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閑話  兵士の憂鬱

本作初の閑話です。

王城での第三者視点です。


今日の6時にも短めの閑話を投下します。

そちらもぜひ見ていってください。


 ―――――第三者視点



 ツカツカツカツカ



 「庄司さんはまだですか...」



 ツカツカツカツカ



 「ひょっとして港についてたり...」



 ツカツカツカツカ


 ガリムが海に落とされた日の夜。


 エリカは今、城の入り口でホホジロザメ釣りメンバー

 ――――特に庄司を待って居た。

 そこには警備の兵士が2人いるだけで、

 音はエリカの歩く音と時たまにする

 呟き以外は静寂を保っている。



 ツカツカツカツカ



 「そうだっ!」


 エリカは何かを思いついたようだ。

 嬉々とした足取りで警備の兵士のもとへ向かう。


 「兵士さん、港に庄司さんの船があるか見てきて

  いただけませんか?」

 「ひ、姫様。自分は任務がありますので...」


 兵士は王族が一回の兵士である自分に丁寧な口調で

 話しかけてきたことに驚き、そして喜びを感じなが

 らもマニュアル通りの返答をした。


 その顔は苦しげで、一瞬の内ながらもエリカの願い

 を叶えるかどうかを迷ったらしい。


 本当は行ってあげたいという気持ちがひしひしと

 伝わってくれる。


 あと一押し。エリカは目を潤ませ、手を体の前で

 組み、兵士を見上げた。何故かこの方法ならほぼ

 100%で国王を撃墜できる。エリカは不思議に

 思いつつも、使えるものは何でも使ってやる精神

 で乱用している。


 このことを知れば、国王は震え上がるだろう。

 なんせ小学生ぐらいの年の少女にいいように

 使われているのだ。


 「ダメ...ですか?」


 エリカの必殺上目遣いアタックは兵士の命令

 順守の精神を粉々に打ち砕いた。



 「わかりました姫様!行ってまいります!

  おい、後は任せたぞ!」



 兵士は顔を赤らめながらも敬礼した。

 そしてこの状況でしわ寄せがくるのは、

 後を任されたもう一人の兵士だ。


 一人しかいないため増援を呼ぶわけにもいかず、

 かといってそのままだと何かあった時に対応できない。

 でも姫様にそのことを告げるのは恐れ多い...


 モヤモヤが兵士の中で渦巻いでいた。


 


 ガチャ



 扉が開いた。

 増援が来てくれたのか。

 兵士の顔に安堵の表情が浮かんだ。



 「おおエリカ、そこにいたのか」



 護衛対象が一人増えただけだった。



 ちゃうねん。

 お前やないんや。

 何が悲しくて夜に親バカを警護せなあかんのや。


 ・・・そいうえば妻と娘は元気にしているのだろうか。

 はああ。ん?そう言えば今日警備しているのも

 さっき言ったやつから頼まれたからじゃないか。

 ・・・よし、今夜の晩御飯はあいつのおごりだ。

 城下町一の高級店で高いものから順に頼んでやろう。

 あいつは妙に貯金癖があるからな。ミスリル貨ぐらい

 持ってるだろ。

 ふふ、あいつの絶望する顔を想像すると...

 フフフ、ハハハハハハッ!


 警備の兵士が怪しげなことを呟きながら右手で

 頭を押さえている間にも、国王とエリカの会話は

 続いてく。

 

 「聞いてる?エリカ?」

 「駄目です」

 「パパはまだ何も言って」

 「駄目です」

 「・・・さっき兵士にしていたやつを」

 「駄目です、というか見ていたんですかこの変態」

 「偶然視界に入ってしまったのだよ...」

 「・・・父上は30分ほど前から扉の奥にいましたよね」

 「パパが悪かったです本当に申し訳ございませんでした」

 「というかいい加減一人称パパはやめてください」

 「エリカがパパと呼んでくれれば」

 「いい加減にしろこのクソ変態覗き魔父上」

 「酷い」


 そこで、国王は怪しげな警備兵の存在に気付いた。


 「フフフフ、ハハハハハハッ!」


 国王はいくばか真面目な顔になって訪ねた。


 「あやつ...中二病か?」

 「さあ、サタニストでなければ良いのですが」

 「・・・初耳じゃぞ」

 「今日ジョニーさんが教えてくれました。何でも

  王国の貧しいところでは魔王を信奉する人たちが反乱

  を起こしたそうです」


 ※1話、5話を参照。ジョニーは外交担当


 「何それ怖い」

 「幸い直ぐに鎮圧されましたが、このことがきっかけで

  魔王を信奉する人の存在が知られたそうです」

 「増えそうじゃの」

 「はい、我が国も気をつけないとですね」

 「ところであ奴はどうするのじゃ」


 怪しげな笑みを浮かべている兵士を指さす。

 

 「放っておきましょう」

 「そうじゃの」


 奇しくもこのときだけは意見が一致する親子だった。


 「あの人が帰ってくるまで中で待ちますか」

 「ついでにパパと遊」

 「駄目です」

 「パパが悪かったから許してくれええええっ!」

 

 エリカと国王が扉の奥に消えた直後、王城内外に

 国王の叫び声が響き渡ったのだった。



 「ハハハハハハッ...ん?」


 残された警備の兵士は叫び声で我に返る。

 

 「増援を呼びに行くか...」


 警備の兵士は猛ダッシュで闇に消えた。



 ―――――15分後



 「ハアハア、暇様!ただいま戻りました!」


 警備の兵士は不敬罪で突き殺したい衝動に駆られた。

 姫様を疲れているのか暇様と呼んでいるし、あの

 気まずい雰囲気も味わなければならなかった。


 増援に来た兵士も憎しみのこもった視線を向けている。

 当然だろう、先ほどから娘と妻の名を繰り返していたのだから。


 「不審者め!ここは王城ぞ!すぐに引き取れ!」


 半分からかいも込めて槍を突き出した。


 「おいお前...俺のことを忘れたのか?たったの15分だぞ!?」

 「冗談だ、中に入れ」


 笑いながら槍を立て、扉を開ける。


 「目が笑ってないんだけど!?それにさっきの槍筋今までの

  訓練で見たことないほど鋭かったぞ!?」

 「気のせいだって、というか今夜の晩飯俺に奢れよ」

 「俺もだ」


 帰りを妨害された増援も口を挟む。

 ・・・こいつ無口キャラだったよな。

 よほどストレスがたまっていたのだろう。



 その後、まだ帰ってきていなかったと聞いた

 エリカは大いに悲しみ、伝えた兵士が思わず


 「え?俺何かした!?」


 とタメ口で聞いてしまうほどだった。


 そして、翌朝にはその兵士が青白い顔で

 出勤し、何故かより一層貯金癖が強まったそうだ。


 同じ日、残されていた兵士と増援に来た兵士は

 満面の笑みで家族との休日を過ごすのであった。





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