34話 謎の声・船上鬼ごっこ
加筆修正終わってないですけど投稿です。
「島がある、だと...」
そう、その先には島があったのだ。
修理をしているアレクたちの喧噪が徐々に遠のいていく。
その間にも霧はどんどん晴れていき、生えているココナッツに
酷似した木の一本一本が鮮明に見えるようにまでなった。
果たしてアレクたちは本当にあれが見えているのだろうか。
「~~~~ッ!」
だんだんと鮮明になっていく俺の視界は、
”動くもの”を捉えた。木々の奥にいてよ
く見えないが、あれは...二足歩行?人間か?
その立ち姿を凝視していると、動くもの・・・
いや人間と目が合った。
遠目にもギョッとしているのが分かる。
思わずクスリと笑ってしまった。
・・・まてよ、あの姿は...
「な、何だ!」
その正体を思い出しかけたところで、
すっかりとなくなっていた霧がどこからとも
なく立ち込めてきた。
「ま、待てッ!」
必死に叫んでみるが、
霧に言葉が通じる訳がない。
そもそも通じたとしても
待ってはくれないだろう。
止まれと言われて止まる
泥棒がいるだろうか。
それと一緒だ。
「それよりアレクに伝えねば!」
本来一番初めにするべきことを思い出し、
船室の方へと振り向いた瞬間。
「眠れ、<スリープ>」
耳元に無機質な、感情というものを
一切感じさせない声が響いた。
途端、手足の先からだんだんと感覚が
消えていくのが分かった。声の主を
確かめようと即座に振り向いたが、
俺の脳がそれを捉える前に意識を
失った。
「・・じょ・・か!」
「だ・じょ・・か!」
「大丈夫かと聞いているんだ!」
その声で俺は目が覚めた。
「たしか、船が座礁して、それから...」
駄目だ、そこから先の記憶がない。
「全く、庄司さんってば
面白い倒れ方するよねぇ」
「なんてったって僕が見た時は
うつ伏せながらも顔は後ろ
向きになってたからね」
「しかも口から泡はいてて、
極めてんのかコイツと思ったぜ
ヒャッハー」
「そんな風に組み伏せられるのも
ありかな///」
何だ、その失礼な言い様は。
約一名変なこと言っているし。
そもそも何で俺は倒れていたんだ。
ともかく...
「お前ら全員ブッ飛ばすッ!」
「わ~庄司さんが怒ったぞ、逃げろ~」
シュタタタタタタタ
全員が蜘蛛の子を散らすように逃げて...
「お願い、します///」
「うっせええ黙れこのドMがァッ!」
反射的に<身体強化>が発動し、
盛大に空高くブッ飛ばした。
それで喜んでいるのだから救いようがない。
「さてと...」
Mの人がエキセントリック全身強打する音を
bgmに。アレクたちへ
宣言する。
「鬼ごっこの、始まりだっ!」
海面を震わすほどの声量で叫んだ。
そして甲板を蹴り、船室へ。
「まずはマスコット!お前が奥深くに
逃げるふりをして、ここに隠れて
いるのはわかってんだよ!」
入ってすぐの場所にある樽が一つ震えた。
カマを掛けただけだがビンゴだったらしい。
すぐさま引っ張り出す。
「俺が悪かったヒャッハー」
全く申し訳ないという感情を感じない。
むしろ「テヘぺロリン♪」と言いたげな
雰囲気を感じる。
空きっぱなしの船室の扉を通って
甲板に連れ出し...
ブッ飛ばす!
「ヒャッハーッ!!!」
あれ、なんか喜んでる。
世紀末では逆バンジーが流行っているのか。
肩透かしを食らった気分だ。
ま、まあいい。
再び船室へ。
「次に料理人!厨房に隠れるとか分かりやす
過ぎだっ!この俺を欺きたいのならもっと
隠れる場所を捻れ!」
は、反応がない、だと...
チッ、料理人だから厨房だと安易な考えを
抱いた俺が悪かったのか...
「クスッ」
「!?」
笑い声がした方へ目を向ける。
そこは陰になっていてよく見えない。
凝視していると、影の中から人影がヌッと
立ち上がった。
「プ~クスクス、庄司ってば恥ずかしいこと
言っちゃって。全く、僕の腹筋を返して
欲しいよ。何が『もっと隠れる場所を捻れ!』
だよ。アハハハ、アーッハッハッハッハー」
「き、貴様ァ!」
プチプチプチッ。
俺の中で何かが切れる音がした。
怒りメーターは沸点に達した。
もう、許さねぇ。
とっとと捕まえて、
「ブッ転がしてやる!」
かつて俺は友達に言われた。
『ぶっ殺すって人聞き悪いよね。先生に見つ
かったら絶対にこっちが悪者になっちゃうよ
ね』と。小心者...平和主義者の俺は、
それからその言葉を封印した。
だから、”ぶっ転がす”は今の俺の最大限の
怒りを表す言葉。
それを引き出したアレクには、それ相応の
報いが待っているだろう。
「<土魔法>!」
「え、ちょ船の中でそれは」
500グラムほどの砂粒がアレクを襲う!
「うっ!」
アレクは視界を奪われる。
その隙を見逃さず、距離を詰める。
「なんてね、<盲目>!」
「うがああああっ!」
アレクは手で顔を覆って砂を防いでいたらしい。
距離を詰めた勢いのまま、今度は俺が視界を
奪われ、その勢いのまま壁に激突し、数々の
調理器具が床に散らばった。
「小手先の技では本家には効かないんだよ、
知ってたかい?」
う、確か盲目とか言うスキルはあった気が
するが、必要だとは思わなかった。
俺が痛みに苦悶の声を上げている間に、
散らばった調理器具をひょいひょいと避け
ながら、アレクは逃げて行った。
「ちくしょーめ!」
今なら相当閣下の気持ちが分かる。
境遇は全く違っているが。
まさか相当閣下も異世界に飛ばされた釣り人に
同情されているとは考えもしなかっただろう。
数秒後、視界が回復する。
すぐにアレクの後を追う。
調理器具が散らばったままだが、気にしない。
足音で大体向かった先が分かる。
上だ。
ここ数日間の漂流のお陰で、
船の大体の構造はわかっている。
記憶を頼りに上への最短ルートを弾き出し、
その通りに駆け上がる。
マスコットを捕まえた部屋まで上がり、
扉を開け放つ。
そこにいたのは...
「ふっふっふ。待っていたよ庄司。
さあ、決戦を始めよう」
「<ウィンドボール>」
「え、ちょ、ま」
ドカァァァァァン!
海を背に仁王立ちするアレクに、
ボール系最速の無慈悲なウィンドボールが
叩き込まれる!
結果は言わずもかな。
海を背にしたのが仇だったのか、
爆発と共に海上へと投げ出された。
そして、数度海面を水切りの要領で
跳ねると、そのまま海の藻屑となった。
「ってだめじゃん!」
すぐに救助する。
アレクは「卑怯な...」とひたすら呟いていた。
俺としては”ブッ飛ば”せて、”ぶっ転がす”
ことも出来たので大満足だ。
アレクとの決闘は、
俺の大勝利で幕を下ろしたのだった。
「あのぉ、私は?」
いつぞやの国王のような虚しさを孕んだ声は、
誰の耳に届くこともなく波の音にかき消された。
ストックあるんで覚えていたら明日も投稿します。
↑おい
ストックって、書けば書くほど一話が短くなっていくよね。
マジ不思議だわ~(サボり癖)




