6話 魔闘魚とスリ
大人気だった竿の配布を終えた後は、すぐ部屋に戻った。
ベッドに倒れこむと、そのまま深い眠りについた。
目を覚ますとアレクがいた。俺の顔を覗き込むようにして立っている。
俺が男を好きなわけない...じゃなくて
「なんでここにお前がいるんだよ‼」
目覚めて10秒と経っていないので若干かすれた声で怒鳴った。
「いやあ、あの道具は素晴らしいよ。見てくれ、こんなに釣れたんだ。」
アレクは悪びれもせずにそういう。見せられた袋の中には沢山のキスとカレイが入っていた。
というかこんな豪華な家具があるところに魚を入れんなよ。俺のジト目をまるで気にせずに、
アレクはさらに続ける。
「釣果はキスが23匹、カレイが6匹だよ。いやあ、夜通し釣った甲斐があったなぁ」
結構釣れたな。というか人の話聞けよ。ジト目を継続させていると、急に真剣な表情になった。
「でね、キスの数掛けを狙ってたら竿が海に引きずり込まれて行ってね。慌ててアワセたけどこの有り様だよ」
見せられた仕掛けは2本あるうちの針の片方が綺麗になくなっていた。
「僕はね、これは魔闘ヒラメだと思うんだよ。あの場所だとそれしか心当たりがない」
魔闘魚。意外と近くにいたな。よし、釣りに行くか。時間は今日の晩でいいだろう。
幸い投げ竿には大物用にPEの3号を巻いている。あとは泳がせ用の仕掛けを使えばいいだろう。
この際不法侵入と寝顔を見たことは不問とする。
「よし、ならば今日の夜はそれで決定だな。アレク、用事はあるか?」
すると喜びをあらわにして
「もちろん空けているさ。魔闘魚釣り以上に大切な用事はないさ。
それに、前食べたときはかなり美味しかったから、今回も食べるのが楽しみだ。」
釣る前提なのね。そう思い呆れていると
アレクは電源が切れたように意識を失うとベッドの上に倒れこんだ。
「魚を釣った服装で寝るなああああああああああああ」
俺の絶叫が王城中に響き渡った。
ちなみに俺は食事を食べる前に用意してくれていた服にタオルで体を拭いてから
着替えていたので魚臭さはない。
何事かとメイドさんと執事さん(初見)が数人駆け込んできたので事情を説明して対応を丸投げにした。
執事がアレクを運び出していると、少女が食事ができたと俺を呼びに来た。
メイドさんと執事たちにしたような説明を少女にしながら食堂へと向かった。
今日は昨日話さなかった人たちとも話した。全員がなかなかフレンドリーだった。
俺としてはカーラさんとお近づきになりたいですグヘヘ。
は!いかんいかん。今のは聞かなかったことにしてくれ。
食事が終わると、少女が部屋に送ってくれた。礼を言うと、
今日はすることがなければ城下町に行こうと誘われたので、
午前中は少女と城下町に行くことにした。もちろん午後は就寝タイムだ。夜に備えないとな。
すぐに出るから待って居てくれと言って部屋に入ると、ベランダに行き、昨日干しておいた竿をしまう。
朝はアレクのせいでできなかったしな。
部屋を出て待って居た少女とともに城を出て、城下町に向かう。
近付けば近付くほど喧噪は大きくなっていく。
入り口にいた警備兵に挨拶をして、中に入っていく。
朝の10時ぐらいの時間だが、結構にぎわっている。
城下町には屋台や料理、宿、漁の道具屋、釣具店などがあった。
入ってすぐに屋台で買った白身魚を焼いたものを食べていると、大男にぶつかられた。
すぐにポケットの中を手で探るが、・・・・ない。スリだ。
どこの世界にも、そういう人はいる。だが、金貨2枚だと授業料にしては高すぎる。
まあ、全財産をポケットに入れていた俺が悪いとも取れるが。
追うか。なけなしの体力でも、初日に取得したスキルがあればどうにかなるはずだ。
「俺は奴を追う。姫様は入り口にいた警備兵に知らせてくれ。」
「え?ちょ、待ってくださいよぉー」
決めたからには即実行だ。
スキルアクティベーション!!<身体強化>!!
俺は混雑した大通りを走り抜けていく。<身体強化>は、5分間身体能力を1.5倍にするという
10ポイントで取得できるのが不思議なぐらい優秀だ。
幸い大男は目立っている。少しずつではあるが、距離を縮めることができている。
男が裏道にそれた。俺もその後を追う。大男は後ろを振り返ると、まさか子供の俺に
もう5メートルのところまで接近されているとは思っていなかったのだろう、大きく目を見開く。
驚いているところ悪いが、俺はそんな隙を逃さない。
スキルアクティベーション!!<土魔法>!!
手から500グラムの砂を出すというはっきり言ってゴミスキルだが、こういう時には役に立つ。
属性魔法は4つすべて取っておいてよかったぜ。やっぱり男はロマンだよな。
500グラムの砂が大男の目に襲い掛かる。とっさに目を閉じたようだが、
前を見ていなかったせいでバランスを崩した。目に見えて速度が落ちる。
そして俺の手は大男に届く。そのまま取り押さえる。
すると大男は俺を恨めしそうな目で見てこう言った。
「貴様...なぜ俺に追いつける」
「誰が答えるかハゲ。おとなしく金貨2枚返せやオラ!」
ハゲかどうかは置いておいて、はたから見れば俺が加害者にしか見えないセリフで男の言葉に返す。
すると沢山の足音が聞こえてきた。こいつの仲間とも思ったが警備兵だった。
大男は警備兵に引き取ってもらい、詰所で捕られた金貨2枚と、大男が常習犯だったため
懸賞金(?)として銀貨5枚を貰った。
にしても懸賞金五千円は少ないな。そりゃあ某海賊アニメのトナカイよりは高いけどさ。
手続きが終わると、少女が駆け寄ってきた。
「もう、心配したんですからね。急に走らないで下さいよ。」
「まあ、そちらの立場的には魔王を釣るために呼ばれた勇者に簡単に死なれたらまずいだろうからな。」
「違います、そんなんじゃないです。本当に心配したんですからね!」
ふと横を見てみると、警備兵がこちらを見て笑っていた。俺たちは見世物じゃあないんだぞ。しっし。
まあ、そんじゃあ気を取り直して城下町の続きを見ますか。