一滴程度の魔力だろう。

 だが、確かに僕は魔王の力を振るうことができる。


 そして、それはつまり勇者であるアリシアの魔王討伐が不完全に終わったということでもある。


 それは駄目だ。

 それは許すことができない。それはあってはならない。


 彼女の業績を汚すことはあってはならない。

 ならば、僕はどうするべきか。

 どう行動し、彼女の重しにならないようにするべきか。


 僕はまず、この魔王の力を誰にも悟られないようにするべきだと思った。

 そして、それは王都ではまず不可能な事だとすぐに気づいた。


 ある程度、魔王の魔力は偽装し隠すことができる。


 事実としてここ数ヶ月間、なるべく人との接触を控えていたとはいえ、ぼくが魔王の魔力を受け継いでいるとは誰にもバレてはいない。しかしそれも本職の魔法使いには違和感を抱かせるだろうう。


 さらに言えば、王都には実際に魔王と剣を交えた騎士や魔法使い達がいるのだ。



 とてもじゃないが、隠しきれる自信はなかった。

 それに、魔王の力を受け継いだ直後は今ほど、魔王の魔力を操ることはできなかったのだ。


 だから、僕はまず王都から去った。


 勇者たちが王都に帰ってくる前に、周囲の制止を振り切って王都を後にした。



 次に自分が生きていることは自体がアリシアの不利になることに気が付いた。


 勇者の力は、魔王を倒すためにある。


 文献では勇者が魔王を倒した後、その力は緩やかに衰えていったという。完全に消えゆくことはないが、総量として半分程度までには落ちたそうだ。


 この世界においても魔王は討たれた。

 結果としてアリシアの勇者の力もいずれ衰えていくのだろう。


 しかし僅かとはいえ、魔王の力は僕の中に残っている。

 となると、アリシアの中の勇者の力は一向に衰えたりせずに残り続けるかもしれない。


 聡明な彼女はやがて疑問に思うはずだ。『何故自分の勇者の力はそのまま残り続けているのだろう?』と。


 そうなると、自分が見つかるのは時間の問題だ。


 世界相手に逃げおおせることができると思う程、僕は己惚れてはいない。


 やがて、僕の存在そのものが戦火の火種になるだろう。


 なにせ魔王の力を受け継ぐものだ。

 僕個人の意志とは無関係に世界は回っていくだろう。



 本当の事は分からない。

 案外、アリシアは魔王の力が残っていることに全く気付かないかもしれないし、気づいてとしても僕が見つかることは無いのかもしれない。


 すべては丸く収まってハッピーエンドになるのかもしれない。


 ただ、自分の存在が彼女と世界にとっていい結果を運んでくるとは到底思えなかった。


 結論は案外簡単に出た。


 僕は自分でも驚くほどすんなりと、その言葉を口にできた。


『----よし、死のう』




 だが、魔王の魔力は僕に死という結末を許さなかった。


 崖から飛びおりれば、魔力がクッションとなりその身を守った。

 水辺で溺死しようとすれば、その湖は気づくと干上がっていた。

 毒物を飲めば、すぐに治癒が始まった。


 それらの魔力の迸りは、全て僕の意志とは無関係だ。魔王の力は所有者である僕を何が何でも守る気らしい。



 最悪、人目を忍んで一生を終えることも覚悟しなければならない。

 そういえば自分の寿命はどうなっているんだ?


 僕の身体は魔王から受け継いだ魔力によって、常人を遥かに超える耐久性を持っているけど、その寿命迄は分からない。


 最悪、死ぬこともできない可能性もあり得る、か?


 僕は体力はそれほどある訳ではなかった。同年代の騎士と比べるとひどいものだった。


 そもそもこの世界の才能ある剣士は魔力で己の身体を強化しているのだ。

 魔力の無い自分はスタートラインが違い過ぎた。


 ところが、魔王の魔力を受け継いで以降、僕は息切れをすることがなくなった。最初の頃は、魔力に身体の筋肉が追いついていなかったのか、スタミナに反してよく筋肉痛を起こしていたが、最近では身体が勝手に筋肉や骨自体を魔力で強化する事を覚えたのだろう。それらにも縁がなくなった。


 魔王の魔力は1日ごとに身体に馴染んできている。

 


 それが何より恐ろしい。




 そんな事を考えながら僕は年季の入った古びたドアを開ける。


 既に薬草は街で売り払い、今はその帰りだ。真っ赤な夕焼けが眩しい。


 ドアを開けるその瞬間、僕は身構えもしてなければ警戒もしていなかった。



 結果として、僕の呼吸は一瞬止まる。


 そこに1人の少女がいたからだ。


 彼女は椅子に腰かけ、僕の帰りを待っていた。

 少女の桃色の唇がゆるやかな弧を描き笑みを形作る。




「お帰りなさい、アル」



 僕は、何度か瞬きしてようやく声を発した。

「……ただいま、アリシア」


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